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リアクション
エネミーイコン
「なるほど、目がええっちゅうわけか。AIならではやね」
大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)は少し感心した。
エネミーイコンの種類は雑多で、通常機は白色、強敵機は赤色で識別されている。そのうちの通常期、イーグリッドの背後にトレーロがワープしたのだが、素早く振り向かれビームサーベルで切りかかってきたのである。
迎撃行動自体はトレーロは軽く回避したが、人間であったならここまで素早く背後に対応はできないだろう。恐らく周辺の機体、あるいは会場に阿呆みたいに設置されたカメラなどから参加者の機体の位置を把握し対応しているのだろう。
「かくれんぼでは勝てそうにないな」
讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)が冗談めかして言う。ワープの利点である相手への幻惑効果は望み薄のようだが、であれば互いの間合いを無視できるという部分に重点を置いて運用すればいいだけで、さしたる問題は無い。
「ま、かかし相手じゃ錬度はあがらんししゃーないなぁ」
演習は実戦に近ければ近いほどよい。であれば、心理的な部分もこの大会で練習したかったが、それは後半戦に持ち込むべきか。
とりあえず、パンチで目の前の機体を撃退する。
「これで一点、と」
通常機の得点はこれでもかという程低い。
「個々の動きには影響は少ないけど、部隊としてはやっぱりがたつくわね」
トレーロの周囲に居た二機の通常機が次々と火を噴いて膝をつく。こちらに向かいながら、高崎 朋美(たかさき・ともみ)のゼフィロスがシールド一体型ライフルで丁寧に撃ち抜いたのである。
「目は複数でも手も獲物も限度があるさかいな」
「崩すというのは十分通用するか」
まだ大会開始から数分と経っていないが、ウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)は僅かな手応えのようなものを感じていた。
この大会はお祭りではあるが、同時に巨大な実験施設でもある。AIによるイコンの運用研究の場であり、かたや自分達にとっても大規模な戦場における小隊行動の試験運用の場でもある。
「色々試すには、いい機会だ」
エネミーイコンのほとんどは、退役したであろう旧式のイコンだが、それが全てではない。配置された戦艦型や、恐らくテスト用の見た事もないイコンの姿もある。
「さて、作戦通りに周囲の掃討が済んだら戦艦を狙ってポイントを―――」
「すごい速度で接近する機影がアルよ」
通信は、後方に配置されているロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)のソプラノ・リリコから。
「了解、こっちでも確認したわ」
赤色の機体、強敵機。見る限りは、プラヴァーの高機動パック仕様なのだが、速度はデータよりも速い。
「さっきと同じ動きでいくで」
まずトレーロが背後にワープ、すると強敵機はその時点でかなりの速度だったがさらに加速する。背後から見る高機動パックの噴射は大きく、機体全体を覆い隠すほどだ。
近接に持ち込むのは不可能と即座に判断し、ライフルで狙うが後ろに目があるようにするりと回避される。実際、背後に目があるのとそう変わらないだろう。
そうしている間に、あっという間にゼフィロスに肉薄する。
「いくわよ」
まずは正面から互いの近接武器が、新式ダブルビームサーベルとMVブレードが交差する。押し合いの形にはならずするりと横へ滑るように動き、プラヴァーは背後を回り込む。ゼフィロスもそうはさせじと振り返りながら再度ビームサベールを横になぐ。
「手応えって、え?」
ビームサーベルは機体の半分まで食い込んで止まっている。だがその機体は先ほど破壊した通常機であり、ビームサーベルは強敵機には届いていない。
強敵機は盾に使った通常機から手を放すと、その場で回転、遠心力を乗っけた回し蹴りをその盾にした通常機に叩き込んだ。当然、盾はゼフィロスに向かってくる。互いの大きさはほぼ同じで肉薄した距離、回避は難しい。かといって受けていいかというとそうでもない。こちらがバランスを崩したところで強敵機がとどめを刺しに来るだろう、回避したとてどのみち強敵機にとっては十分し止めるに値するだけの隙をさらす。
「ま、そうはいかんのやけど」
ぱっと強敵機の側面にトレーロが姿を現す。強敵機はこれにも当然対応、振り払うようにMVブレードが向かって来るが、織り込み済みであると泰輔はビームサーベルで防ぐ。
「今やで」
声と銃声はほぼ一緒、後方のソプラノ・リリコのウィッチクラフトライフルだ。
驚いた事にこれにも強敵機は対応しようとするも、トレーロがビームサーベルを押し込んでそれを阻止し、弾丸は高機動パックに直撃した。
「おーのー、本体に当たらなかったね」
ロレンツォの嘆き、が、それはすぐに無かった事になった。たった一発当たっただけで、高機動パックは大爆発を起こしたのだ。トレーロは即座にワープで、ゼフィロスは盾が盾の役割を果たして無事だったが、これを背負っていた強敵機はどうしようもなく一撃で大破した。
「あ、五点入ったわね」
アリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)が自機の点数を確認する。五点、確かに獲得していた。
「これなら退屈せぇへんな」
「解説の鈿女さん。今の超早い機体はわかりますか?」
「資料があるみたいね。あれは、高軌道パック乙型試作機で、機動力に全てを注ぎ込んだような機体ね。貧弱な装甲は……木製バットで殴ってもひしゃげるってあるんだけど……」
「ダンボール製品かな?」
「御覧の通り凄いピーキーな機体で、試作機が少し作られた段階で開発終了したそうよ。テストではテストパイロットが急加速に耐えられずに失神する事故が多発したみたいね。さっきの動きは、無人機ならではってところかしら」
「なるほどー、よくわかりませんが、この大会にはそんな試作機や実験機がいっぱい出場してるみたいですよ」
それはつまり在庫処分じゃないかしら、というのは当然鈿女は言わないでおいた。
「しかし、さすがは歴戦のイコン乗り、エネミーイコン相手に皆さん危なげない戦いを繰り広げてますねー」
「面白い戦い方の参加者がいるみたいよ」
中継映像は、試合参加者も見ようと思えば見る事ができる。
メイ・ディ・コスプレ(めい・でぃこすぷれ)とマイ・ディ・コスプレ(まい・でぃこすぷれ)の二人は、ダスティシンデレラver.2のコックピットで映像を流していた。
「あ、私達が映ってるよ」
中継映像に自分達の機体が映し出される。
「綺麗なブリッジだね」
綺麗なアーチを描いてブリッジをするダスティシンデレラが映し出されている。
「ってそんな場合じゃなかった、くるよ」
周囲を取り囲むようにして近づいてくるのは通常機が四機、AIで動いているはずの彼らは、しかし少し戸惑っている様子が窺える。
何故あの機体は唐突にブリッジをしたのか、何故あの機体は頭で体を支えて両腕を偉そうに組んでいるのか、機械であるAIにはダスティシンデレラの奇行に意味を見出そうとして、しかし当然答えがでずに様子を窺ってみたのである。
通常機に搭載されているAIは、技術班が参加者全員をリタイアさせるつもりで組んだとびきり優秀なものだ。データリンクを行い、空間の歪みですら察知する。初動から敵の動きを予測し、対応反撃を行い、常に参加者のイコンの行動を更新し対応する。
優秀で有能で最先端なAIは、当然ダスティシンデレラの行為には意味があると解し、対応しようとしたのである。
「で、どうすればいいのかな?」
「とりあえず動かしてみようか」
ダスティシンデレラは中古のシュバルツ・フリーゲのフレームに大荒野で拾ってきたジャンクパーツで構成されており、時折ばぐった動作を行ってしまう事がある。
今のこれがまさにそれである。
「お、動きがあるみたいですよ」
中継映像が告げる。動きを開始したのはエネミーイコン達で、ビームサーベルを振り上げ、アーチの中央から真っ二つにするつもりのようだ。
「あれ? おっかしいなあ」
コックピットの中でメイがなんとか動かそうとしてみるものの、ダスティシンデレラは反応がない。
もう間に合わない、そんな時になってついにダスティシンデレラは動き出した。向かってくるエネミーイコンに顔を向けると、組んでいた腕を解き、地面につき、両足を地面から離すと頭を中心にぐるんぐるんとコマのように回り始めたのだ。
ある程度勢いがついたところで手を再び組み、その姿勢でぐるぐると回転を続ける。その技はまさしくヘッドスピンであった。
勢いが落ちてきたところで腕を使って回転を止めて、ポーズもしっかり決める。
「うわああああああ」
「きゃああああああああ、と、止まってぇぇぇ!」
コックピットの中は当然、鋭い回転でシェイクされている。なんとか止めようとメイとマイは必死になって、パラ実イコン式のボタンを連打した。
するとどうだろう。よっこいしょ、とでも言いたくなるような動作で立ち上がると、棒立ちするエネミーイコンに一発ずつウィッチクラフトライフルで撃破していった。
「AIの虚をついた見事なムーブメントでしたね」
中継の解説がそう語る。
「私達、見事だったみたいよ」
「と……当然よ……」
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