空京

校長室

戦乱の絆 第二部 第二回

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戦乱の絆 第二部 第二回
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■蒼十字船

 蒼十字船。
「――帝国軍は、本当にこちらを攻めて来る気配は無いようね」
 崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は、船内から外の様子を見やりながら零し、視線を滑らせた。
「それにしても、あなたが前線に出ないなんて、どういう風の吹き回しかしら?」
 彼女の視線の先で、神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)は油断無く戦況を確認していた。
 帝国から直接攻撃されることはないとはいえ、戦場で負傷者を効率的に回収するためには、ある程度の距離を保たなければいけない。
 刻一刻と変化する戦況に合わせて的確な指示を出すのは中々神経を削ることのようだった。
「敗戦の将だからか……それとも……」
 亜璃珠の言葉に、優子が薄く彼女を見やり。
「前線を知る者だからこそ、ここで出来ることがある。
 そして、私に不満は無い」
「まあいいわ」
 亜璃珠は笑んだ。
「今は成すべき事を……」
 踵を返す。
「私は、いつでも出られるようにしておくから」
 言って、亜璃珠は万が一の襲撃に備え、崩城 ちび亜璃珠(くずしろ・ちびありす)と共にイトハの元へと向かっていった。

 船内には、ひっきりなしに負傷者が運び込まれてきていた。
 しかし、人手が少なく、中々満足な治療を行き渡らせることは出来ていない。
 最低限の処置が行われた負傷者たちの中で、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は幸せの歌を歌っていた。
 それによって与えられる幸福感で、せめて傷の痛みを和らげるためだ。
 その負傷者の中には帝国兵も居た。
「……俺には、理解出来ない」
 従龍騎士の男の呟きに、ふと、メイベルは歌を止めてそちらを見やった。
「我々は戦争をしているのだ……。
 そして、ここは戦場――敵同士が駆逐し合う場だ。
 敵である我々を救うなど正気とは思えん。
 お前たちは、こんな事をしながら帝国に勝てる気でいるのか?
 未だに自分たちの置かれた窮状を把握していないのは、滑稽だ」
「…………」
「俺たちは、団へ戻れば再びシャンバラを攻撃するだろう。
 お前たちに救われた俺たちが、お前たちの仲間を殺すことになる」
「……それは、とても悲しいことですぅ」
 メイベルは素直にその感情を顔に表しながら言った。
「でも……。
 今あなたを助けられないのだとしたら、それも同じくらい悲しいことなのですぅ」
「…………。
 我々は……戦争をしているのだ」
 従龍騎士は己自身へ言い聞かせるようにこぼして、メイベルから顔を背けた。
 少しの間を置いてから、メイベルの歌声が優しく再開される。

 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)は温かいスープを作っていた。
 体を温め、傷ついた体を回復させるのに必要不可欠なものだ。
 それに――
(美味しいものを食べれば、さ。
 きっとその時だけでも戦いを忘れることも出来ると思うんだよね)
 腰に片手を当てながら寸胴の中のスープを掻き混ぜていく。




 蒼十字船内、貨物庫――
 無限 大吾(むげん・だいご)たちはアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)の手伝いを行っていた。
「これかな?」
 毛布の詰め込まれた箱を持ち上げて見せながら、アレナに問いかける。
「あ、はい。それです、その印の付いている箱が全部毛布なので……」
「了解。それじゃ、持てるだけ持って行こうか。
 アリカも一つくらい持っていけるかな?」
「うん」
 西表 アリカ(いりおもて・ありか)がひょいひょいっと荷物の間を飛び抜けてきて――
 外に雷鳴が轟く。
「うひゃっ!?」
 尻尾を立てながらアリカが固まる。
 見れば、アレナもお守りを握りながら、少し怯えたような表情を浮かべていた。
 そのお守りは、同じくアレナの手伝いをしていた大谷地 康之(おおやち・やすゆき)に渡されていた物だ。
「今のは近かったかもしれ……」
 と。
 大吾は持っていた箱を思いっきりアレナの方へと放り投げた。
「え……きゃっ!?」
 ザゥ――と裂音が走る。
 箱はアレナの横を抜けて、後方に忍び寄っていた何者かに寄って切り裂かれていた。
「アレナさん、こっちへ!」
「は、はい……!」
 大吾は素早く【インフィニットヴァリスタ】を構え、引き金を引いた。
 アレナが大吾たちの方へと駆ける。
 放たれた弾丸がアレナの背に襲い掛かろうとしていた機械化兵を撃ち抜く。
 敵の数は二体。
「アリカ!」
「うん!」
 ライトブレードを抜いたアリカがアレナと入れ替わるように前へ出る。
 同時に。
「どうした!?」
 貨物庫の入り口に大谷地 康之(おおやち・やすゆき)匿名 某(とくな・なにがし)が駆け込んでくるのが見えた。
「敵だ! 多分、アレナさんを狙ってる!」
「くぅっ!?」
 アリカが機械化兵のブレードに斬り飛ばされ、
「チッ」
 某が彼女の方へと駆ける。
「こいつら、忍び込んでアレナを討てるタイミングを待っていたのか?」
「んなろォオ!」
 トライアンフを握り込んだ康之が床を蹴って機械化兵へと距離を詰める。
 ゴゥ、と太い風音を巻き起こし、その大剣は敵を捉え、ふっ飛ばした。
 某が大吾の援護を受けながらアリカを抱いて、アレナの元へと向かう。
「彼女を頼めるか?」
「はい……!」
「思ったより早かったじゃないか。直感?」
 大吾の言葉に康之が大剣を構え直しながら。
「アレナに渡したお守り。
 某に細工しておいてもらったんだ」
 おそらく禁猟区が掛けられていたのだろう。
「なるほど」
 得心しながら大吾は機械化兵へと銃口を向けた。
「しかし、医療船のクルーまで狙うなんて……」
「こちらも容赦する必要はないな」
「全力で、ぶっ飛ばす!」




 空京――

 そこには、日本に居るミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)の呼び掛けによって集められた支援物資が、天沼矛を通して次々と送られて来ていた。
 それらを輸送機へと搬入する作業員たちの中――
「はい……はい……ええ、了解しました。
 輸送地点は……はい、問題ありません。では」
 夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)は、忙しく蒼十字船と連絡を取り合っていた。
 そうして、先ほど得た情報を元にスタッフへ指示を伝えていく。
 送られてきたこの多くの想いを無駄にしないために、細心の注意を払いながら。
 一通りの指示を終えた頃、
「……少し休んだらどうだ?」
 デュランダル・ウォルボルフ(でゅらんだる・うぉるぼるふ)に言われる。
「今、お前に倒れられては面倒だ」
「大丈夫ですよ。こう見えて案外、丈夫に出来てるんです」
 彩蓮は微笑んで、デュランダルの傍らに立つ人物を見やった。
 ミルザムの代理人だ。
 彼はミルザムへ支援を願いにいったデュランダルと共に空京へ訪れていた。
 一礼して。
「ご足労ありがとうございます」
「代理で申し訳ない。
 本人の気持ちは自身が訪れることにあっても、実質的にやれることは日本の方が断然に多いもので……」
「分かります。実地に向かえない者の気持ちは私にもありますから」
 先ほどの連絡の際に聞こえた蒼十字船の様子を思い返せば、例え、今ここに居ることが最重要だと頭で理解していても、胸の内が落ち着かない。
 彩蓮は、一つ息を置いてから。
「蒼十字への協力の約束を果たしてくださったミルザム様と物資を支援してくださった皆様には、深く感謝しています」
「伝えておきましょう」
 代理人の男は軽く笑んでから、スゥと目を細めた。
「地球では反パラミタの気運が高まりつつあります。
 こうした支援が行われる一方でも、それは着実に育っているように感じられる。
 それゆえ……ミルザム先生は、蒼十字の持つその性質にも期待しておられます」
「ええ。
 地球とパラミタの利害関係が複雑化していく現状において、蒼十字のような組織が実績を残していくこと。
 それは、いつか地球とパラミタの協調を進める上で、少なからず意味を持つようになる……。
 私も、そう信じています」


 ツァンダ――。
「流浪の踊り子にしてトレジャーハンターのシリウス。
 それはミルザム様が騙っていた姿ではなく、それこそが今のミルザム様の本当の姿だ」
 ツァンダ家に仕えるヴィルヘルム・チャージルが言う。
「今のミルザム様は、身代わりだったのか」
 シルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)は、静かに息を吸い、吐いた。
 周囲に人は居ない。
 ほんの短い時間だけという約束でヴィルヘルムには時間を貰い、人払いも願ってある。
「ミルザム様の死は、それを目撃したラズィーヤ様とバスラ様によって知らされた」
「……うん?」
 シルヴィオは引っかかるものがあって、片目を細めた。
「目撃証言だけ……?
 死体は?」
「消えていた。
 おそらくカンテミールが持ち去ったのだろう……」
 ヴィルヘルムの表情には苦いものが見て取れた。
「あの……」
 アイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)が真剣な表情でヴィルヘルムを見つめる。
「この事が公になるのも時間の問題だと思います。
 その時、ツァンダ家は、今のミルザム様をどうするでしょうか?
 あの方は、新たな道を歩み始めたばかりだというのに……」
「女王復活前、ツァンダ家と御神楽校長は踊り子の娘シリウスを女王候補ミルザムとした。
 あくまで真の女王を見つける間の代役として、だ。
 そのため、女王が復活して以後、彼女の価値は失われる筈だった」
 言って、ヴィルヘルムがアイシスを見やる。
「しかし、今、彼女は日本の政治家になろうとしている。
 つまり、彼女には日本とシャンバラを繋ぐ者として新たな価値が生まれようとしているということだ」
「では、その新たな価値が意味を持つ限り……」
「周囲にどのような情報が流れようとも、ツァンダ家は公式にミルザム様の死を認めることはないだろう。
 今のミルザム様は御本人として在り続ける」
 そして、ヴィルヘルムは視線を強めた。
「――そろそろ、この辺りも戦場となるだろう。
 剣を取らぬつもりなら、安全な場所へ急げ」
 ヴィルヘルムに促され、場を去ろうとしたアイシスが、ふと立ち止まり、振り返る。
「あの……今のミルザム様をどのように思っていらっしゃいますか?」
「ツァンダ家にお仕えする者として相応の忠誠を誓うのは当然のことだ。
 これまでも、そして、これからも」