空京

リアクション

ツァンダ


　蒼空学園、校長室――
　御神楽　環菜（みかぐら・かんな）は樹月　刀真（きづき・とうま）より一連の報告を受けていた。その間も、カツカツと携帯を弄る音が途切れることはなかった。
　報告を終えた刀真は、少しの間を置いた後……
「環菜、俺は――」
「蒼空学園は今、思ってもみないチャンスと危機に同時に直面しているのよ」
　刀真の言いかけた言葉を切り止めるように、環菜が言う。
「ロマンチシズムに耽っている暇は無いの。私の力になりたいなら、クイーン・ヴァンガードとしての職務に励みなさい」
　刀真は真剣な表情を浮かべたまま彼女を見つめた後、静かにうなずいた。


　環菜のデスクの上には一通の封筒が置かれていた。
　封筒に書かれていた名は酒杜　陽一（さかもり・よういち）。親衛隊がクイーンヴァンガードを追ってツァンダを出て、しばらくした後に届けられていたものだ。
　中身は陽一の辞表と、今回のジークリンデ救出およびテティスの魔剣奪還に関する『事実』の書かれた直筆文書だった。
　それによれば、独自にジークリンデ救出を目論んだ酒杜陽一が親衛隊の戦力を利用する為に、理子を人質にしたのだという。この救出はあくまで陽一の独断であり、みんなは強要されているだけである、と。
　報告によれば、現場の状況は道明寺　玲（どうみょうじ・れい）によって撮影されていたらしい。大方、蒼空学園に責を問う心積もりでもあるのだろう。しかしそれは、酒杜陽一の『事実』を受け入れることにより、こちらは問題の無いレベルに決着することができそうであった。
　　
　◇

　ツァンダ郊外――
「御神楽校長には、恩を仇で返してしまったな」
　フリーレ・ヴァイスリート（ふりーれ・ばいすりーと）が赤暮れた空を見上げながらボヤく。
「巻き込んでしまって済まなかったよ」
　酒杜　陽一（さかもり・よういち）は大きなカバンを担ぎ直しながら、フリーレの方へと視線をやって小さく笑った。
「なにを今更」
　笑い返したフリーレが、ふと、前方を見やって立ち止まった。
　その様子に軽く小首をかしげ、陽一も立ち止まり、道の先を見た。
「……皆さん」
　夕日に染まり藪に囲まれた砂利道だ。
　その両側に、新日章や親衛隊の面々が立っていた。
「酒杜先生……」
　一番手前には理子と真理香がおり、真理香が静かに砂利を踏む。
「あなた方はどこにいらっしゃっても、わたくしたちと志を共にする仲間ですわ。あなた方の聡く勇気ある行動を、わたくしたちは誇りに思います」
　言って、真理香は涙を流しながら、ザッと敬礼をした。
　そうして、歩みに合わせて行われる敬礼に見送られ、陽一たちはツァンダを後にした。

「……卑怯者、か」
　真理香のそばに居た理子がポツリとこぼし、真理香の方へと顔を上げ、言った。
「真理香さん……今回は、本当にありがとう。皆があたしを助けてくれた――だから、今度はあたしが皆に力を貸すわ」