空京

校長室

終焉の絆 第二回

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終焉の絆 第二回
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【1】空京の空 2

「地に落ちている今こそ好機っ! 飛び立たせる前に昇天させよっ!」
 ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)が一喝すると、周囲にいた部下達が武器を構えて一斉に突撃する。
 人間とワイバーンとヒュドラが地表で戦いあう。
 あまりない光景に野部 美悠(のべ・みゆう)は戸惑わず、冷静に状況を分析する。
「四時方向からワイバーンが一体きてるよっ」
「よし、おびき出すぞ」
 ケーニッヒと美悠が路地の方へと走り出し、ワイバーンはそれを追いかける。
 向かった路地の奥に行けば行くほど狭くなり、
 ワイバーンの体では自由に身動きが取れなくなるが、建物を無理やり破壊して追いかけてくる。
「んじゃあたしがお相手だっ!」
 自身の幻影を作り出しワイバーンを翻弄しつつ、焔のフラワシを叩きつける。
 しかしワイバーンの鱗の前に炎の攻撃は効き目が薄い。
「重々承知の上、背後から討たせてもらうっ!」
 いつの間にかワイバーンの後方へ回り込んでいたケーニッヒが、
 極めに極めた徒手空拳を乱打し、固き鱗を砕き、重く鈍いダメージを与えていく。
 最後、真上から頭を叩き殴り脳を揺らされたワイバーンはぐったりとしたまま動かなくなった。

「ヒャッハァあああああああああ! マイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)見参!」
 ワイバーンより獣らしい雄たけびを上げ戦場を駆けるマイト。
 その背後について回るのはマナ・オーバーウェルム(まな・おーばーうぇるむ)。片手に持つおにぎりをもぐもぐと食べ続けている。
「なんやなんや、すごいんがおるなぁ?」
 戦場を駆ける獣のようなマイトを見た日下部 社(くさかべ・やしろ)が素直な感想を述べる。
「無闇に駆けてるってわけでもなさそうだね」
 社に同行していた響 未来(ひびき・みらい)も感想を漏らす。
 しかし、それよりも、と社は言葉を続ける。
「人助けもせなあかんが、ここいらで実績作って進級せんとな……」
「万年補習中もすごいよねっ」
「そう言うなって……じゃま、行くとしますか!」
 軽快な会話を打ち切り、社がニィと口の端を上げて笑うと、
 未来がその背中をバシンと叩いて激励した。
「さあ、ババーンっと! 行っちゃってよ!」
「あだっ! ちょ、強すぎるやろ……まあ気合十分やけどな!」
 後ろから襲い掛かってきたヒュドラの攻撃を素早く跳躍でかわし、多頭の全てに拳打と蹴技を放つ。
 攻撃の反動を利用し一度距離を取った社の目は、
 それまでの穏やかな目と違い、鬼の目と化していた。
「なんやなんや、竜も鬼には敵わんか? んならこっちから行くでぇ!!」
 地面がミシリと音を立て、社の体は既にヒュドラの元へと駆けていた。
 社の反対側からはマイトの姿も見える。
「よっしゃ! ここが一番敵だらけだな! あっばれるぜぇ!!」
 社に釘付けになっていたモンスターたちはマイトへの反応が遅れる。
 その隙を突いたマイトはランスバレストでもってヒュドラを攻撃した。
「やるやないか!」
「ヒャッハー! ヒャーッハァ! ヒャッハああああああ!」
 三段ヒャッハーを前にしたモンスターの目が一瞬たじろいだ。
 更に刹那程だが社の鬼眼をも素に戻らせた。
 自重を乗せたマイトの蹴技がワイバーンの右頬を蹴り抜き、
 次の瞬間には体内に宿った気を最大限纏った社の拳が左頬を叩き返す。
 二人の連携を前に、地に落ちたモンスターたちは対応しれきず今度は意識を落としていった。
「もぐもぐもぐもぐ」
「……どうしてこの人はずっとおにぎりを食べているのかしら」
 おにぎりを食べ続けるマナを見た未来の素朴な疑問は、遂に解決することはなかった。

 その時、空京の空にけたたましく、生存本能にアラートを刻み付ける咆哮が木霊した。
 今まで聞いたどの嘶きとも違う、心臓を鷲づかみにする重低音。
 超大型ヒュドラの襲来、である。