空京

校長室

【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ

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【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ
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リアクション

 弾幕により、撃墜された魔族兵がすべて即死していたわけではなかった。
 軽傷で墜落をした者、上空は危険と悟って自ら降り立った者、そして彼らが現れる前から地上で戦っていた者たちがいる。それら魔族兵を相手に、レオンハルトは精力的に無常大鬼をふるっていた。
 傍らでは、イヴェイン・ウリエンス(いべいん・うりえんす)が金色の柄を握りしめ、ザナドゥの闇にありて一際輝く光の刃、聖王の剣をひらめかせる。レオンハルトの後背を狙い、突撃をかけてくる敵はファランクスで向かい討つ。
「主君を護るは騎士の本懐。此処は自分が御相手致します。いざ、参られませ」
 優雅な物腰、敵の攻撃をいなしてすり流す動きはなめらかで、芸術的ですらあったが、いったん攻勢に出ればその剣は激しく容赦がない。
 2人の周囲はまたたく間に魔族兵の屍が埋めた。
 だが魔族兵たちも負けてはいなかった。新たに現れた人間の持つ武器に動揺し、その勢いに押されてはじめのうちこそ守勢に立たされていたものの、時間を経るにつれ少しずつ本来の力を取り戻す。体勢を立て直した彼らは、やがて動きを読み、なかなか銃弾に当たらなくなってきた。敵を見極め、前衛と後衛に分かれて魔弾による中・遠距離攻撃でもって銃や魔法に対抗する。
 上空の仲間の動きを制限する弾幕を消そうと、悠や翼、日奈々たちを狙い撃ちしてくる魔弾に対抗して、冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)が防御魔法を張り巡らせた。
 護国の聖域、オートガード、オートバリアが鋼鉄の獅子部隊を包み込む。常に重ねがけすることで強度を増し、遠距離からの魔弾は一切貫通させない。
 魔族相手に魔法防御は必要ないかもしれなかったが、彼女はこちらの不意をついて奇襲に出てくるかもしれないザナドゥ側コントラクターのことも警戒していた。仲間たち、そして愛する日奈々を傷つけさせないためには、あらゆる手段を抗しておきたい。いざとなれば、サクリファイスを用いる決意もしている。――日奈々には内緒だけれど。
 しかし千百合のその決意は暗黙の了解として、周囲の者には伝わっていた。日奈々もまた、それが何かは分からないまでも心で感じ取って、杖を持つ手とは反対側の手で千百合のそでの端を握っている。
 千百合にそんな真似はさせられない。弾幕の下にとどまった魔族兵をほぼ掃討したと判断したレーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)ルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)は、次に地上で魔弾を放とうとする魔族兵への狙撃に移った。
 ザナドゥはうす闇の世界。光術やファイアストームなど、戦闘によって光源が各場所で生まれているとはいえ、まだ不鮮明な場所も多い。そのことによる撃ちもらしを避けるため、レーゼマンはシャープシューター、スナイプ、エイミングで補う。しかしそれはどれも視認確認が前提となる攻撃だ。見えざる敵を撃つことはできない。そのため、彼らの盾として前衛に立った彼のパートナーイライザ・エリスン(いらいざ・えりすん)が、グレートソードで戦いながら敵の位置を正確にレーゼマンへと伝えていた。
「おっと」
 首をすくめ、流れ魔弾を避けるルース。
「やはり連れてきた方がよかったんじゃないか」
「……だれをです?」
「ソフィアだ。だれのことだと思ったんだ?」
 一瞬、妻・ナナのことを考えたルースは「ああ」とつぶやきながらあごを掻く。
 今回パートナーのソフィア・クロケット(そふぃあ・くろけっと)は、留守番として置いてきていた。きっと今ごろ平和にテレビを見ているか、家の掃除でもしているのだろう。「こんなに短時間で、どうしてここまで散らかすことができるんですか?」とかぶつぶつ言いながら。
 そう思うと、ほっこり心がなごむ。
「いいえ。彼女はあれでいいんです」
「そうか」
 かすかにほほ笑んだルースの横顔に、レーゼマンもうなずく。
「それより。さぁ、思う存分いきますよ、相棒」
 額に上げてあったノクトビジョンを下ろし、レーヴェンアウゲン・イェーガーをかまえ直すルース。応じるようにライフルを持ち上げたレーゼマンにイライザからの報告が入る。
「11時の方向、距離20です」
「了解した」
 うす闇の中、魔弾を放とうと動く影に狙いを定め、レーゼマンはトリガーを引いた。


 張り続けられる弾幕により、いまや完全に上空と地上は分断されていた。
 ライゼ、未沙、アルジャンヌの働きによって、弾幕を上空へ抜ける者はいても、上空から下へ突っ切って現れる者はいない。
 地上ではレオンハルトを先頭に前衛が盾となって敵の接近を阻む一方、後衛が射撃による面制圧を行っている。くしくもそれは、魔族兵のとる戦法と全く同じだった。
 ただ、鋼鉄の獅子部隊側の前衛は薄い。重火器を操る後衛は足りていたが、前衛で剣を持って戦う者が少なかった。進攻を食い止めきれず、すり抜けられてしまう。
 そんな中、ジュノ・シェンノート(じゅの・しぇんのーと)たちの回復魔法により力を取り戻した地上班の面々がついに戦場へ復帰した。
「よっしゃ! やるぜぇ!!」
 一騎当千の鋼鉄の獅子たちの活躍を目にすることで勝機を見出した彼らは、先までの疲労も完全に吹き飛ぶ思いで勢い込む。
「あれは……」
 それまで、戦場の把握に努めつつ、怒りの歌や悲しみの歌、荒ぶる力で仲間の補助を行っていたウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)は、戦線復帰した者たちの中にバァルの姿を見つけて走り寄った。
「きみは、たしか」
 近付くウォーレンに気付いたバァルがそちらを向く。
「ウォーレン・アルベルタです。エシムの友人の」
 その名に、わずかにバァルの面が曇るのが分かる。それでもウォーレンはひるまず言葉を続けた。
「俺に、あなたのそばで戦わせてください」
 あいつの代わりに。きっとあいつはここにいて、あなたを護りたいと思っているに違いないのだから。
 ウォーレンの胸に、領主殺害未遂犯として地上へ連行されていったエシムの姿が苦くよみがえる。
 もしもあのときそばについてやっていたら、とか、過去を後悔する「たられば」の話は好きじゃない。ただ、友のために今の自分にもできることがあるなら、してやりたい。
 そんな彼の無言の思いを受け止めるようなバァルのうなずきに、ウォーレンは獅子の光翼を展開し、上空へ上がった。
「ウォーレン」
 ジュノが自翼を用いてその横につく。
「お疲れさん。なんだったら休んでいてもいいんだぞ?」
「まだあなたたちは戦っているというのにですか? まさか」
 口端を少し持ち上げて笑う。その目は疲労に少し明度を落としてはいたが、その何倍ものやる気に満ちていた。
「そうか。なら、やろう」
 今も戦う友のために。そして、ここにいられなかった友のために。
 魔族兵にたたきつけるように悲しみの歌を歌い始めた彼の横で、ジュノがワイヤークローをかまえる。
 その下で。
 バァルがすらりと剣を抜き、高く掲げた。
「これより一気攻勢をかける! 逃げる者を追う必要はない! だが向かってくる者に一切容赦は不要! 斬り捨てろ!
 全員突撃!!」
 振り下ろされる剣。
 おお! と気炎を上げ、前方の敵めがけて一斉に走り込む。

 怒涛の反撃が始まった。