空京

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開催、空京万博!

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■追跡!


 伝統のパビリオンの外、ショップが建ち並ぶ路地裏。
 コントラクターたちに追われた賊が近づいて来るのを郁乃の超感覚が捉えていた。
 そして、賊は郁乃とシャーロットが張り込みを行なっていた地点を過ぎ去った。
「中央へ向かう方に行きましたね」
「万博の外に出るには、どうやったって遠回りなのに」
 賊の行く先を確認し、すぐに二人はそれぞれ、次の役目を担う者たちへとそれを報告した。

 万博上空。
 空から警備に当たっていた緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)はシャーロットたちからの連絡を受けて、広場が見渡せる方へと向かった。
 ダークビジョンで夜の暗闇の中を難なく見通せる。
「特に仲間が待機しているというわけでも無さそうですね」
「……あの、遙遠……」
「どうしました?」
「あそこに、その、なんとなく物騒げな儀式を行なっている方が……」
 遥遠が、広場から離れた一点を指さす。
 ショップの建物の屋根上、看板などの死角。
「あれは……」
 そちらへと近づいた二人の耳には、
「めてお、めておうつ、めておったらめーてーおー」
 という牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)の声が聞こえてきていた。
「なんて無邪気に物騒なことを……」
 遙遠は深く嘆息して、そちらの方へ降下していった。


 一方――
 連携して賊の行く手に先回りながら、その向かう先を探る3つの影があった。
 その内の一つ。
「ったく、せっかくの祭りだから遊び倒そうと思ってたのによお」
 強盗 ヘル(ごうとう・へる)は光学迷彩で姿を闇に溶け込ませながら指定されたポイントへ向かって、ショップの屋根を駆けていた。
 辺りの警備はわざと薄くなっている。
 賊に気持ち良く潜伏場所へ帰ってもらって、その位置を探るためだ。
 だから、こっちも完璧な隠密行動が要求されている。
「夜に備えて昼間は遊ばずに寝てんだぜ……とっとと犯人を捕まえて――と」
 遠く、賊が過ぎ去る気配を確認する。
 通信を開き、ヘルは、あらかじめ示し合わせていた地図記号で報告を行った。
「ヘルだ。賊はブロック31から40へ逃走。相変わらず元気に駆け回っているご様子」
 すぐにザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)の声が返る。
『ザカコです。こちらでも賊を確認。
 賊は40から44へ。広場方面へ向かってますね』
「もうかよ。早過ぎるぜ……ほんとに捕まえられるのか?」
 ヘルは既に次の観測ポイントへ向かいながらボヤいた。
『どうでしょうね。しかし、潜伏場所が分かれば今までに奪われた展示品も取り返せます』
「展示品、なあ。なんだって、わざわざ万博期間中にこんな事してんだか。
 奪うのが目的なら終わってからでも良いだろうに」
『一つ考えられるのは、展示を行う都合上どうしても保管場所が限定されるということでしょうか。
 護るのに特化した場所ではない分、奪い易くはある。
 犯人がどういった形で施設の情報を得ているのかなどに拠りますし、他に理由が存在している可能性も十分にありますが……』
「理由……幻の展示品を集めてる理由とも関わるものなんだろうかな」
『これだけの騒ぎを起こしてまで盗もうとするからには、何らかの大きな目的があるのでしょうね。
 ただ……今までの動きから垣間見える『全てを集める事に固執していない』という、この感じは妙です』
「陽動?」
『その可能性も』
「だとしても、何のための陽動なのか分からないな」
 やれやれ、とハットを抑えながらボヤき、ヘルはショップの屋根から屋根へと飛んだ。


「――見失ったか」
 佐野 亮司(さの・りょうじ)は、音を立てないようにダッシュローラーを止め、建物の影に身を潜めながら呟いた。
 ザカコとヘルといった賊の追跡を目的としたコントラクターたちと連携しながら、なんとか追えるところまで追ってみたが、相手のスピードを制すことは出来なかった。
 通信を開き、
「すまない、広場付近で見失った。
 とりあえず何か手がかりが無いか調べてみる」
 と伝えておく。
「何か手がかりって?」
 亮司の装着している魔鎧藤堂 忍(とうどう・しのぶ)が問いかけてくる。
「何かだよ、何か」
 軽身功による身軽さを活かし、そばの壁をたたんっと蹴り昇り、屋根の上へと出る。
 ノクトビジョンを通した視界は暗闇でも問題なく見渡すことが出来た。
 広場の中央、何かがヒラッと舞ったのを見つける。
 辺りを伺い、亮司はブラックコートをはためかせながら、音少なに地上へと飛び降りた。
 隠形の術と隠れ身の技術を併用しながら、先程発見した『何か』の方へと身を馳せる。
 そうして、拾い上げたのは、ベタベタとした紙切れだった。
「こいつは……何だ?」
 摘み上げた状態で、顔へ近づけてみると独特の臭いがした。
「伝統パビリオンでラックが打ち出したっていうペイント弾の飛沫か……。
 って、ことは、やっぱり賊はこっちの方へ来てたんだな」
 ふと、視線を上げてみる。
 人っ子一人居ない静かな広場の向こう、月明かりをバックにした、たいむちゃんタワー。
 と、そこへ、月明かりを背にした小さな黒い影が一点。
 それがズンズンと近づいてきて。
「賊を一網打尽ですわーー!」
 亮司の方へと飛び込んできたナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)が、ものっそいイイ笑顔を浮かべながら対神刀の魔法攻撃で辺り一帯をふっ飛ばした。
「なんでだぁああああああああ!!?」
 ずどぉおおおふぅうううんんっっ、とか冗談みたいな爆音と爆風に吹っ飛ばされながら、亮司は全力で叫んでいた。


「……一体……どういう事なんだよ……?」
 荒涼な光景と化した広場と同じくらいズタボロになった亮司の問いかけに、ナコトが対神刀を腕に抱きながら。
「だってマイロードが攻撃する時は笑顔の方が良い、というので」
「表情の話じゃない!!」
「あれー? なんでそんなボロボロになってるんですか? 亮司さん」
 声が上から降ってくる。
 次いで上空から降りて来たアルコリアを亮司は睨みつけた。
「お前のパートナーに賊と間違われたんだよ」
「そんな真っ黒けっけの格好をしてるからじゃないですか?」
「隠密で賊を追跡してたからだ!!
 というか、万博内でこんなド派手な攻撃を使わせるな!」
「えー、でもー、本当はメテオりたかったところを取りやめたのだから、そこのところは評価して欲しいですね」
「お前は万博を崩壊させるつもりか……」
「遥遠さんたちに儀式が見つかって、何だかすごく怒られました」
 アルコリアの言葉を聞いて、亮司は遥遠たちに心から感謝した。
 と――
「これは何事ですか?」
 広場の端、惨状を目の当たりにした神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)山南 桂(やまなみ・けい)が駆け寄ってくる。
 彼らは確か警備に当たる者たちへ夜食を配っていた。
 たまたま近くに居たのだろう。
「何だか、すごいことになってるわね……。皆、大丈夫?」
 もう一方の道から現れた たいむちゃんが心配そうに歩んで来る。
「悪いのは全部――」
「てい」
 アルコリアを指さした亮司の人差し指へとアルコリアのチョップが落ちる。
 亮司はボキッとやられた激痛にうずくまった。
 翡翠が片眉を顰めながら亮司を見やり。
「良くわかりませんが、まずは傷の手当てですか」
 そして、翡翠は傷の手当てをしている間に辺りを見回して。
「とにかく、開場時間までに何とかしないといけませんね。
 ダメージを受けた地面の修復、それから瓦礫と化した屋台の修繕――」
 言いながら、桂は笑みを強くしていき、最終的にアルコリアとナコトと亮司をやたらと怖い笑顔で見やった。
「張り切って防衛なさるのは良いですが、後の事も考えましょうね」
「また怒られちゃいました」
「何で俺まで……」
 てへ、と舌を出したアルコリアの足元、亮司はしゃがみ込んだ格好で深く溜息をついた。
「私も手伝うわ」
 たいむちゃんが何やら必死な様子で言う。
「しかし、たいむちゃんは……」
「足手まといにならないように頑張るから手伝わせて。どうしても、やりたいの。お願い」
 翡翠は少し迷ったようだったが、結局、たいむちゃんの熱意に押されるような形でうなずき。
「では、皆さん。
 そうと決まればキビキビと動いていきましょう。
 時間はありませんよ」


 そうして、後から駆けつけた他のコントラクターたちも加えつつ、翡翠の厳しい指示の元で広場の修復は夜通し行われた。
 朝日が昇り、皆がヘロヘロになった頃、ようやく作業は終わり……
 万博に響き渡る開場の合図に背中を押されるようにコントラクター達は撤収していったのだった。