空京

校長室

【カナン再生記】決着を付ける秋(とき)

リアクション公開中!

【カナン再生記】決着を付ける秋(とき)
【カナン再生記】決着を付ける秋(とき) 【カナン再生記】決着を付ける秋(とき) 【カナン再生記】決着を付ける秋(とき) 【カナン再生記】決着を付ける秋(とき) 【カナン再生記】決着を付ける秋(とき) 【カナン再生記】決着を付ける秋(とき)

リアクション


黄金と白銀 7

 市街地を駆け抜けるシャムスたちは、3つ目の城門を潜り抜けて中心街へと指しかかろうとしていた。当然、他方城門を守っていた兵士たちが集まってきて、最終防衛ラインを守ろうと必死になってシャムスたちへと迫ってくる。
 だが、こちらとて立ち止まるわけにはいかなかった。そのために、シャムスに率いられる南カナン兵たちが先行して敵兵へと突貫する。
 筆頭は『漆黒の翼』騎士団だ。洗練された動きは並みの神官騎士の攻撃など諸ともせず、一瞬の攻防の間に敵の刃を跳ね退け、弾き飛ばす。
 そして、そこから続く部隊は――ロイ・ギュダン(ろい・ぎゅだん)に率いられた潜伏兵団ギュダン隊だった。
「行くぜ野郎ども! 俺たちの力を見せつけてやれ!」
「了解!!」
 南カナン解放の際にともに戦ってきた部下たちは、ロイの声に一斉に応じた。敵軍の後方に見えるのは僧侶の支援部隊。そこまでの道を作るのが、俺たちの役目だ。
 アーミーショットガンを構えて、駆け込みながらロイは引き金を絞った。連続して射出される銃弾の雨が、神官騎士を激しく撃ち抜く。背後で、部下たちが横合いの敵を倒す音を耳にした。
 指示を出そうとしたが、それよりも早く部下たちは扇状に展開して壁を作った。シャムスを守り、そのまま扇状から槍のように陣形を組み替えたギュダン隊は、そのまま敵の騎士部隊へと切り込んでゆく。
 まったく……こちらが言うよりも早いとな。
 だが、敵の中央に切り込んでゆくということは、同時に危険を冒すということでもある。徐々に負傷してゆく味方の兵士。それを即座に救護するのは、移動救護班を連れたアデライード・ド・サックス(あでらいーど・どさっくす)だった。
「べ、別に、あんたたちのことを心配なんかしてるわけじゃ無いんだからね!!」
「そ、そうよ……傷ついてるから癒してあげなくちゃ……なんて、思ってないんだから!」
 救護班としては言ってはならないことを言っているが、彼女たちは何のかんのと手際よく負傷兵を後退させていた。
 と――部下へと迫った剣戟を、ロイが受け止めた。とっさのことだったので肩口にえぐりこんだ刃。血があふれ出るが、そんなことを構わずにロイは即座にショットガンを撃ち込んだ。
「隊長……隊長! 大丈夫ですかっ!」
「ロイ……そなた……何をやっていますの!」
 部下と、そしてアデライードが心配そうにロイを覗きこんだ。倒れこみそうになる彼に、アデライードが肩を貸す。彼女の手のひらからぼんやりと光る温かな光は……ヒールか? ロイは朦朧とした意識が次第に回復してくるのを感じた。治療が早かったおかげでもあるのだろう。なんとか、傷口は元に戻って血が止まる。
「隊長……すみません、俺のせいで」
 ロイに救われた部下は、自分を責めてうなだれていた。だが、そんな彼にロイは不敵に笑ってみせる。
「何言ってやがる。俺の背中を預けられるのは、お前たちしかいないからな。みすみすやられるのを見過ごせるかよ」
「隊長……」
「辛気くせぇ顔するな! まだ敵はいるんだ、行くぞ!」
「は、はい!」
 再び、ロイと部下は戦いを再開した。そんな彼らを、アデライードはわずかに羨ましそうに見つめていた。
 そして、ロイたちが作り上げた道の先――後方支援部隊であった僧侶たちの詠唱を寸前で防いだのは、ニーナ・イェーガー(にーな・いぇーがー)を中心としたイェーガー小隊だった。いや、正確には……ロイたちの猛撃に後退してきた神官騎士たちをも巻き込んで、敵を追い詰めているというべきか。
 ニーナの声が、小隊員を激励する。
「夜月! 敵を一箇所に集めてください!」
「了解」
 簡素にして簡潔。だが、力強い返答が返ってきた。
 二刀のカットラスを構えた夜月 鴉(やづき・からす)が、パートナーであるアルティナ・ヴァンス(あるてぃな・う゛ぁんす)とともに敵へ迫る。
「ティナ……右を頼む!」
「分かりました、主」
 聖剣ティルヴィング・レプリカ――主神オーディンの血を引く王、スウァフルラーメが所有していたとされるティルヴィングの模造剣は、本物ほどの力はなくとも、アルティナにとっては使い慣れたもう一人のパートナーだった。
「はああぁぁ!」
 気合の一閃が振り抜かれると、刀身から爆炎の斬波が放たれた。再び体勢を整えるために散り散りになろうとしていた敵兵の動きを止める。
 左では、鴉が同様に攻撃を仕掛けるところだった。紅の魔眼――解放された魔力が彼の身体を包む。目に見えて魔力が放出され、思わず敵兵はそれにたじろいだ。それが、隙となる。
「…………」
 無言。
 そして一閃。氷と炎。二刀のカットラスからそれぞれ放たれた魔力の衝撃波は、敵兵を吹き飛ばした。更に、氷の斬撃は敵の足を食い止める。
 見事だ。無駄のない連携。片方が動きを止めれば、片方はそれに間を置いた攻撃で敵のバランスを崩す。
 ニーナは低空飛行で飛ぶ小型飛空艇から対物ライフルを構えながら、自然と笑みをこぼしていた。それは、イェーガー小隊と名づけられた己が部隊に対する誉れ。二人とともに戦えていることを、誇りに思えるからだ。
(本当に……私にはもったいない人たちですよ)
 ライフルの照準が敵の先頭にいる騎士を捉えた。どうやら、敵を率いる上級兵のようだ。混乱する仲間たちを叱責して、鴉たちの攻撃から逃れようとする。だが……
「そっちじゃなくて……こっちです、よ……っ」
 ニーナの撃ち込んだ銃弾が敵兵の鎧にぶつかり、相手を弾き飛ばした。衝撃に崩れる敵兵。それに驚き、立ち尽くす仲間の兵。チャンスは、いまだ――。
「ゾルダート、今ですっ」
「了解です、マスター」
 即座――ニーナの頭上を越えて軍用バイクで飛び出したのは、物々しいいかにも機械といった外装をした機晶姫だった。ニーナのパートナー、ゾルダート・クリーク(ぞるだーと・くりーく)だ。
 軍用バイクに装備された大型機関銃が火を噴き、敵陣の正面にいた敵を吹き飛ばす。そして彼は、軍用バイクから悠然と降り立つと、固定具付き脚部装甲を地面に打ち込んだ。目には見えないが、砂中では竿のように長いステークが、反動で動かぬように彼を固定していた。
 そして――二機の六連ミサイルポッドが敵兵たちを捉えた。
「夜月、アルティナ!」
 ニーナの叫びを聞いて、鴉とアルティナがその場を瞬間的に離れた。負傷した味方兵の姿に戸惑う敵兵は、もはや抵抗する暇を与えられない。
 ガチャ――ミサイルポッドのハッチが開く。
「射出」
 無機質な音声信号が発せられた瞬間、ミサイルポッドが敵の一団に降り注いだ。閃光が放たれたと思ったとき、無数に響く爆発音。爆発の火炎が燃え上がるのを確認して、ゾルダートは呟いた。
「敵の殲滅を確認……」
 彼の視覚素子に、敵兵の姿はなかった。
「ところで……シャムスさんは?」
「そういえば、大型のトラックに乗って神殿まで向かってましたけど……」
「トラック……?」
 アルティナの返答を受けて、ニーナは首をかしげた。そして、すぐに合点がいく。そうか。トラックということは、アレが間に合ったのか。
「それにしても、そのまま突っ込むなんて……相変わらず無茶しますね」
 自称フリーライターを名乗る女の事を思い出しながら、ニーナは感嘆とも呆れともつかないため息をついていた。