校長室
【カナン再生記】緑を取り戻しゆく大地と蝕む者
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●龍の逝く穴(03-補遺) 砂鰐と採掘者たちの戦闘が繰り広げられる中、集められた機晶石を横取りしようとする者があった。カーシュ・レイノグロス(かーしゅ・れいのぐろす)である。 「へへっ、あるぜあるぜ大漁だ。たっぷり掘り出してくれてすまねぇな。ありがたくいただいておくぜ」彼に道徳や罪悪感というものは存在しない。特に恥じるでもなく持参の袋に、どんどん機晶石を詰めはじめた。「ほら、ハルトビート、手伝え!」彼は傍らのハルトビート・ファーラミア(はるとびーと・ふぁーらみあ)に怒鳴った。 ところがハルトビートは首を振った。 「カーシュ様、これは窃盗です。それも、カナンの困っている人達のために、皆さんがボランティアで採掘したを盗むという罪深さです。お願いですから真面目に生きて下さい」 「ああん? 何言ってんだ。真面目に生きてるから真面目に盗んでるんじゃねーか。俺は自分の欲望に対して、これ以上ないくらい真面目だぞ」 「そういう意味の『真面目』では……」 そのとき、毅然とした少女の声が二人を振り向かせた。 「そこの人たち! 何をやっているの!?」 館下 鈴蘭(たてした・すずらん)であった。彼女はカーシュの意図を察しているのだろう、厳しい表情だった。 「ドラゴンが出たぞー」カーシュは白々しく声を上げて、「あっちだー」などと指さすが無意味だ。 「すぐ目の前で仲間たちが鰐と戦っているじゃない。引っかかると思って!?」栗色の髪を躍らせ、鈴蘭は雅刀を抜いてカーシュに近づいた。「それ以上つまらない嘘をいうのなら……」 このとき声を上げたのはハルトビートだった。「すいません。この方は私の契約主カーシュ様とおっしゃいますが……この騒ぎのどさくさに機晶石を盗もうとしています!」 「いきなりバラすかオイ!」内心舌打ちしてカーシュは袋を手にした。(「ちっ、ここまで集めた分だけでも持ってずらかるとするか……」) しかしその袋がなかった。消失していた。 「えっと……さ、探しているのは……これ、だよね?」カーシュの袋を持ちあげたのは、鈴蘭のパートナーたる霧羽 沙霧(きりゅう・さぎり)である。隠れ身を使って、先にこれを手にしたのだ。「こ、このまま黙って去ればよし、こ、これをあくまで盗む気なら……」彼は手に怨念石を握り込み、投げるべく振りかぶった。「天誅、と叫んでこれを投げるからね!」 若干頼りない口調ではあるが、沙霧が完全に本気であるのをカーシュは察していた。 「バレたら仕方ねぇ! あばよ!」と捨て台詞して彼は逃げた。一礼してハルトビートがこれを追った。 「次に悪事を見つけたらこの程度じゃ済まさないからね!」 鈴蘭は満足げに剣を振って、今度は砂鰐と戦う仲間を支援すべく身を翻したのだった。