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リアクション
【1】地下街を駆け抜けて 4
大型トロールの出現により、防衛の手を更に厚くせざるを得なくなった今、
大急ぎで優先的に防衛すべき箇所がリストアップされ、
各契約者の持つ端末へと即時反映されていく。
その地点の一つ、静かに、厳かに、佇む者が一人。
鎌田 吹笛(かまた・ふぶえ)。傍らにはエウリーズ・グンデ(えうりーず・ぐんで)が心配そうな顔つきで立っている。
「私たちは、いえ、私は……いささか自分のために働きすぎた、ですかな」
「吹笛……」
吹笛は悩んでいた。自分の生き方に、在り方に。
だがモンスター達はそんなことお構いなしでやってくる。
襲い来るモンスターから市民を守る。大義名分は吹笛にあり、吹笛はそれを振りかざす。
吹笛の氷術がゴブリン達を冷たく包み込み、地面を凍らしてゴブリン達を転げさす。
「……自分だけの目的に走る事にためらいを覚えるとは、契約者にはよくしらがみが纏わりつきますな」
攻撃の手を緩めないながらも、吹笛は葛藤していた。
自分の夢と、誰かのためを秤にかけては、その重さの中で揺れ動いていた。
「……っ! 吹笛っ!」
遮二無二構わず突進してくるゴブリン達を斬り払っていたエウリーズが叫ぶ。
……攻撃の手は、緩んでいた。悩んでいた吹笛の死角からゴブリンが襲い掛かる。
(……これも報いでしょうかね)
避けられないと判断した吹笛は、頭の片隅でぼんやりと考えながら、
ゴブリンの攻撃に耐える覚悟をする。
ドォンドォンッ
……いつまでたっても、吹笛に痛みはやってこなかった。
代わりに聞こえた、二発の銃声とゴブリンの悲鳴。
「おいたはそこまでだ」
銃口から漂う硝煙の向こう側にいたのは高柳 陣(たかやなぎ・じん)だ。
対化物専用の両手拳銃の眼光は鋭くゴブリン達に定められ、凶器と化した銃弾にて貫かれていく。
「ったく、無関係な奴等を巻き込みやがって。
おまけに仲間にまで危害を加えるとは、我慢なんねぇっての」
陣は怒りを隠そうともしない。その気迫に、あのゴブリン達がたじろぐ。
「今だ義仲!」
「あいつかまつった!」
陣が両手銃を乱射している際に、木曽 義仲(きそ・よしなか)が壁を縦横無尽に駆け、
モンスターの背後をやすやすと取った。
と思った次の瞬間には竜殺しのグレートソードを即座に抜き、斬り伏せる。
「戦はよい。が、これは戦ではなく、醜いだけであろうっ!」
義仲が鬼神が如く猛々しく敵へ向かう。
一歩を踏み込み、呆けているゴブリンの体を横一閃。
そのまま別のゴブリンの死角へと入り込み、腹部を貫く。
腹部から出た刃で以って、もう一体のゴブリンも貫いたかと思えば、
突き刺したゴブリンを思い切り蹴り飛ばし他のゴブリン諸共吹き飛ばす。
「……迷いがないとはいいもの、ですな」
「迷うのはいつでもできるだろ。今は目の前のことで手一杯、ってな!」
陣が吹き飛ばされたゴブリンの眉間に鉛玉を放り込む。
ついでに吹笛に、言葉も放り込む。
「何で迷ってるかは知らないけど、
迷ってたから助けられなかった、じゃ誰もいい思いはしないと思うぜ」
「……そうですな」
「てか、義仲! 楽しそうにしてんじゃねぇ! 悪者か!」
それ以降、義仲と協力して敵を倒すことに専念し始めた陣。
立ち尽くす吹笛にエウリーズが駆け寄って、声をかける。
「……確かに自分達のために、が私達の第一だった。
だけどその上で協力してきた。それももうすぐ終わりだけど……。
背中に一本の筋を通し続ける事は何も恥じる事じゃないわ」
エウリーズから放たれた言葉は吹笛の心を揺らがせた。
しばらくして、吹笛は少しだけ微笑んで、氷術を派手にぶちまける。
「全てを払拭したわけではないですが……少しだけ晴れやかな気分ですな、ひぇっひぇっ」
吹笛の再起にゴブリン達の戦力だけでは足りず、
前を行く市民に追いつけるわけもなく、ただただゴブリンは撃退されていった。