空京

校長室

戦乱の絆 第2回

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戦乱の絆 第2回
戦乱の絆 第2回 戦乱の絆 第2回

リアクション

 アイシャ確保、野戦病院ヴァイシャリー
 
「第七龍騎士団」の撤退により、館の中は西側勢によりほぼ制圧された。
 残るは、アイシャの身柄を保護することだけ。
「アイシャ救出隊」の面々による捜索と救出活動は、時間が押し迫った中で活性化する。

 ■
 
 【龍雷連隊】レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)は、本隊に先駆けてアイシャの部屋を探しあてた。
 彼女が成功した理由は銃型HCを使用し、館内地図と情報から割り出し、しかも単独行動のため身軽だったからである。
 そして失敗要因は、その情報が一部「不明」であったこと。
「この、『アイシャの影の細工?』ってのは、何ですかねぇ?
 気になるんですけどお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
 レティシアはふむと戸惑ったが、「不意打ち」で対処しようと決めた。
 念のために、ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)に連絡する。
「ロイヤルガードの推挙とか、何か欲しかったわ! レティ……」
 ミスティは溜め息まじりに不服を述べた。
 彼女は理子の下での警護を希望していたのだ。
「ごめんごめん!
 で、いまどこにいるのですか? ミスティ」
「隊長よ、岩造さん」
「なら、丁度良かったです。
 あちきはいまから作戦を開始すると、そうお伝え下さいな」
 
 レティシアは携帯電話を切ると、アイシャの部屋に侵入する。
 そして間もなく、確保されてしまった。
 正確には――影の中に隠れていたマッシュの手にかかり、「ペトリファイ」で石化されてしまったのだった。

 だがこの件は、【龍雷連隊】の情報を通じて、警戒を怠るな! と言う情報を西側にもたらす。
 
「何? 先に入ったはずのレティシアが戻ってこない?」
 【龍雷連隊】レイヴ・リンクス(れいう゛・りんくす)レイナ・アルフィー(れいな・あるふぃー)は最上階についた途端、連隊から連絡を受けたのだった。
「私達は連隊との連携行動だけど……」
「そうだな、何かありそうだ。ここは慎重に行こう!」
 そうした次第で、2人はアイシャの部屋の少し手前から部屋を探って行くことにした。
「戦場でもたらされた情報が、必ずしも正確である」とは限らないので。
『レイヴ、こちらはクリアよ!』
『レイナ、こっちの部屋もだわ!』
 2人は「精神感応」を使って、情報にやり取りを行う。
 手にアサルトカービンや、アーミーショットガン。
『レイヴ! 人がいるわ!
 隊長に連絡を!!』
 扉を開ける。
 連隊が駆けつけてくる、足音――。
 
 そして救出劇は幕を開けた。
 
「簡単には救出させないぜ!」
 アイシャを護る四名の【七龍騎士仮団員】達は、西側勢を前に力を解放した。
 迫は「勇士の薬」、「神速」、「超感覚」、「先の先」、「殺気看破」……身につけたスキルを駆使して、侵入者たちの行く手を阻む。
「何事も先手必勝!
 隠れていても、無駄ですよ!」
 雄軒は「紅の魔眼」で魔力を開放。
「アボミネーション」を発動しつつ、じりじりと迫る。
「ヘクトル様の名を穢す訳にはいきませんからね。
 動きを封じるつもりでいきましょう。
 マッシュや迫、バルトと共に……」
 バルトは「威圧」で雄軒の動きを補佐する。
「我は、盾であり、矛。主の命に従うまで!」
 カッと怯んだ西側の兵士達を捕えて、「六連ミサイルポッド」を数発発射する。
 
 思わぬ強敵共を前に、西側の学生達は先へ進めない。
 しかも彼等は、元は同じシャンバラの学生ではないか!
 
「怯むな、行くぞ!」
 このままでは拉致が明かない。
 岩造は隊員達を鼓舞して、先陣を切った。
「アイシャ、俺達が今必ず助け出すからな!」
 少女に向かって叫んだ。
 アイシャはソファーで金縛りにあったように動けない。
「そういえば影がどうだとか、言っておったな……」
 ファルコン・ナイトは呟いた。
 アイシャの奇妙な、脅えたような瞳。
 それに、と石像に目を止める。
 あれはまさか……レティシア!?
「岩造!?」
「ああ、ものは試し、かな?」
 岩造は「ブライトグラディウス」による「則天去私」を影に向けて放つ。
「わわっ! 何てことするんだよ! おまえ!!」
 影は抗議の声を上げて、アイシャから離れていく。
 まもなく少年――マッシュの姿を形成した。
「本気で行くからね!」
「疾風突き」の構えを取り、迫の傍に立つ。
「ごめんね〜♪ アイシャは渡せないんだ!」
 
 だが、マッシュ達は西側、特に【龍雷連隊】10名以上と闘わなければならない。
 疲れが見え始めた4人の隙をついて、誰かがアイシャを抱えて部屋から飛び出そうとした。
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)だ。
 
「皆様がヘクトルさんとの戦いで隙を作ってくれたから、来れたの☆」
 いつでも元気印の少女はアイシャの膝にローブをかけた。
「栗の……これ!?」
「うん、みんなの大切な思いが詰まっているローブだもの。
 みんな、アイシャさんの事を思っている……」
 ビックリして、アイシャは詩穂を見上げる。
「私、で、でも、皆様に黙って行ってしまって……。
 女王様のことしか考えてなくて……ひどいことを……っ!!」
「アイシャさんは優しいんだよね?」
 詩穂は「怪力の籠手」を使った。
 アイシャが細身とはいえ、女の腕では重いのだ。
「詩穂も給仕の家系。
 だから『誰か』に喜んでもらいたいんだよね?
 なのに、みんなアイシャさんを特別にしたがっている……何が違うの?」
「詩穂……」
 詩穂は器用に大階段近くまで走り抜けたが、それは魔鎧・清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)のお陰だという。
「彼がね、『トレジャーセンス』、『ピッキング』、『心頭滅却』を貸してくれたの。
 そのお陰で、仮団員さんたちの仕掛けた罠も攻撃も問題ないわ!」
 
 だが彼女が安全圏まで逃げおおせることが出来た本当の理由は、イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)の功績によるものだ。
 彼が、詩穂がアイシャを奪取した直後、その周辺の敵に対して「その身を蝕む妄執」を連発し、幻覚と状態異常による足止めを図った結果だった。
「アイシャは奪い返した。
 残るは東側代王の身柄だな」
 イーオンは胸に甘い疼きを覚えつつ、アルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)からの連絡を待った。
 館はいまだ戦火の中。
 代王とて、西側占領下になりつつある現在、無事に済むとはいえぬ。
 セレスティアーナ、と呟く。
「護る……この身を賭けて!」

 ■
 
「雄軒兄さん、のろしだ!」
 マッシュが窓の外を指さした。
 退け! の合図。
「お姫様奪われて、退散かよっ!」
 昇進はまだまだ先だぜ、と迫はぼやく。
 
「まて! 仮団員ども!」
「待たないよー♪
 へっぽこ隊長!」
 
 バリリンッ!
 
 窓を突き破って、【七龍騎士仮団員】4名は最上階からの脱出を図った。
 西側による彼等の追撃部隊は、編成されていない。
「まんまと取り逃がしてしまったか……」
 ペトリファイの効果が薄れつつあるレティシアを眺めて、岩造達はうなった。
「だが、アイシャは救出した!
 我々の勝利だ!!」



■野戦病院

 セルマ・アリス(せるま・ありす)は、小型飛空艇ヘリファルテを駆り、戦場となっている館のそばに設置された野戦病院を目指していた。
 その腕には赤十字の腕章。
 そして、背には戦場から回収した負傷者をロープで固定している。
「じゃあ、そっちの人のことは頼んだわよ!」
 後方から中国古典 『老子道徳経』(ちゅうごくこてん・ろうしどうとくきょう)(小流)の声が飛ぶ。
 彼女も負傷者を背負いながらヘリファルテを駆っていた。
「分かってる」
 軽く振り返って言ってやった先、小流の機体がヴァイシャリーの街を目指して飛んでいく背が見えた。
 彼女が連れている負傷者は病院での処置が必要だと小流は診断していた。
「無理は禁物なんだからねー!」
 もう大分、遠くなったのに小流の声が聞こえた。
「元気いいな……」
 なんとなく笑ってしまう。
 が、それもすぐに引っ込めて、セルマは下方へと飛空艇の先を巡らせた。




 ヴァイシャリーの館近くに設置された【野戦病院】は、館で負傷した者たちの多くを東西・エリュシオン問わず治療した。
 しかし、その参加者の中には、戦列に復帰しようとした者を妨害しようとした者が数名居たという。
 後に、それは戦闘の妨害に当たるのではないかと問題視され、合同医療の在り方について若干の疑問を各所に抱かせる結果となった。