空京

校長室

建国の絆第2部 第3回/全4回

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建国の絆第2部 第3回/全4回
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リアクション



闇龍への突撃 2


「……の闇龍予報をお伝えします。西側から発達した瘴気はまとまって、粘つく瘴気となるでしょう。暴風は魔物を伴い南西で群れ、ところにより一時中隊規模……」
 ぱちん、と携帯電話を閉じて、山葉 涼司(やまは・りょうじ)はほっとため息を吐いた。
 アナンセの平板な声はまるで今日の気象情報を伝える電子音声の応答のようだったが、逆にそれが彼の心にいくらかの冷静さを取り戻してくれる。
「これじゃ核どころか、どっちがどっちだか分かんなくなるところだったぜ」
 闇龍の“体内”は黒い霧がかかっているように暗かった。嵐が吹き荒れ周囲に生えていただろう草木はなぎ倒され、点在する岩くらいしか目印になりそうなものはない。あちこちから際限なくわき出る瘴気の粘つく塊は、ともすれば取り付いて彼を呑み込んでしまいそうだった。
 瘴気をグレートソードで払ううちに時間が取られ、頼りのドージェの姿も霧の彼方。それなのに、彼女は怯えや躊躇を見せるどころか、無鉄砲にどんどん進んでいく。
「おい、そっちはこれから瘴気が濃くなるって言ってたぞ!」
「さっきパラ実生の人達がこっちに行きました! “あの人”もきっといます!」
 彼の忠告にも振り向くことなく、花音・アームルート(かのん・あーむるーと)は闇龍の中を突き進む。
「花音、なんでだよ!?」
「そのセリフ、この前の殲滅塔の時も聞きました」
「だから、なんで、あのモヒカンなんだよ!?」
「なんでって、私と“あの人”の絆の方が強いんですから」
「だかだ、それはなんでだって聞いてるんだよ!」
 食い下がる涼司に、花音はようやく立ち止まり彼を振り返った。
 ぱあっと顔が明るくなる涼司だったが、花音はといえばめんどくさいものを見るような目つきでパートナーを見ている。
「もう、そんなの前に説明したじゃないですか。そんなこと言ったら涼司さんだって、もっと強い絆を結んでいる人がいるでしょう? さっきだって女の子に口説かれてたじゃないですか」
「花音だって、さっき女の子に過剰なスキンシップを受けて……と、とにかくこんな危険な所に一人で突っ込むことないだろ!? 俺の大事なパートナーなんだからさ」
 その言葉を聞くなり花音の顔も明るくなる。
 ようやく分かってくれたかとうれし涙をこぼしそうになる涼司だったが、そんな気分は一瞬にして打ち砕かれた。
「こっちです!」
 彼女が手を振って満面の笑顔を見せたのは、涼司ではなく、バイク型機晶姫ハーリー・デビットソン(はーりー・でびっとそん)に跨る、【花音の運命の人?】南 鮪(みなみ・まぐろ)その人であった。
『ドドドドド、ドルンドルンドルンブォンッ(どいたどいたー鮪は大馬鹿だからドージェに向かっても怖い物知らずだぜ巻き込まれるぜ)』
 加速ブースターを付けたハーリーは“性帝砕音陛下”の威光?の元、堂々たる姿で闇龍の中を駆け抜けている。
 何故花音の背後を走ることになってしまったかといえば、暴風や真空の間、被害の無い場所を通るために、先に進む生徒達の様子を見て(つまり彼らを3メートルの棒代わりに)進んでいたからである。
「ヒャッハァ〜! どけどけえ俺が神と認めるのは性帝砕音陛下か陽子さんだけだぜドージェだろうが星帝だろうが道を空けてもらうぜー!」
「鮪さ〜ん!」
 勢いよく走っていた彼は手を振る花音に気付き、ハーリーに停止するよう命じた。
「ヒャッハァ〜! おいお前俺の名を言ってみろ」
「くそ……南鮪か……魚みたいな名前のくせして……」
 鮪は悔しがる涼司に得意げに嘲笑する。
「ヒャッハァ〜待たせたな花音! おまえの命は俺の物だァ〜」
 鮪は花音に手を伸ばし、バイクの後ろに乗せようとするも、その花音の腕を涼司が引き留める。
「こんな後ろから来るような卑怯な奴らの所に行く気か?」
『ドドドルンドルン ドドドドドルン(卑怯でも何でもないぜ、これが頭脳プレイってもんだぜ。何となれば“軽身功”で風の壁でも走ってみせるぜ)』
「花音、一緒に来い。砕音陛下よりすぐれた神なぞ存在しねえ! 汚物の闇龍を一緒に消毒しに行こうぜェ!」
「はい、鮪さん!!」
 力強く頷く花音は涼司の腕を引き離すと、スカートを翻らせてハーリーのケツに跨る。
「待て、花音をどうするつもりだ!」
 ニヤリ、と鮪は笑った……涼司にとって嫌な予感しかしない。
「闇龍の核に聞きそうな攻撃っていやぁ光だろ!? 花音、お前の命を見せてみろ!!」
「まさか──」
 花音が胸に、何かを握るような形で手を当てる。その手の内に瞬く間に光条兵器の柄が出現し、光の刃が引き抜かれた。
「ごめんなさい、これは私の分です。渡せないので、こうやって……」
 花音が鮪の左手を取り、柄に添えた。
「みろ!!俺様の光条兵器を!! これで闇龍の核にケーキ入刀だぜェ!」
「涼司さん、もう帰って良いですよ」
 涼司は今にも泣きそうな顔をしていた。
 ……だって、そうだろう。
 元々花音がシャンバラを復活させるのを手伝ってくれと言うから契約したというのに、別に花音は自分でなくても良かったのだ。パラミタに来るのだって始めから乗り気だったわけじゃない。
「……だがその前にケリつけなきゃならねぇことがあるなァ!」
 鮪は光条兵器に手を添えたまま、切っ先を涼司から逸らした。
 その方向にいるのは──。

「ふぇーっくしょん! ……ずずっ」
 【星帝】御人良雄は大きなくしゃみをして、鼻をすすった。
 彼に従うパラ実生の一人が訊ねる。
「風邪ですか、良雄様?」
「闇龍の気配が濃くなっているのを感じる」
「さすが良雄様だァ!」
(きっとるるさんが僕の噂でもしてるに違いないっす!)
 盛り上がる配下を尻目に、良雄はそんなことを考えていた。彼は【星帝】の他にも“ドージェを跪かせた男”、“クトゥルフの化身”の二つ名を持つパラ実伝説の不良である。しかしその伝説は偶然と誤解とハッタリとそれからちょっぴりの人徳で出来上がったものだった。
 闇龍は怖い。けれどドージェも神だ。ドージェの後ろに付いていって、一緒にトドメを差してしまえば安全だ。
 そして邪魔な黒雲がなくなったら、ヨシオタウンの空には星が戻るだろう。
(あの黒雲と一緒にるるさんの笑顔の曇りも晴らしてみせるっすよ!
 そして取り戻した満天の星空の下で「闇龍なんてなんてことなかったっすよ。これもるるさんの応援のおかげですね」「ううん、良雄君が頑張ったからだよ。ありがとう!」「るるさん……」そして良い雰囲気になったところで、告白を……)
「良雄様!」
「……ん?」
 妄想に浸っていた良雄は、鮪と花音がケーキ入刀の構えでやって来るのに気付かなかった。
「おい、花音の新パートナーである俺を差し置いて、花音を狙ってるらしいじゃねぇか!」
「……は? 何のことだ?」
「誤魔化しても無駄だぜェ!」
 良雄は思い出そうと頭をひねったが、心当たりはない。
「いや、本当に心当たりが……」
 そして、もう一人。
 いつの間にか良雄の目の前で、小学生くらいの女の子が泣いていた。
「うぇ〜ん、ひどいよ〜。いじめるよ〜」
「花音を狙うだけじゃ足りねぇってかァ! 四天王の風上にも置けねぇ奴だァ!」
 彼らが闇龍に突撃する前のことである。
 闇龍よりも世界の危機よりも、日下部 社(くさかべ・やしろ)が心配していたのは友人たるメガネ・山葉涼司と花音の仲であった。そこで考え出されたのが『涼司さん素敵っ! 作戦』だ。
 まず、良雄が花音を狙っているという噂を流して、鮪と良雄を対決させる。多くの舎弟を抱える良雄に、まず鮪が勝つことはない。次に良雄の元に彼のパートナー日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)を派遣、彼女が虐められているフリをする。
 そうなれば倒れる鮪、そこに駆けつけた正義の味方涼司が千尋を助け、花音は涼司見直すというわけだ。
「良雄ちゃんがちーちゃんをいじめるの〜」
 千尋が両手を目に当てて泣き真似をする。
(まずいっすよ……女の子を奪い取ったり、小さい女の子をイジメたなんて、るるさんの耳に入ったら……誤解を解いてるうちに、いいムードが台無しっす)
 だが計画通りに物事が進まないのは世の常だ。良雄は鮪とすぐに対決しようとはしなかった。悩んでいるうちに、涼司が良雄の元にやって来てしまう。
「お……おい、女の子を虐めるな!」 
 彼は元来正義感が強く、特に困っている女の子を放っておけない性格をしていた。
 良雄の取り巻きはかなりの数がおり、大抵の人間は彼に辿り着くまでに逃げ帰ってしまうだろう。しかし彼は今まで校門に立ち続けた男。契約者の人並み如きに押されることなど無い。
「あぁん、良雄様が女の子をイジメるなんてチンケなことすっかよ!」
「良雄様に文句があるってのかァー!」
 良雄はそのまま帰して威厳が損なわれないかちょっとだけ考えたが、結局るるに嫌われないやり方を選んだ。
「待て、手を出すな。……何か誤解があるようだな。きっとこの少女は迷子だろう、届けてやるといい」
「……そりゃどうも……」
「良かったですね涼司さん。ちょっと見直しました。じゃあ、無事に闇龍の外まで届けてくださいね。行きましょう鮪さん」
「ヒャッハァ〜! 行くぜ花音!」
「ちょっと待て花音、俺も行く……って、この子は社ん所の千尋ちゃんじゃないか。……あー、お兄ちゃんはどこにいるのかな?」
「メガネちゃんを闇龍の外で応援してるよ」
 涼司を見上げて笑顔で答える千尋の目には涙のひとしずくもない。
「あいつめ……ちょっと待て、俺を置いてくな! 花音、危険な所に行くんじゃない! あー、良雄だっけか、この子頼むっ」
「ちょ、待つっす! 勝手に解決して行くんじゃないっす!」
 こうして鮪と花音を涼司が追い、その後を良雄が追うという形になった。
 そしてその奇妙な鬼ごっこはすぐに終了した。
「だから花音、アナンセの予報を……」
 闇龍が体内の騒がしさを不快に思ったかどうかは知らないが、生き物のように身体をうねらせることもある。
 うねれば、暴風の流れが代わり、当然体内にいる人物も影響される。鮪と花音は闇龍の外に吹き飛ばされ、続く涼司も同じように吹き飛ばされた……彼らとは反対の方向に。
 けれど良雄だけは無事だった。数百数千、数万の舎弟が彼を暴風から守る防壁となっていたからである。
 そしてドージェの背後に辿り着いた彼は、その道すがら「良雄様が! 良雄様が復活なされた!!」という歓声を聞いた。
 ……実は少し前、もう一人の良雄が先に闇龍の核に向かって特攻していた。
「立川るるさんを完全にあなたの虜にするためには、格好いいところを見せることが必要ではないですか?」
 志位 大地(しい・だいち)はこう言って良雄に取り入り(?)彼の影武者となったのだ。オールバックの黒髪をソフトモヒカンに変え、あらかじめ用意した肩パッドにマント付きの衣装に着替えれば。身長体重はいくらか大地の方が多いが、これも服でごまかせるだろう。
 彼はパートナーのメーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)を含めた数百人の舎弟を借りて闇龍の中を良雄の先を行っていた。
 闇龍の体内には実体化した瘴気の他、闇龍共にナラカからやって来た音量が蠢いている。
 彼はわざと特攻し、それらにやられて闇龍の外にはじき出された。
 こうして良雄は一度死んだのである。
 そして復活した。これこそが大地の目的だった。
「偉人には復活の伝説が付き物だぜぇ! 良雄様も神の仲間入りだぜぇ!!」
 これが良雄復活伝説の始まりである。