校長室
リアクション
● 大聖堂の外の連合軍本部拠点には、シャンバラ教導団団長金 鋭峰(じん・るいふぉん)とそれを守る『新星:リーディシュ』部隊。それに『鋼鉄の獅子』の情報処理班を担当する董 蓮華(ただす・れんげ)、スティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)がいた。 「こんなところかしら?」 「ああ、よく似合ってるぞ、麗子」 『新星:リーディシュ』のクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)は金団長に変装したパートナーの三田 麗子(みた・れいこ)を見てそのように褒めた。 彼らの役目はいかなる危険にも備えること。 金団長を守るために、常に周りに目を光らせていた。 「敵は金団長の命を狙ってくるかもしれないわ。油断しないようにね」 『新星:リーディシュ』を束ねる香取 翔子(かとり・しょうこ)が毅然とした態度で言う。 白 玉兎(はく・ぎょくと)はそれに対し素直にうなずいた。 「ええ、わかってるわ。絶対に見逃さないんだから」 玉兎の兎耳がぴくぴくと動いているのは『超感覚』によるものだ。 動物の気配察知能力で、周りの音や変化に神経を張り巡らせていた。 「ところであまり、結界の外には出ないようにしてくださいな」 防御系のスキルを唱えていたエミリア・ヴィーナ(えみりあ・う゛ぃーな)が皆に言う。 その隣ではコンラート・シュタイン(こんらーと・しゅたいん)も『イナンナの加護』を唱えていて、金団長たちを聖なる結界の内側に護っていた。 「油断しないでください。敵はどこからやってくるか分かりません」 オットー・ツェーンリック(おっとー・つぇーんりっく)が周囲に目を光らせた。 テロ対策や要人警護の経験を積んだ専門家だ。オットーがミスを犯すとも考えられない。 「ではわたくしはその間に、エミリアさんたちのお手伝いをいたしましょうか」 ヘンリッタ・ツェーンリック(へんりった・つぇーんりっく)はエミリアたちとともに防御スキルを唱えるのに専念した。 その間に彼女らのもとに、ヨーゼフ・ケラー(よーぜふ・けらー)、エリス・メリベート(えりす・めりべーと)、シャレン・ヴィッツメッサー(しゃれん・う゛ぃっつめっさー)、ヘルムート・マーゼンシュタット(へるむーと・まーぜんしゅたっと)の四人が急いで戻ってきた。 「どうしたの?」 真っ先に翔子が訊く。 ヨーゼフは他のメンバーに団長への報告を任せ、翔子に事情を説明した。 「護送された信者が叛乱を起こしてな。少し厄介なことになってる」 「幸い、怪我人はいませんでしたわ。すぐにヨーゼフとシャレンさんが片づけましたもの」 エリスが言いながら、救急医療班の手配に回った。 シャレンはその間に破損した機械の補充を手配している。 「慌ただしくて申し訳ありませんわ。では、これにて。行きますわよ、ヘルムート!」 「はい、わかりました!」 ヘルムートが余っていた医療道具を片っ端から集め、四人は再び護送班のもとに帰っていった。 レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)とその部下たちは思わずぽかんとする。 「弾薬や薬品なんかの補給物資、全部持ってっちゃいました……」 本来は本部のために用意したものだったが、この際やむを得なかったらしい。 「ま、しょうがないわよ、レジーヌ。こんなときこそぼさっとしてないで、次の物資を運んでくるのよ!」 偉そうに言うエリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)がレジーヌの部下たちに命令する。 仕方なく部下たちはそれに従い、レジーヌたちは再び補給物資の確保のために本部を出ていった。 「ふぅん。レジーヌ少尉も大変ですわね。ね? ランカスター大尉」 レジーヌの動きを見ていた沙 鈴(しゃ・りん)がマリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)にたずねる。 「うむ。ですが彼女のおかげで補給物資は滞りなく運ばれているであります。ほれ、カナリーもぼさっとしとらんで手伝いに行くでありますよ」 マリーはそう言って、パートナーのカナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)をげしっと蹴った。 「むーっ、ひどいよー、マリー! いいもんいいもん、優しいレジーヌといっしょにいるほうがよっぽど楽だもんー」 べーっと舌を出して、カナリーはレジーヌの後を追いかけていった。 後は鈴たちに残された役目があるだけである。それは大聖堂から無力化されて出てきた信者たちを護送することだった。 「飛行艇は用意してありますよ。負傷して動けない信者は、こちらに乗せればいいかと」 綺羅 瑠璃(きら・るー)が複数の飛空艇を見せてマリーに言う。 「用意がいいでありますな」 マリーは感心してうなずいた。 「では早速、護送に移るでありますか」 「ええ。さあ、あなたたち! 突っ立ってる時間はありませんわよ!」 鈴が叱咤激励する。部下たちが一斉に信者の護送に動きだした。 その様子を後ろで見ながら、蓮華は感心する。だが同時に、不安も首をもたげてきた。 「……どうしたのだ? 蓮華中尉」 蓮華の胸の内を察知したのかどうか、金団長が話しかけてきた。 どうしたものかと蓮華は考えた。だが意を決して、蓮華は口を開いた。 「その、アルティメットクイーンさんのことなんですけど……」 「……うむ」 「確か拘束して身柄を確保する、という予定でしたよね?」 「いかにもその通りだ。だがもちろん、全ての契約者の意思がそこにあるわけではない。中にはクイーンの命を狙おうとしている者もいるだろう。それ故に、より迅速なクイーンの保護が必要なのだ」 「それで、その、訊きたいことというのは……」 一瞬、蓮華は口をつぐんだ。生意気に思われやしないだろうか? しかしここで止めるわけにはいかない。なんとか気持ちを奮い立たせ、蓮華はたずねた。 「クイーンさんを拘束したら、それからどうなさるおつもりですか?」 金団長はすぐには答えを口にしなかった。代わりにその鋭い目が、蓮華をじっと見つめた。 「したことはテロ。でも世界が死ぬのを少しでも先伸ばししたい…っていう気持ちは分かるんです。なので、本当のところはどうすればいいのかが分かりません。何が正しいのか、何が正しくないのか、私には分かりません」 「皆、それは同じだ。私もシャンバラも同志たちも」 「でも――、正しいと信じたいことなら有るんです!」 蓮華は叫び、金団長の目を必死に見つめた。 「地球もパラミタも共に手を取って生き残れるって……。信じたいんです。それが歪みだと言われても、歪みをなくせる道を探す事から始めたいと……。創造主に隠れて生まれた絆なら、創造主に認めさせたらいいのではないかと……。そんな風に私は思うんです」 目を俯けた蓮華に金団長がかける言葉はなかった。 「す、すみません……生意気を言って……」 後悔が募る。蓮華は自分の行為が恥ずかしくなり、顔を赤くして縮こまった。 だがやがて、金にも思うところがあったのだろう。そっと彼が口を開いた。 「生意気ではない。むしろ感謝している。私には意見を言ってくれる仲間が必要なのでな」 「仲間?」 「そうだ。願わくば、それがアルティメットクイーンと我らとの絆として結びついてくれれば良いが……。私はそう願っている」 それから金団長は続きを語ることはなかった。 その時である。二人の間を引き裂くように、スティンガーが大声で駆け込んできた。 「おーい! 蓮華! シャウラたちから連絡が来たぞー! どうやら大聖堂のデータを奪うのに成功したみたいだー!」 「ほう……?」 興味深く目を細めたのは金団長だった。 やがてハンドベルト・コンピュータを持ってきたスティンガーからメモリを受け取る。そこにはグランツ教のこれまで行ってきたテロの詳細や、光条世界との使者を通じた繋がり、それに大聖堂内の各防御システムについての詳細が全て残されていた。 金団長はただちにこれを工作班に送信するよう命じた。狙うは防衛システムの破壊。救世の間へ繋がる道の確保だった。 |
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