空京

校長室

【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ

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【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ
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リアクション

 もはや、藤乃たちにとってバルバトスを守ることは存在意義と同義でもあった。
 己が神を守ることを放棄する信者がどこにいようか。全ては、バルバトスのため。そのためには、障害になるものは何者をも取り除くのだ。
 マリカ・メリュジーヌ(まりか・めりゅじーぬ)の《則天去私》による光の拳が近接戦闘でまばゆく輝く。
 彼女の拳と藤乃の《フォールアウトX》――巨大な黒い直方体のレーザーブレードがぶつかり合った空間は、風圧で近くの兵を吹き飛ばすほどの衝撃波が生まれ、無数の穴と地割れを地面に作っていた。
「藤乃様……どうして、こんなことをするんですかっ!」
「……それが、バルバトス様の御心だからです。神のご意志に従うのは、当然でしょう?」
 藤乃はまさしく狂信と呼ぶにふさわしい、悦に入った目でそう言った。
 だが、マリカには、それが彼女の本当の意思だとは信じられなかった。伊吹 藤乃という人間が、本当に抱く意思だとは。
「魔族だから、人間だからじゃない……! そうやって抱きしめてくれたのは、藤乃様ですよね!」
「…………」
「折角掴みかけた幸せを、昔の因縁で台無しにされるなんて私は嫌です。だからその……私は……藤乃様を奪い返しにきました!」
「くだらない……」
 ぼそりとつぶやかれる藤乃の声。
 再び、二人はぶつかり合った。だが今度は、マリカは《則天去私》で床をわざと叩くと、その瓦礫を目くらましにして距離を取る。次いで、彼女の手から放たれたのは《バイタルオーラ》――閃光のごとき光を散らす、エネルギー弾だった。
「バルバトス様が神だというのなら、私も、いつかそうなってみせます」
 優しき悪魔の瞳が強い意思の色を帯びた。
 そう。いつか。
 いつか自分も、そうなったとき。
 藤乃は、自分を見てくれるかもしれない。だから。
「必ず……私もなってみせますから! えっと…………そのうち!」
 マリカは自分の精一杯で、藤乃にまっすぐそう告げた。
「まったく、あの子も不器用ですわね」
 そんなマリカを視界の端に見ていた崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)が、呆れたようにつぶやく。
「そうは思わないですか?」
「かたり、わかんなーい」
 亜璃珠の問いかけなど意に介さず、藤乃のパートナーのかたりはケラケラ笑いながら《フラワシ》によって攻撃を仕掛けてきた。
 左右に炎と氷の別々の能力を持った、合計6枚の翼を輝かせるフラワシ。それの驚異的な力が地をえぐるのから、《ルビーのペンダント》の魔法耐性もあってなんとか免れて、亜璃珠はため息をついた。
「こっちは話も聞いてもらえなさそうですわね。まったく……」
 戦いはマリカの役目。自分は防御に専念し、こちらの気を引いておく必要がある。
 ただ、余計なことに気を取られて戦える相手でもない。
 《ダークネスウィップ》の尖鞭が音を立ててうなり、亜璃珠は見えぬ霊体と戦いを繰り広げた。


「てめぇら雑魚には用はねぇ! 邪魔すんなっ!」
 バルバトスの元に向かいたいのは山々だが、ここで優斗たちをつぶしておかなくては、シャムスたちに味方を与えることにもなりかねない。それを冷静に判断できるほどには、竜造は愚かではなかった。
 だが、胸にこみ上げるのは、煮えたぎるような苛立ちだ。
(手紙に書いただろ? その憎悪。おまえがナラカまで持っていく前に俺が奪ってやるってよ)
 自分たちの背後でシャムスらと戦うバルバトスが視界に入るたびに、足が勝手に動き出しそうになる。
(だから――だから、勝手に先にくたばんじゃねぇ! お前が抱えた人間への憎悪を全てよこせ。それは冥土の土産にするには贅沢な代物だ。そのための代償だったら……そのためなら……)
 彼の瞳が、目の前の兵士と契約者たちを睨みあげる。
「なんだって、くれてやらぁッ!!」
 竜造の剣が、血反吐を吐くように轟とうなりをあげて、叩きつけられた。
(やるねぇ〜、竜造。ま、おじさんは、いつも通り、仕事をするだけだけど)
 それを視界の隅で見ていた徹雄は、薄情ともとれる意識でそう考える。
 竜造の影に隠れて、敵の視界から外れると、すぐに別の方向から合間を縫って短刀の刃を輝かせるのだ。まるで忍者のような身のこなしに、兵士たちは翻弄されていた。
 と――そんな竜造と徹雄を視界の隅で見ながら、彩羽たちも兵士らと戦いを繰り広げていた。
「まったく……むこうもキレイ事かしら」
「ボクの魂はどうなるんだよっ!? なんかもームシャクシャするから、お前らでウサ晴らしするじゃんっ!」
 冷然とつぶやく彩羽とは裏腹に、彼女のパートナーであるアルは感情の赴くままに兵士をズタズタに破壊しつくす。
「墜ちろヨグ!」
 《血のインク》の効果でふくれあがった魔力で、《天のいかづち》による雷をたたき落とし、
「咆えろクトゥガァ!」
 《歴戦の魔術》が鍛え上げた魔法弾を撃ち込んだ。
 まるで魔法を使う獣かなにかが大暴れしているかのようである。しかし、そのほうがまだ、彩羽にとっては美しい姿に見えるものだった。
(絆だの正義だの…………可笑しすぎて笑っちゃうわ。これは戦争よ? そのことを……自覚しているのかしら?)
 だが、たとえそれを口にしたところで、空虚であることは自分も分かっている。
 だから彼女は、その銃の矛先を目の前にいる兵士たちに向けた。
 バルバトスの配下――アヤとして。


(俺はハニーといたいだけなんだがなぁ)
 と、思いつつも、風祭 天斗(かざまつり・てんと)は、やはり自分の契約者のことは気になるのか、隼人と優斗がぶつかりあうその場にとどまっていた。
 当初、隼人は姿を消してバルバトスに挑むつもりだった。
 だが、あのバルバトスがたったそれだけで彼の動向に気づかないはずもない。魂を奪われている彼が、バルバトスに操られてしまうのはそう遅くはなかった。
 そして――隼人と優斗はぶつかり合う。
 諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)の援護を受けながら、隼人の攻撃を必死に避けつつ急所を外して戦う優斗。
「優斗……いけますか?」
「……うん。大丈夫。……ここで、止めてみせるよ」
 当初の予定通り、優斗はその腕にはめられた《アクセルギア》の準備を始めた。
 問題はタイミング。それを見誤れば、こちらの身体がもたない。
 隼人が獣のような雄叫びをあげて優斗を狙ってきた。
「孔明!」
「ハッ」
 孔明が放った《氷術》が隼人の足を狙い、その動きを一瞬だけ止めた。
 その瞬間。
 優斗は《アクセルギア》を全開にする。
 超加速状態に入った優斗は風さえも通り越すようなスピードで隼人の懐に入った。そして、その手に《サンダークラップ》の雷の力を込める。時間にしてわずか5秒。その短時間で――無数の雷撃が、優斗の身体を打ち抜いた。
 《アクセルギア》の効果はそこで途切れる。
 ――倒れ込んだのは、隼人だった。
「はぁ……はぁ……はっ……」
 だが、その上に優斗もくずおれる。
 限界まで高められた身体能力は、体中の筋肉という筋肉をはじけ飛ぶかというぐらいに痛めつけていた。
 しかし、それがいまは心地よい。倒れ込んだ隼人が、それまでの操られていた生気の無い瞳ではなく、安らかな顔で気を失っていたのだから。
 と――
「バルバトス様ッ!?」
 つかさの悲鳴のような声が聞こえたのは、そのときだった。