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ファイナルイコンファイト!

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終幕の合図


「さて、どこまでやれるものか」
 乱入機の登場から間もなく、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)はすぐさま自分のパートナーの姿を確認した。
 乱入機が参戦するのは、試合終了五分前。強気な彼のパートナーは、この僅かな時間で参加者を全滅させ、乱入機による頂上決戦だなんて言っていたが、果たしてどうなる事やら。



「よし、突っ込むぞ」
 夏侯 淵(かこう・えん)はターゲットを見据えて、レイを急加速させた。
 ターゲットは、{ICN0004496#ソーサルナイト?}。パイロットは、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)だ。
 向こうの素早くこちらを捕捉すると、ウィッチクラフトキャノンで仕掛けてくる。レイも二連機砲を連射、違いに射撃をしながらも接近する速度は緩めない。
「くるよ、お兄ちゃん」
「ああ、迎え撃つ」
 金色に輝くソーサルナイト?は、カナンの聖剣を構える。
「そうくるか」
 ある程度距離が縮まったところで、突然レイが加速する。手にはデュランダルが握られている。
 交差は一瞬、会敵から交差まで、違いに全く速度を緩めるどころか、加速までしたこの戦いは十数秒で、決着はしなかった。
「浅い」
「仕留めそこなったわね」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は後ろに流れていく敵機影を確認しつつ、かつ正面の敵に切り替える。
「今日は、勝たせてもらうよ!」
 前方には煙幕、そこからマジックカノンが飛び出してくる。正確な射撃だったが、これを回避すると、
「そう避けると、思っていた」
 煙幕をぶち抜いて飛び出してくるは、アンシャール、パイロットは遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)だ。
「ところがこっちからも見えてたんだぜ?」
 補助座のカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が応える。操縦に補佐にと忙しい二人とは別に、索敵ができる補助席からしてみれば煙幕など目暗ましにもならないのだ。
 渾身の一撃であった暁と宵の双槍は、空しく虚空に突き出される。
「ほんとはもっとコンボを組みたいところだけど」
 淵は伸びきったアンシャールの腕を掴むと、歌菜と羽純の視界が反転した。外から見ていれば、これが綺麗な小手返しであった事がわかるだろうが、二人にしてみれば何が起こったのかを把握するのには少し時間が必要だった。
「やられた、でも!」
「ああ、損害はほとんどない」
 間合いこそ離れたが、機体へのダメージは少ない。
 レイはアンシャールにトドメを刺しには来ず、加速を緩めず煙幕へと進んだ。淵達には、この煙の向こうで向かってくる次の影が既に見えていたのだ。
「布都御魂、解放! いざ、勝負!」
 最初の一撃は、お互い煙幕の中。デュランダルとデュランダルが衝突するエネルギーで煙幕が吹き飛ばされると、レイとつばぜり合いをする魂剛の姿があらわになった。
「このまま、押し切らせてもらう!」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が宣言する通り、パワーで勝る魂剛は、レイのデュランダルを押し込み、そのまま切り伏せんとする。
 文字通り火花が散る押し合いの最中、その中心からは一つの歌が澄んだ音色で流れていた。
 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)の補給の歌だ。そのおかげで、魂剛は今ここで全力を出し切っても、まだ戦う算段がつく。
「そうはさせるかっ!」
 レイは相手の剣を押し上げる形で、この絶望の鍔迫り合い打ち切った。だが、互いに上段に剣を構えた形、このまま振り下ろされれば致命の一撃になりかねない。
 ここで相手より早く仕掛ける、という手段に淵は出なかった。代わりに、20ミリレーザーバルカンを発射する。剣を振るより早いが、剣よりもぐっと威力は落ちる。
 何故そうしたのか、という会場の疑問はすぐさま解決した。両者、特にレイの居た地点にいくつもの砲撃が通り過ぎていったからだ。20ミリレーザーバルカンは攻撃ではなく、背後への推進力を少しでも確保するための一手だったのだ。
「避けられた、流石」
「簡単に横取りはできないか」
 アンシャールとソーサルナイト?は僅かに違いを牽制しながらも、それでも協力ができなくもない絶妙な間合いを持って、レイへと向かう。
「おーおー、狙われてんなぁ」
「ああ、楽しくなってきたな」
 陽気なカルキノスの声に、淵も弾んだ声で答えた。

 ひどく当たり前の話ではあるのだが、大会で用いられるエネミーイコンはやられるために存在するのではなく、参加者を倒すために存在している。
 ごくごくありふれた、面白味の無い戦い方と、それなりに優遇された索敵能力を持った彼らが、参加者が集まってるところに寄ってくるのは当然の展開だった。
 自然、飛び回るレイとそれの撃墜を目指す参加者の回りには、通常機や強敵機も呼び寄せられてあっという間に大乱戦になった。
「通常参加者よりも乱入者の方が多いっておかしくないか!?」
 の搭乗者、朝霧 垂(あさぎり・しづり)の言葉は至極真っ当な事だった。
 垂がこの乱戦を目にした時には、参加者とAI敵機、さらにレイのみならず乱入してきたイコンまで混じって、一言で言い表すのは難しいような状況になっていた。
「まぁ、いいわ……てめぇ等、ぶっ潰してやるっ!!」
 いざ乱戦へ、といったところで機体が妙な反応を返す。何かの干渉、妨害行為を一瞬疑うが、
「いかん、シヅリ! 一人で戦っては…!」
 コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)の声、グレート・ドラゴハーティオンからの通信が入る。
 AI機がより集まってきたせいで、乱戦場は弾幕によって満たされており、入るのも出るのも、無論その中にいるのも超危険な場所となっているのである。
「ならば……!」
 だが、ここでこれを見過ごして帰ろうなんて思わないし、それをコア・ハーティオンも察したようだ。
「へへっ……良いね、良いじゃねーか! 熱い展開だなぁ、おい!」
 戦場へ向かう鵺にグレート・ドラゴハーティオンが追随する。
「行くぞ!『幻獣合体』ッ!!」
 グレート・ドラゴハーティオンの胸のハート・クリスタルからハート・エナジー(絆)が輝きだすと、
「二つの命が魂繋がり、己の道を切り開く!」
 バラバラのパーツになり、鵺の腕、足、頭部へと神々しい輝きを伴って装着されていく。
「幻・獣・合・体!『ライ!ジン!キィ!!(雷神鬼)』」
『ガアアアアッ!』
 一旦立ち止まり、後光と龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)の雄叫び伴ってポーズを決めたあと、再び雷神鬼は先ほどよりも一段早い速度で飛び込んで言った。
「さぁ・・・覚悟はできたか?」
 外壁を作っていた通常機を、襖のように容易くぶち抜いて戦いの中央に躍り出る。
 その彼女達の機体を、黒く大きな影がすっぽりと覆った。
「あ?」
「なんだあれは!」

 ほんの僅か前、結構な上空。
「巨大な体躯で連携が取れないともあれば、な」
 火炎にまとわりつかれ、黒煙をあげる伊勢を眺めながら、HMS セント・アンドリューの艦長ホレーショ・ネルソンは優雅に紅茶を嗜んだ。
「く、これ以上はまずいであります」
 葛城 吹雪はそう叫ぶが、むしろもう終わりに限りなく近い。直撃弾はほとんどないが、こちらの動きを考慮しない戦艦乙と甲にしこたま体当たりをされて、損害は甚大だ。
 膨大な質量を持つ艦船同士の衝突は、海だろうが空だろうが重大な事故である。衝突した乙一隻と甲二隻はそれが直接の原因で轟沈した。
 余談ではあるが、伊勢の好意的な解釈で言うところの大胆な動きについてこれず、ガーディアンヴァルキリーは脱落(退避)して後方支援に徹している。
 さらなる砲撃を、伊勢がぎりぎりの運動で避ける。だが、強烈な振動が艦内の乗員を襲った。
「また体当たりでありますか!」
「違うわ、今のは艦内の」
 言い切る前に再度振動。
「艦内の、何でありますか!」
「一番、二番ジェネレーターが沈黙」
「ちょっとこき使っただけで、もう音を上げるとは情けない奴であります」
「整備班が聞いたら泣くわよ?」
 コルセアは最後にそう伝えると、そそくさとブリッジから退避した。これから何が起こるのかは、いつの間にか追加されたドクロマーク付きの赤いボタンで大体察しがつく。
「整備班が泣くなんてもんじゃないわよね、実際」
 脱出のために艦内を進んでいると、途中の隔壁がぶち破られているのを発見した。丁度、小柄な人が通りぬけるのには丁度いい。
 その先から、軽いステップで人影がこっちに向かってくる。それはあっという間に、すぐ近くにまでやってきた。
 ファイティングポーズを取ってこちらの出方を窺うのは、鳴神 裁(なるかみ・さい)だ。これに、コルセアは両手をあげて降参のポーズを取る。
「今から脱出するところなのよ。見逃してもらえるかしら?」
 状況を見るに、単独で艦内に乗り込んできて艦の中枢を壊して回った帰りだろう。この場合は、やっぱり彼女に点数が入るのだろうか。
「そうなの? だったらボク達も脱出するところだったし、一緒にいこっか?」
 ボク達というには姿が一人にしか見えない事にコルセアは一瞬だけ疑問に思った。他に侵入者が居るのかと通路の奥に目をやった瞬間、がしっと肩を掴まれる。
「え?」
 裁は開いた手で伊勢の装甲を内部から破壊。吹き飛ばされそうな暴風にコルセアの身が晒される。
「いっくよー」
 たったったったった、ぴょん。
「ちょっとぉぉぉ、待ってぇぇぇぇぇ!」
 そう叫んだ頃には既にその身は空の上。パラシュートどころか、ほとんど着の身着のまま、コルセアは地上の人間が目視できない高さに放り出された。
 そんな感じで搭乗員が優雅な空の旅に出た事に、全く気付かない吹雪は、次々と報告される伊勢の致命的なダメージに対して適切な対処や指示を飛ばす事なく、血走った目で試合会場を見渡し、そしてやたら参加者と乱入機が集まっている地点を発見する。
「機関全速、邪魔なものは吹き飛ばすであります!」
 既にジェネレーターはいかれてまともな速度は出ないのだが、この世界には重力という便利な力がある。中空にあるものは、いずれ落ちるのだ。僅かに残っている推進力で、ちょいちょい軌道を修正する。
 既に轟沈扱いとなって得点を吐き出した伊勢に、セント・アンドリューからの追撃は無い。
 かくして伊勢は、自身が壊滅的な損害を受けつつも易々と目標地点にへとたどり着いた。

「あ?」
「なんだあれは!」
 それは燃える鉄塊、戦艦伊勢だったもの、それは真っ直ぐ垂直に、雷神鬼の頭上に降ってきた。
 襲い掛かる巨大な質量の塊に、雷神鬼は立ちふさがった。
「何をするつもりだ、シヅリ!」
 コア・ハーティオンの疑問は当然だ。このかつて戦艦と呼ばれていた金属の集合物に立ち向かう理由は無い。
「わかってる。だが、俺には見えるんだ。オチが!」
 この場所に、この僅かな残り時間に、葛城 吹雪が乗った戦艦。
 複雑な方程式など必要なく、答えは導きだされるだろう。この戦艦が地面に追突すると共に大爆発を起こすのだ。
「うおおおおおおおおおお! させるかああああ!」
 超空間無尽パンチは、死んでるか生きているかで言えば既に死んでいる戦艦に対して、装甲の一部を飛散させたに留まった。依然、この強引な暴力の礫は、地面を目指して進んでいる。
 だが、垂は諦めない。
 真っ直ぐに伸ばした両腕で、真正面から、迫り来る炎を纏った終わりを告げる者を掴んだ。
『ガアアアアッ!』
 ドラゴランダーが叫ぶ。悲鳴ではない。
 合体によって沸きあがるパワーが告げている、できる、やれる、と!
「そうか、ならば、ならばシヅリ……そして鵺! 私達の力……君たちに託す!」
 まだ事態についていけていなかったコア・ハーティオンも、覚悟を決めた。機体を覆い隠すほどのバーニアの噴射が、さらに戦艦すらも覆えそうなほど噴出す。
「止まれぇぇぇぇぇぇぇ!」
 質量と重力、伊勢自身の推進力を受けて、じりじりと地面に向かって押されていく雷神鬼。
「手伝います!」
「仕方ない、今更退避もできないだろうしな」
 一機、また一機、周囲で戦っていた参加者が、乱入機が伊勢へと集まっていく。だが、それでも止まらない。ついに雷神鬼の足が地面につき、両足がじりじりと地面を削っていく。
 集まってきた友人イコン達も、推進力が限界に達したり、損傷箇所が火を噴いたり、まぁこんなところかとタイミングを見て退避したりして、次々と脱落していった。
 ああ、だが、見よ!
 膝を折り、間接から火花を散らしながら、雷神鬼は静止した。静止したのだ!
 沸きあがる歓声、どこからともなく聞こえる口笛、既に停止したAI機達が静かに見守る中、吹雪はドクロのマークがつけられた赤いボタンを躊躇わずに押したのだった。