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【カナン再生記】緑を取り戻しゆく大地と蝕む者

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【カナン再生記】緑を取り戻しゆく大地と蝕む者
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●ポート・オブ・ルミナス(02):Never Again

 現在、警備担当の鬼籍沢 鏨(きせきざわ・たがね)が、ヴァルと交代してポート・オブ・ルミナスを担当している。作業するカナンの民の横を通りつつ、「大半の契約者が戦場や龍の穴に向かったゆえ、ここは手薄になったな……」と言いながら彼は、警備状況や手薄な箇所を確認しておいた。
 そのときだった、やにわに上空から、黒いものが降下してきたのは。
 ワイバーンだった。巨大な翼を拡げ、ルミナスヴァルキリーの横を滑空する。しかもその背にはジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)の姿があるではないか。
「ルミナスヴァルキリーは脅威だ。今をおいて叩く機会はねえよ」大半の契約者が出払った現在、修理中の戦艦を護る者がほとんどいないことをジャジラッドは知っていた。いや、それどころか、ヴァルが出払っているこの時間帯ならば、朝野姉妹と五十嵐理沙くらいしか脅威が存在しないことまで熟知していた。
「ハッ!」長い飛竜の槍を手に艦の壁面に大きな傷を作り、修理に勤しむカナン民を嘲笑って、ジャジラッドはワイバーンにその頭上を掠めさせた。ルミナスヴァルキリーを破壊する千載一遇のチャンスだ。無力な民よ思い知るがいい。そしてジャジラッドの名を伝えるのだ……彼は夢想した。自身の名が恐怖の代名詞となる日のことを。戦艦の破壊を遂げれば、ジャジラッド・ボゴルの名はカナン全土に轟くであろう。
 ところが直後、ジャジラッドの夢は腐った林檎のように落ちて砕けた。
「そんなに甘いと思った?」という声と共に、一発の銃弾がジャジラッドの肩を撃ち抜いていた。
 射手(スナイパー)は艦の甲板だ。作業着を着て帽子を目深に被り、カナン民に紛れてはいたが、その両手には黒いライフルが光っていた。SR-25カスタム、これを使いこなし高速で動く標的を逃さない人物は、カナン広しといえどただの一人しか存在しない。ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)だ。「こういう事もあろうかと……一般作業者に混じっていたの。どうやら私がいることを見抜けなかったみたいね、あなたがたのスパイは」言うなり第二射が、ワイバーンの翼に穴を開けた。
「もうじき、避難民がポート・ルミナス入りします。そうなる前に害虫をいぶり出すことができたのは幸運でした」やはりワイバーンに乗って、ローザのパートナーエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)も姿を見せていた。彼女も作業着姿だ。ぐんぐんと迫る。
「くっ」不意を打たれジャジラッドは動揺していた。肩の傷も想像よりずっと深く、燃えるように痛んだ。エシクの攻撃をなんとかかわすも、次の瞬間ヘルメットの角が、続いて膝のアーマーがローザに撃ち落とされていた。ついに姿勢を制御できなくなり、ワイバーンの上からジャジラッドは転落した。甲板に背中から落ちる。未沙や理沙が追ってくるのが見えた。捕まれば只ではすむまい。ジャジラッドは必死でそこから身を躍らせた。ドラゴンライダーとしての訓練が活きた。その瞬間、手負いのワイバーン『バルバロイ』が跳躍し、彼を背に乗せ飛び上がったのだ。主従一体の呼吸がなければできぬ荒技だった。
 しかしこの瞬間、彼はガラ空きの背中をローザに向けることになってしまった。ジャジラッドは死を覚悟した。
 されどローザマリアは撃たなかった。標準を彼の背に合わせたまま告げた。「ねえ、私とplay tag(プレイ タグ)しない? しばらくしたら追いかけるから、どこへなりともお逃げなさい……三千ヤード以内は駄目よ。まだそこは私の射程距離だから。一撃で終わってしまうわ」
 すなわちジャジラッドをして、ネルガルへのメッセンジャーたらしめようというのだ。仮に姑息な手を使おうと、イナンナ側にも迎撃の構えあり、決して負けないという意思表示だった。
 ジャジラッドは逃げ去った。その三千ヤードを越えるまでは、生きた心地がしなかった。
「手薄なここを突いて来やがったか」と大声で公言して鏨は額の汗を拭った。溜息してからカナンの民の無事を確認する。平静を保たねばならない。鏨は深呼吸して、その直後――腕を捻り上げられていた。
「バレないとでも思っていたのか」鏨の腕を掴んでいるのは姫神 司(ひめがみ・つかさ)だ。華奢な体躯にもかかわらず万力のような力で、男の鏨がどう身を捩ろうが決して離さない。
「お、オレはなにも……」
「そなた、社会勉強が足らんな。味方勢が手薄な時間帯をついた狼藉者の出現……スパイが紛れ込んでいることくらい容易に予想がつく」
「だけどオレがスパイなどという証拠がどこに……」
「狼藉者出現の報に駆けつけてみれば、警備役のはずのそなたが、艦を守るでもなく敵を攻撃するでもなく、一人コソコソして落ち着かなげな様子だ。それがスパイの態度でなくてなんだ? 終わった途端白々しく『手薄なここを突いて』云々と言ったのも滑稽なくらいだった。もっと演技力を鍛えておけ」司は彼を地面に組み敷いた。
「女の人に、手荒な真似はしたくないんです」そのとき食堂から、鏨のパートナーたる火車をグレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)が引き出していた。「従ってくれますね……」
「さて」司は腕に力を込める。鏨は顔を真っ赤にし、うめき声が洩れるのをこらえた。あと数キロ力を加えるだけで、鏨の右腕は砕けてしまうだろう。「カナンまで来てシャンバラの契約者同士で戦うなど本末転倒も良い所だが……仕方がない」司は彼に問うた。「苦しむカナンの民に仇なすのには、相応の覚悟があってのことだろう。貴様の覚悟、あるいは信念を聞かせろ。答えないのであれば……!」さらに腕の力が強まった。このまま折られれば、骨が繋がっても元通りに動かせなくなる畏れがあった。
「オレは……奇跡を起こす……男」
「弱い者虐めが奇蹟であってたまるかッ!」司は赫怒した。一時の享楽やお手軽な功名心で、弱者に仇なす者を彼女は許せなかった。
 このとき、「なら、抵抗できなくなった彼に拷問するのが、弱い者虐めでなくてなんですか!」火車が叫んだ。彼女はグレッグの腕をふりほどき、司にぶつかって鏨から手を放させようとした。
「火車……」脂汗を浮かべながら鏨は呟いた。続けて言いたいのは「……逃げろ」なのか「……やめろ」なのか、どちらだっただろう。鏨は自分でも判らなかった。
「どうしてもやりたいのであれば、鏨ではなくわたくしを尋問なさい!」黒い髪を振り乱し、怒らせた眼に涙まで浮かべて火車は怒鳴った。
「……」司は手を放し、立ち上がった。「その娘に免じてここで許す。ただし、そなたらは調書を取った上でシャンバラに送り返すゆえそのつもりで」
 いつしか鏨は、ローザマリア、未沙、理沙、加えてそれぞれのパートナーとカナンの作業員らに囲まれている自分を知った。(「和馬……試みに失敗したか……」)その仲間が、やってくる気配がないことにも気づいていた。少なくとも今日は、奇蹟を起こせそうになかった。

 やがて修理が再開された。
 ルミナスヴァルキリーが復活すれば、神聖都キシュ攻略作戦が可能となることだろう。
 ネルガルよ、豊穣の力を失墜させ戦の力を玩ぶ者よ、怖れるがいい。その時は確実に近づいている!

担当マスターより

▼担当マスター

蒼フロ運営チーム

▼マスターコメント

 マスターの桂木京介です。
 今回、本シナリオの制作者として、蒼フロ運営チームを代表してご挨拶させていただきます。

 まずはたくさんの方のご参加ありがとうございました! 期待をお寄せいただいているようで嬉しく思います。にもかかわらずリアクションの執筆時間がかかってしまい申し訳ありません。また、できるだけ多くの人を採用すべく奮闘しましたが、全員採用とはならなかったこともお詫び申し上げます。

 グランドシナリオということで、これまでにない様々な工夫や、展開を織り込んでみました。あなたの想いは反映されたでしょうか? 緊張しつつ公開しております。

 運営チームとの相談の上、本シナリオでは、ネルガルに接触しようというアクションの方は基本的に落選とさせていただきました。
 個人的には面白いと思うアクションの方も多数いらっしゃいました。断腸の思いも何度も味わっています。しかしそれを描いてしまうと、あまりにも本筋が拡散するという判断によるものです。ご了承ください。

 蛇足ではありますが、内容に関する解説です。
 『●龍の逝く穴(02):Dragon Attack』に登場した質問、「人生、宇宙、すべての答え」とは、とある古典SFにおける有名なネタです。Googleの電卓機能に入力しても計算されて結果が求められるようになっています。日本語版でも対応しておりますので、一度試してみて下さい。

 このシナリオでイコン『アンズー』が入手できましたね。
 また、『ルミナスヴァルキリー』の修理改築も、無事終わることができそうです。
 今後はこの二つの要素が、物語に大きく絡んでくることが予想されます。ご期待下さい。

 それでは、また近いうち、新たな物語でお目にかかりましょう!
 桂木京介でした。