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リアクション
【5】検討班と、目つきの悪い女の子
ここは、審査会場とはまったく別のところの、大きな庭園。
木々に囲まれた緑豊かなその庭園の真ん中に、白い大理石造りのテーブルがある。その上に設計図を広げながら、杜守 柚(ともり・ゆず)、藤崎 凛(ふじさき・りん)とシェリル・アルメスト(しぇりる・あるめすと)、それにポムクルたちが、あーだこーだと話し合っていた。
審査を通ったものに関して、設計図を書いて計画を練っているのだ。
資材はどうとか、どのぐらいの土地が使えるかとか。凜は「このへんに温泉をつくったらどうでしょう?」と提案したり、「サウナなんかもあるといいですね」と笑った。もちろん、温泉と言っても、温泉水を引くのは難しい。天然ではない温泉になるが、その代わり、スパみたいにして、ポムクルたちの疲れを癒やせるようにするつもりだった。
が、話し合いと言っても、まだ検討段階。一段落すると、柚はお茶を用意してポムクルたちとその場にゆっくり腰を落ち着けた。
「ふぅ〜……お茶がおいしいです」
「うまうまなのだー」
「おちゃがしもさいこうなのだー」
すっかり和み、目を細くする柚と、ばりぼりお茶菓子を食べるポムクルたち。
凛とシェリルもお茶を飲む。ひざの上や、テーブルの上に、ポムクルたちはちょこんと座っていた。
「ポムクルさんたちを見てますと、なんだか癒やされますね〜」
凜はぽわぽわっとした顔で言った。
「温泉は、ポムクルさんたちが過ごしやすいところにしましょうね」
「やっぱり温泉って言ったら、フルーツ牛乳とかも必要かな」
シェリルがポムクルさんの頭をぽんぽん叩きながら言った。
「いいですね〜」
凜がほほ笑み、柚も、うんうんとうなずいた。
と、そこに、遠くから誰かが近づいてきた。
「あ、三月ちゃんです」
柚が言ってからしばらくして、杜守 三月(ともり・みつき)は肩にたくさんの角材を背負った格好でやって来た。角材には、ポムクルさんが三匹ほど乗ってる。と、後ろに二人ほど、新顔も連れてきてた。
グラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)とシィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)だった。
グラルダは実に目つきの悪い女の子で、じろりと柚たちを見つめた。シィシャは黙ってぺこりを頭をさげる。
「ど、どうも……」
柚と凜も、頭をさげた。
「実はさっき、そこで出会ったんだよ。ポムクルさんたちに興味があったみたいだし、連れてきた」
三月がグラルダたちを紹介して、説明した。が、ぽかんとしている柚たちを見て、すこし不安そうになった。
「……まずかったかな?」
「ううん! そんなことないですよ! ほんと、そんなことないです!」
柚は慌てて言い訳した。
ただちょっぴり、グラルダの目つきとシィシャの雰囲気が怖かっただけだ。なにせグラルダは常に不機嫌そうに見えるし、シィシャはなにを考えているかわからない顔をしてる。と、グラルダが、ある一点に視線を集中させていることに気づいた。
それはテーブルの上でもぐもぐ饅頭を食べているポムクルさんだった。
グラルダはゆっくり、ゆっくりと、ポムクルさんに手を伸ばす。が、ポムクルさんはそれに気づいてびくっとすると、ダッとそこから逃げだした。
「……なんか、逃げてくんだけど」
グラルダは眉間に皺を寄せてつぶやいた。
そりゃ、それだけ怖い顔してたら、逃げだしたくもなる。けれど、理由にいまいち気づいてないグラルダは、やっぱり怖い顔のままで首をひねった。
「水をかければ増えるのでは?」
いきなりシィシャが言い出した。どう考えてもおかしい発言だ。が、グラルダは素直に信じて、水を汲んでこようとした。
「「だ、だめですよ、そんなことしたら!」」
柚と凜が慌てて止めた。
「じゃ、どーすんの?」
じろりとグラルダが二人を睨みつけた。
「えっと……も、もっと、リラックスしてみればいいんじゃないでしょうか」
凜が提案した。
「うん。たぶん……緊張が伝わるから、ポムクルさんたちも、怖がってるんだと思います。もっと笑顔で接したら、きっと、ポムクルさんたちから近づいてきてくれますよ」
柚はほほ笑みながら言った。
もっと、笑顔? グラルダは一生懸命笑顔を浮かべた。ぎこちない笑みで、なんだか頬の筋肉がぴくぴくしてる。
一時間後――。
「なんか、うまくいった……」
無垢なポムクルさんが、一匹だけグラルダのひざの上でごろごろ寝転んでた。
「よかったですね、グラルダちゃん」「きっと笑顔が伝わったんですね!」
柚がほほ笑み、凜が言った。
「うん……」
グラルダは二人にうなずいた。
ひざの上のポムクルさんが、ん? と顔をあげる。目があったグラルダは、心の中ではもうなんだか、幸せで死にそうだった。もっとも、顔はやっぱりいかめしいままだったが。
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その後の話になる。
今回の審査会で、さまざまなアイデアが検討・建設されることになった。
もちろん、不採用で落下してしまった者たちのアイデアについても、「せっかくなので使える部分は使っていきましょう」ということを、エルピスは提案した。
ポムクルさんたちの生活はずいぶんと改善されることになるだろう。
わらわらと増えてしまったポムクルさんたちも、これで路頭に迷わずに済みそうだった。