空京

校長室

終焉の絆

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終焉の絆
終焉の絆 終焉の絆

リアクション


【2】大聖堂vs連合軍 3

 一方、教導団所属の『鋼鉄の獅子』部隊は、本隊とは別方向から大聖堂へ侵入していた。
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の指示に従い、配属されている部下たちは彼女を先へ進ませるために援護へ回る。
 アルティメットクイーンの待つ救世の間に一直線に向かおうとするルカを、護衛役のルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)が壁となって守った。
 直属の部下を引き連れ、ルースは一斉射撃をする。
 撃ち抜かれた機晶警備兵たちは続々とボディを破壊されて倒れ、『鋼鉄の獅子』たちはそれを乗り越えて進んだ。
「それにしても、ルース。今日はソフィアちゃんは?」
 ふいにルカがたずねる。ルースは眉をひそめてしかめっ面になった。
「あいつは留守番ですよ。どうせ来ても空気をぶち壊すだけですからね」
 件(くだん)の人物はルースのパートナーのソフィア・クロケット(そふぃあ・くろけっと)のことだった。
 ちなみにその頃のソフィアは――

「くちゅんっ! あー、誰か噂してますね……」
 台所にいるにもかかわらず、なぜか水着姿で調理に没頭していた。

 場面は再び『鋼鉄の獅子』たちに戻る。
 ルカの傍で彼女を守ることがルースの役目ならば、部隊の前に出てルカの進むべき道を切り開くことがクローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)の役割だった。
 クローラは自らの部下と親衛隊を動かし、道を阻む敵部隊の排除に当たった。
「どけッ! でなければ死ぬことになるぞッ!!」
 クローラにしては珍しく語気を荒くし、左右に分けた部隊で共に銃撃を開始する。
 バズーカの爆発でふき飛んだ信者たちに、すかさずクローラは光の閃刃を放った。
「我は射す光の閃刃ッ!!」
 白夜のごとき閃光の刃に切り裂かれる信者たち。
 セリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)も負けじとクローラに続き、槍と爆弾を用いて敵を蹴散らした。
「でやああぁぁぁッ!!」
 見事や槍裁きが機晶警備兵のアームを断ち切ってゆく。
 やがて敵の数が多くなるに従って、クローラとセリオスはその場に留まることを選択した。
「でも、それじゃクローラさんたちが……!」
 クエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)はクローラたちを心配して声を荒げた。
 しかし、ルカは違った。部隊の部下に当たるクローラたちの進言を聞き、しばらく黙りこんでいたルカは、やがて静かに一言だけの返答を告げた。
「――分かったわ」
「ルカさんっ!?」
 思わずクエスティーナが驚く。だが彼女も、すぐにルカの顔を見て口をつぐんだ。
 ルカとて、なにも無慈悲にクローラたちを置いていこうとしているわけではなかった。曲がりなりにもルカは『鋼鉄の獅子』の隊長を務めていた。機晶警備兵まで動員され、敵の数が多くなったいま、クローラたち自らが足止めを買って出るというのなら、それを無碍にすることは出来ない。
 ルカの拳は力強く握られている。ルカにとっても辛い選択だった。
「行くぞ、セリオス! 俺たちで少佐を先へ進ませるんだ!」
「ああ、了解だよ」
 クローラはセリオスや部下たちと力を合わせ、敵部隊の排除に向かった。
 その隙にルカは先へ急ぐ。クエスティーナたちも後ろ髪を引かれながら、その後に続いた。
「あれ……?」
 不意に違和感に気づいたのは桜花 舞(おうか・まい)だった。
 彼女はきょろきょろと辺りを見回し、やはり目的の人物がいないことに確信を持った。
「どうしたの? 舞?」
「いえ、その実は……ダリルさんの姿が見えなくて……」
「ダリルの?」
 ルカは舞と同じように周りを見回した。確かに、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の姿が見えない。
 しかし、ルカは一瞬は目を開いたものの、すぐに苦笑の顔に戻って前を向いた。
「ル、ルカさん? 気にならないんですか?」
 思わず舞が訊いた。ルカは肩をすくめた。
「気にならないと言えば嘘になるけどね。でも、ダリルのことだからきっと、なにか考えがあってのことだと思うわ。あの人が何の考えもなしにいなくなるなんて考えられないもの。ルカよりもずっと、もっともっと先を予想して動いてる人なんだから」
 そう言ってルカは笑う。
 舞は思わず驚き、つい自分のことをふり返って気恥ずかしくなった。
(ルカさんは……ダリルさんを心の底から信頼しているのね……)
 もちろんそこには恋愛といったような感情はないと分かっているが、どうしても嫉妬心はぬぐえない。
 二人の絆は舞のつけいる隙が全くないほど強固で、お互いに姿が見えなくとも互いを信じ続けているのだった。
(私もいつか、そうなりたいな……)
 そう思いながらも口には出さない舞である。
 彼女はルカを羨ましく思う気持ちをそっと心の中にしまった。それからルカの後を追って、通路を駆け抜けた。



 その頃、神殿のコントロールルームでは、『伝書鳩』部隊に協力する並木 浪堵(なみき・ろうど)メグ・コリンズ(めぐ・こりんず)葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)本名 渉(ほんな・わたる)雪風 悠乃(ゆきかぜ・ゆの)ニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)タマーラ・グレコフ(たまーら・ぐれこふ)たちと共同戦線を張って警備システムの無力化に急いでいた。
 主にハッキングを渉が担当している。
 コンピュータからメインサーバを必死に探す渉を、先ほどから入り口で機晶警備兵の迎撃に当たっていた浪堵がせっついた。
「おい、まだ終わらないのか!?」
「ちょっと待ってください! そう簡単には終わらないんです……!」
 そう言って渉は、コンピュータに様々なアプローチを試みる。
「兄様……焦らないで。きっと間に合います」
 悠乃もそれを手伝って自分専用のミニ端末を操作していた。
「皆々の衆。敵は通路の先にあり。ゆけー」
 吹雪は引き連れた部下たちに命令を下し、自らも銃撃に加わった。
「ぎゃーっ! ダンボールが撃ってきた――――っ!!」
 なぜか部下含め全員分を支給したダンボールに身を隠し、信者たちを追い払う吹雪。
 コルセアはそんな己の契約者にため息を禁じ得なかった。
「はー、やれやれ……」
 もっともそんなコルセアも、信者たちに爆弾による爆破攻撃を仕掛けるのであったが。
 爆発が起こって信者たちが足止めを食らっているその間、ニキータは渉の横でグランツ教の内部情報を集めていた。
「んもう、この施設ってば情報多すぎよぉ」
 ぶすっとした態度で不満を口にするニキータに、タマーラも思わずうなずく。
「敵、多すぎ……」
 弓矢を手にして迎撃に当たっているが、この戦いは機晶警備兵が動いている限りはいつまでも続きそうだった。
 やがて浪堵はディフェンスシフトのスキルをかける。仲間たちの防御力がアップし、体力が落ちかけてきたところの機晶警備兵の攻撃から身を守る効果を与えてくれた。
 メグは敵にぶつかり、ハルバードでそのボディを蹴散らす。
「もーっ! いい加減眠ってくださいですー!」
 続けて口にした子守唄の落ち着いた音色に、信者たちがウトウトと目を閉じるようになっていった。
「くっ、まだか……!」
 浪堵が焦りながら後ろをふり返る。
 ちょうどそのとき、必死に端末を操作していた渉が最後の一手を打ち込んだ。
「出来ました!」
 途端に、コンピュータ全ての画面が閉じていった。警備システム全ての機能が停止していったのだ。やがてコントロールルームには静かなシステムダウンの音が響き、光学的な光が消滅していった。
「やりましたです、兄様……!」
 隣にいる悠乃も喜びを露わにする。
 殺到していた機晶警備兵は次々と動きを止め、その場に崩れ落ちていった。機能を停止する音を発しながら、まるでその役目を終えたがごとく、静かに――。
 ふとそのとき、渉は辺りを見回した。
 もしも軍人の家系に生まれ、軍人になることだけを目指していた過去の自分が今の自分を見たらどう思うだろうか? そんな思いが、渉の胸に浮かんだのである。だが渉は、決して後悔はなかった。むしろ今の自分を誇りにすら思う。
 そうしたとき彼は、自分でも気づかぬうちにそっと微笑んでいた。
「兄様……?」
「君に会えて良かったですよ、悠乃……。だから僕は、今の自分に自信が持てます」
 渉のその言葉が、悠乃は嬉しくてたまらなかった。
 飛びついてきた彼女の身体を、渉はそっと抱きしめた。