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リアクション
【西暦2024年 8月2日 午後】 〜『ベリアル堂のプルプルプリン』〜
「いらっしゃいませいらっしゃいませ〜!ベリアル堂のプルプルプリンはいかが〜!ほら、このプリンを見ておくれ!こんなにプルプル!口に入れれば舌の上でトロける新食感〜!まさに未体験の味だ!さあ、試してみておくれ!!」
「オレに一つくれ!」
「アタシにも!!」
「こっちにも一つちょうだい!!」
「はいはい押さないで押さないで!お買い上げの方は、あちらに並んでおくれ!慌てなくても大丈夫!数は充分にあるからね〜!」
魔王 ベリアル(まおう・べりある)の売り口上に殺到する客で、ベリアル堂の店先はごった返している。
「スゴい人気だね〜」
「大繁盛ですね」
店の奥の座敷から、表の繁盛ぶりを覗いて、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は感嘆の声を上げた。
話は、少し遡る。
御上の屋敷に一泊した次の日。
四州土産を買いに城下に出た二人は、店先に黒山の人だかりが出来ている店を見つけた。
「見て、コハク!あのお店スゴい人!」
「う、うん……。そうだね……」
「ん?ど、どうしたのコハク?」
何故か、コハクの顔がひきつっている。
「美羽……。見て、あの看板」
「看板?」
コハクの指差す方を見て、美羽もまた言葉を失った。
「べ、ベリアル堂って……。あの、ベリアル……?」
「う、ウン。たぶん……」
こうして恐る恐る(?)店を訪れた二人に、店先で口上を述べていたベリアルが気付き、中に通された、と言う訳である。
「どうぞ〜。召し上がって下さいな〜」
中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)が、二人の前に、噂の『ベリアル堂のプルプルプリン』を置く。
テーブルに置いた時の衝撃で、名前通りプリンがプルプルと震えている。
ベリアルがずっと作りたがっていた、冷製プリンだ。
美羽とコハクは顔を見合わせると、意を決してスプーンを手に取り、「ままよ!」とばかりに口に入れた。
「「――!」」
「ウソ……」
「美味しい……」
二人はもう一度、今度は「信じられない」という顔で互いを見る。
「あらあら、それはあんまりですわ〜。ああ見えてベリアルは、プリン作り『だけ』は上手なんですのよ」
そんな綾瀬の言葉が耳に入っているのかいないのか、二人は一気にプリンを平らげた。
「美味しかった〜!」
「あの人気も、食べてみれば納得ですね」
「地物の有精卵に、やはり地物の牛乳。それに砂糖は寿々守村の寿々守糖を使って、丹精込めて作ってますもの。人気の秘訣は、物珍しさだけじゃありませんのよ」
何故か、自分の事のように得意気な綾瀬。
「そう言えば、電気はどうしてるんですか?」
「自家発電ですわ。寿々守村のバイオエタノールを使って、発電機を動かしてますの」
そう言って綾瀬は、店の裏手に二人を案内した。
大きな発電機が3台並んでいる。
「これで、店で使う電気は全て賄ってます。1台は予備で、普段は2台を交代交代で使ってます。その方が、機械も長持ちしますから」
「ねえ、地熱発電所はどうしたの?」
2年前、「火山の熱を使って、地熱発電所を作るんだ!」とベリアルが言っていたのを、美羽もコハクも覚えている。
「あちらの方は漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)に任せてますので、詳しい事はわかりませんが――まだまだかかるようですわ」
その漆黒のドレスはというと、今、南濘で地熱発電所の建設にかかりきりになっている。
「地熱発電所の建設は進んでますが、まだ実証実験段階で、発電量も微々たるものです。それに、そもそも送電網もありませんし。将来的には、ドコの家庭でも、いつでも好きな時に冷たいプリンが食べられるように、四州全体に電力を送るつもりですけどね」
「プリンのために、一つの島の送発電施設全部整備しちゃうんだ……」
「なんか、スゴいね……」
「さ、これをお持ちになって下さい。ああ、お代は入りませんわ」
「代わりに、ウチの店の事をイッパイ宣伝してくれよ!」
綾瀬とベリアルに見送られ、土産に両手いっぱいプルプルプリンを持たされて、二人はベリアル堂を後にした。
「プリンの力って、スゴいんだね……」
「ウン」
ベリアルのプリンに掛ける情熱に、美羽とコハクは、すっかり毒気を抜かれたようになっていた。
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