空京

校長室

【カナン再生記】緑を取り戻しゆく大地と蝕む者

リアクション公開中!

【カナン再生記】緑を取り戻しゆく大地と蝕む者
【カナン再生記】緑を取り戻しゆく大地と蝕む者 【カナン再生記】緑を取り戻しゆく大地と蝕む者

リアクション


●神官軍の侵攻(05):Legend of TANEMOMI

 足並みの乱れていた神官軍の行動が、徐々にではあるがまとまってきた。行動力と実力を兼ね備えた指導者――おそらくはシャンバラからの裏切り者――が指揮を執っているに違いない。神官軍は壁となるシャンバラ勢を避け、迂回して民衆を追おうとした。
 しかし、ここで決死のチームが、民を救うべく動いていた。
 チームの名は『緑化義勇軍』、全員が種モミ剣士という涙の囮部隊だ。弱々しいのは見かけだけではない。本当に、弱い。少なくとも、種モミ戦士の路を選びさえしなければ、もっとずっと強かったはずの彼らだ。敵の目を惹くという特徴があるものの、その特徴は命がけなのだ。
 だが誰が笑おうや、彼らの崇高な意志を、一命を賭した犠牲精神を。
「遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも……いや、これは言葉のあやです。ちょろっと見てくれればそれでいいので、わざわざ寄ってくれなくても……」
 なんだか情けない名乗りだがこれも策、義勇軍メンバー志位 大地(しい・だいち)の堂々登場であった。彼は現在、種モミ界の伝説的存在『星帝』御人良雄に変装して口調もしっかり真似ていた。
「えーと、ともかく、自分はそこらの種モミ剣士とは少々違うわけなので、これはちょっと注目なのですよ神官軍の皆さん。なんと自分を殺すと、苗床スキルの効果とクトゥルフの力が合わさって、カナン全土を覆いつくす大森林が誕生するのです! いや本当ですって! 本当ですって!」
 追いかけてほしいのか追いかけてほしくないのか、そのあたりの中途半端具合がまた、神官軍の嗜虐心をビシバシと刺激しているようだ。軍勢はいつの間にか良雄(大地)の前に集まっていた。その注目を意識しつつ、
「ほ、ほら、千雨さんも何か言って下さいよ、何か」唐突に彼は、傍らのメーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)(愛称は『千雨』)に話を振ってみた。
「え? 何よ突然!?」
「いいからいいから。バーッと宴会が盛り上がるようなのを、ひとつ」
「盛り上げてどうするのよ。ていうか宴会って……」渋りつつ千雨は言った。「私にだって苗床スキルはあるわ。そう、つまり私を殺してもイナンナの強化につながるんだから! まだまだ私たち以外にも種モミ剣士は山のように……いいえ、森のようにいるわよ? それに私たちはほら……えーっと、ほら……」彼女は足元を探って、この不毛の地に種もみを発見して取り上げたのだった。「どう?」
 どうもこうもなかった。敵は一斉に二人を追ってきたのだ。
「わわっ、そ、そうだこれ言っておかないと……シャンバラの次はカナン制覇っすー!
 物騒なことを叫びながら大地は駆けた。星帝たるは伊達ではないのだ。
 キーン! このときオルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)の脳裏で、種モミの袋を手にしたおじいさんが悪者に襲われ蹴られまくっているという図が弾けた。これぞ無敵の種モミ(シード)覚醒、この効果によってオルフェリアの防御力は下がった(オイ)。
「ここにも種モミ剣士がいますよー!」明るい声で告げ、オルフェリアは搭乗する小型飛空艇の高度を下げ敵に姿を見せた。驚いた敵が足を止めた。
「じゃじゃ〜ん♪ なんと、ここにもいる!」ぱっぱぱっぱ、花咲かじいさんよろしく、種もみ袋から種もみをバラ撒きつつ、南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)も格好良く出現した。
「我ら、緑化義勇軍! 弱小ながらやられに来たのです!」オルフェリアが宣言した。
「え、いきなり『やられる』って言っちゃう!?」光一郎が目を丸くした。
「まあ……不幸ながら、その可能性は存分あるわけだ」額に片手を当てつつ、ジル・ド・レイ(じる・どれい)は半ば諦め口調だった。しかし彼は、女神イナンナをジャンヌ・ダルクに匹敵する存在だとみなしている。そのイナンナの愛した民のためならば、やられ役も覚悟していた。
それがし、鯉型のゆる族さんではござらん!」出し抜けに文脈が通らないことをオットー・ハーマン(おっとー・はーまん)が叫んだ。
「いきなりなんだ鯉、ボケでおいしいところを持っていく気か!?」光一郎が声を上げると、
「そうそう、鯉は洗いにしてさっといただくのが一番おいしい……って、だから、それがしはドラゴニュートであって、鯉型ゆる族さんではないと言っておるでござろう!」
 なんだかもう大変にぐだぐだな感じなのだが、これこそが彼らの作戦なのだ。すなわち、避難民のために逃げる時間を稼いでいるのだ。この間、敵の手と足が完全に止まったのは言うまでもない。しかしそれも長くは続かなかった。いいかげんにしろ、と言わんばかりに神官軍が押し寄せた。
「こういうときは、『言われなくてもスタコラサッサだぜぇ』って言って逃げるんでしたっけ?」オルフェリアの飛空艇は、避難民を避け限りなく反対に近い方向に空駆けた。
「いや、別にそんなきまりはなかったと思いますよ……。冗談抜きで緑化されてはたまりません。逃げましょう」ジルもスタコラサッサ宣言に従い、
「うわ、なにこれ凄い数が追ってくる! キャラ的には俺様受けじゃなく攻めなんですケド、リバってこんな感じっスかね?」
「ともかく、光術を使うでござる!」
 と光一郎主従も追った。無論、大地も走るのである。
 頑張れ、種もみ剣士、囮部隊『緑化義勇軍』。彼らの魂は熱く、気高く、美しい。