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エース達の戦い


 この大会の通常機として配置されてるもののほとんどは旧式機であった。その為、主戦場は地上だったが、乱入機の登場によって大きくそれが変化し、主戦場は空中へと移行した。
「こりゃ逃げ切れないね」
 クリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)は自分達の機体に向かって飛来するノイエ13を見据える。
 13【ドライツェン】はターゲットをこちらに決めているらしく、脇目もせずに真っ直ぐ向かってくる。
「最初はかなり距離があったのに、一発も当たらないなんて」
 長谷川 真琴(はせがわ・まこと)はスナイパーライフルが当たらない事に、苛立ちを感じた様子はなく、むしろ感心しているようだった。
 ブルースロート・トレーナーの整備は完璧、照準にズレは一ミリも無い。であれば、相手の回避技術がこちらの狙撃技術を上回っているのだ。
「弱点を狙いすぎなんだよ。だから、どうくるかわかる」
 13のメインパイロットサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)は、飛来する銃撃を身を捻るような動きで回避、迂回などせず直線で間合いを詰める。
「さて、まずは中距離戦だな」
 攻撃を回避しながら間合いをある程度詰めた13は、ここでシールド一体型ライフルを向ける。
 ブルースロート・トレーナーと13は二人で円を描くように動きながら互いを射撃する。
「しかし、アグレッサーの相手がトレーナーとはねぇ」
 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が相手のデータを参照する。参加者のデータは当然公開されているが、わかるのは精々名前とパイロットと主要武装ぐらいで、切り札まではわからない。
 13はもともと百合園女学院での教導用、アグレッサーとして受領したものである。一方、相手は名前にトレーナー、指導員を冠している。もっとも、トレーナーには練習用という意味合いもあるが。
「狙ったわけじゃねぇんだけどな」
 単に近くで先制で仕掛けられたから相手をしているだけである。
「そろそろ間合いを詰めるよ」
 中距離の撃ち合いでは互いに大きな損害は無し、と言いたいところだったが、13の方に僅かに装甲を削られていた。ブルースロート・トレーナーの反応速度が予想以上にいい―――既に覚醒を使用していたと見るのが妥当か。
「これ以上近づかれるのは厄介だね」
 クリスチーナとしては、できれば中距離、長距離での戦いを続けたい。ブルースロート・トレーナーは近接戦闘をするための武装は装備しておらず、一方の13には近接武装が装備されてるのが見てわかる。
「段々調子がよくなってきたんですけど」
 真琴は、自分が僅かに緊張していた事をここにきて自覚していた。通常機のほとんどは一方的な狙撃で撃破してきたから、自分達が攻撃されそうという状況は、今さっきが初めてだったのだ。だが、それもこうして撃ち合いをしている間に解消されている。
「来るぞ、え?」
 クリスチーナは向かってくるはずの13の姿を一瞬見失った。何らかの妨害装置を疑ったが、
「下です」
 という真琴の声で、敵を見つけた。
「この」
 バルカンの弾丸が、13の動きの少し後ろを追っていく。当たらない。
 そのままUの字を描いて13は背後に回りこむ。上からバルカンで軌道を追ったブルースロート・トレーナーは転地が逆転した格好になった。
 そこから直線で13が間合いを詰める。
「やばっ―――なーんてね」
 13の動きがぴたりと止まる。ブルースロート・トレーナーのエネルギーシールドで発生させたエネルギーで相手の機体に干渉したのだ。身動きの取れなくなった13に対し、大形ビームキャノンで丁寧に頭部へ狙いをつける。
「これで私達の勝ちです」
 発射―――直撃!
「あー、ちくしょう。生身だったらなぁ」
 シリウスは悔しがる。イコンの動きが止まった瞬間、シリウスはイクシードフラッシュを試みたのだが、神々しい光はコックピット内部を照らしたに留まり、その光は僅かにも外には届かなかった。さすがは宇宙でも利用される気密性、隙間なんて僅かもない。
「ちょっと、眩しかった」
 一旦は失われた制御が戻り、シリウスは丁寧に着陸する。画面には戦闘続行不能の表示がなされ、全ての武装がロックされている。
「歩いて帰れって事かな?」


 ミサイルの雨霰が降り注ぐ。
 そのミサイルを飛ばしたジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)はポイントを確認する、四点増えているが、目標の150点は入っていない。
「さすがにこれだけじゃダメか」
 爆煙を振り払い、姿を現したイコンはシアン。当然ミサイルを撃ってきたフィーニクス・NX/Fは捕捉される。
「……近接格闘寄りの機体ね、距離を取って戦うべきね」
「わかった。近づけさせないよ」
 ツインレーザーライフルが次々と火を噴く。
 だがそのどれもが、空しく虚空へ消えるか、地面を抉るか。装甲に掠りもせず、次第に距離を詰められる。
「さっすがあ!」
 ソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)は次々と襲い掛かるレーザーを、的確な身のこなしで回避するハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)を褒める。
「つっても、こっから先は全部回避は無理だ。多少備えておいてくれよ」
 間合いを詰めれば、それだけ被弾の可能性は高くなる。
 新式コーティングブレイドを掲げ、致命傷になりかねない銃撃は無理矢理防御し、さらに間合いを詰める。相手は逃げの構えのようだが、前進速度が後退速度に負けられない。
 あと一歩の間合いまで近づいて、ハイコドは違和感を覚えた。これだけ間合いを詰めても近接武器を取り出す気配が無い。装備していないのかもしれないが、だとすればここまで接近を許す前にもっと必死に距離を取ろうとするはずだ。
 だが、最初の地点からこの距離まで、射撃の感覚は一定で落ち着いている。
「何かあるな……」
 何らかの切り札を用意し、それを切るタイミングを計っている。覚醒か、あるいは不意打ちでこそ意味を持つような武装。
「だったら、これについてこれるか」
 踏み出した足の前に力場を形成し、シアンは一段高く飛び上がる。だがこの段階ではまだ目で追える。さらに頭上に力場を形成、これを蹴って相手の直上から仕掛ける。
 シアンの尻尾マニュピレーターがエネルギーチャージを既に始めている。
 力場に足が触れるその瞬間、強烈な一撃が機体を襲った。
「なっ!」
 機体のバランスが崩れる。一体何が起こったのか、眼下のフィーニクスに動きは無かった。
「ここはキルゾーンなのよね」
「いっくよ、フィーニクス・フルバースト」
 ごく至近の距離から、フィーニクスは持てる弾丸のほとんど全てをシアンに向けて放った。
 既にバランスを崩していたシアンはこれを回避できない。
「くっそおおお!」
 戦闘続行不能、と大きく表示された視界の隅、参加者イコンの影が一瞬映って消えた。

「ちぇ、取られちゃったか」
 世 羅儀(せい・らぎ)が再度確認しても、自分達の機体枳首蛇にポイントは入っていない。
「空中で突然停止で、コックピットから狙いがずれたな」
 叶 白竜(よう・ぱいろん)は落ち着いた様子で、撤収の準備を始める。恐らくあの機体のパイロット、イーリャはこちらがここで狙撃体勢を取っていたのをわかった上で誘い込んだのだろう。
「上手くしてやられたな」
 ルール上、ポイントは最後の一撃を入れた選手が得られる。そして、横取りは禁止されていない。自分達の獲物を狙撃手が見張ってるともなれば、獲物を取られまいと勝負を急いでしまったりしそうなものだが、落ちついて冷静に、上手に利用された。
「あの乱入機であれば、一撃では落とせないとの判断だったのだろうな」
 対神スナイパーライフルは威力よりも精度が優先されているのも、恐らく頭に入っていた事だろう。
 枳首蛇に次の獲物をゆっくりと探す時間は与えられなかった。乱入機の方が先に仕掛けてきたからだ。
「避け切れなかったか」
 飛来してきた弾丸が左肩に直撃する。完全に破壊はされなかったが、一撃でかなりがたついた。
 すぐさま今まで遮蔽にしていた岩を飛び越え、反対側に身を隠す。少なくとも、周囲に攻撃を仕掛けてきたエネミーはいなかった。
「かなり距離を取られているな……」
 攻撃を受けた方向へ索敵しても敵機の姿は見えない。だが、大会から貸与されたレーダーには、その方向に乱入機が居る事を示していた。
 レーダーが指し示す地点、岩陰に身を潜めるのはアルシェリア。パイロットは佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)佐野 悠里(さの・ゆうり)だ。
「完全な不意打ちが決まったと思ったんですけどねぇ」
 アルシェリアの存在は未だ感知されていない。
「あ、動くみたいだよ」
 悠里が言ったように、枳首蛇は移動を開始した。こちらの正確な位置は把握していないようだが、おおよその見当をつけ、こちら側を警戒している。
「撃つ?」
「もう少し様子を見ましょうか」
 相手の動きが退避なのか、接近してこちらの位置を探ろうとしているのか、どちらかが判明するまでは様子を見る。稀によくあるイコンを隠すのに丁度いい岩に、隠れながら少しずつこちらに近づいてきているようだ。
「こっちにくるつもりみたいだよ?」
「うーん、だったら離脱ですぅ」
 参加者のイコンと殴り合いをするには少々厳しい。先ほどのように背中を見せていた相手すら、反応して回避しようとしてくるのだ。
 この場を離脱し、戦闘中のイコンに横槍をいれていくのが今回の立ち回りの基本である。基本に忠実に、ここは離脱がベスト。
 なのだが、突然すぐ近く、正確には身を隠している岩が銃撃を受けた。岩は結構丈夫らしく、亀裂が入る程度に留まった。
「見つかった!」
「……いえ、あたりをつけられたみたいですぅ」
 飛び出したくなる気持ちをぐっと堪える。
 イコンが隠れられそうな岩場は少なくないが多くも無い。この先ほどの場所を狙撃できるのに丁度良い場所はここだろう、とあたりをつけてきたのだ。
 今のは、獲物を追いたてる威嚇射撃。すぐさま飛び出しては蜂の巣にされるだろう。
「一撃離脱が正解だったですぅ」
 自らが手負いにした獲物をしとめたいという欲が出たようだ。とはいえ、相手もがんがん前に出るわけではなく、岩陰に身を隠しこれ以上距離を詰めるつもりはないらしい。
 中距離より一歩遠くの位置で、撃ち合いをご希望のようだ。
 近接殴り合いでないならば、倒しきるは難しいかもしれないが、やられない立ち回りができるはずだ。
「悠里ちゃん、周囲のみんなの動きを見ててくださいですぅ」
 アルシェリアの機動性を信じ、岩陰から飛び出した。