空京

校長室

終焉の絆 第二回

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終焉の絆 第二回
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【1】地下街を駆け抜けて 2

「避難民が来たな」
 前から来る避難者を見たリブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)が呟いた。
 エーリカ・ブラウンシュヴァイク(えーりか・ぶらうんしゅう゛ぁいく)は愛機、航空戦闘飛行脚【Bf109G】に搭乗した状態で待機している。
「そちらの準備は万全だろうか?」
 リブロの問いかけにマリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)が答える。
「情報処理全般を仕切る鈴殿からの情報を元に、
 このルートでの避難が最も安全であります。以後は臨機応変に対応、ですな」
「了解した。……そろそろ人雪崩が来るな」
 リブロの言葉が空中に解けて数秒後、言った通り人の並が押し寄せてくる。
「各員、人並みを横に広がせないようにするであります」
 マリーの鶴の一声に、部下達が即座に応じて両手を目一杯に広げ横に広がる流れを制する。
 ここまで順調。不気味なほどに順調だ。
「いやはや、凶司さんのおかげでありますな」
 整理整頓されたデータであろうが、即興で作られた物、粗はある。
 マリーだけでは確実に情報処理は追いつかなかっただろう。
 その情報処理を手伝ったのが湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)だった。
 自身の脳と機晶技術製品とをつなぎ直接操作することで時間短縮を図りつつ、
 敵の攻撃地点を予測し、簡易的な防衛計画と避難方法を練り上げる。
 その後、各契約者と連動してスムーズに事を運ぶことに貢献していた。
「そんなことないです。送られてきた情報と、皆さんがいること前提の計画ですから」
「ねえキョウジ、私の出番はまだなの?」
 うずうずして、自分の出番を今か今かと待ちわびるエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)が凶司へと尋ねる。
 凶司は「まだだよ。あと少ししたら、かな?」と曖昧に返事をした。
 人並みが四分の三程通過した時点でオペレーター役を引き受けるカナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)が各契約者へ通達する。
「こちら『前線統制本部』より、各方面へ通達。
 避難民の大よさ四分の三が本部を通過。
 残る四分の一を通過させた後、作戦を実行し本部も撤退するよっ!」
 カナリーの通信が終わるとほぼ同時に、前方から巽とモンスターの群れの姿が遠くに見える。
 ここまで一人で撤退戦をしてきたのだろう。
 よく耐えたものだが、もはや抜かれるのも時間の問題。
「さて、仕事の時間だ。頼むぞ、黒い悪魔」
「また、撃破数更新だね!」
 スタンバイしていたエーリカが遂に動く。
 地下街の高度一杯スレスレを器用に飛行し、群れの頭上を取る。
「頭上がガラ空きだなんて、怖いもの知らずだね!」
 頭上を通り過ぎる際も置き土産は忘れない。
 空からくる攻撃にモンスターの群れが止まる。
 と、

ドォウンッ

 数体のゴブリンの頭がまとめて弾け飛んだ。
「すまんな。私からの土産は、鉛玉しか用意していないのだ」
 対物ライフルから耳を圧迫するような射撃音が鳴り響く度に、
 ゴブリンたちが再起不能に陥っていく。
 しかし、程なくして弾切れが起こり、装填時間が発生。空から攻撃を加えていたエーリカも今はいない。
 好機と見たゴブリンたちが再び進撃を開始。
 が、それも失敗に終わる。
「エクス、出番だ!」
「言われなくともっ!」
 凶司の掛け声よりも早くエクスがモンスターの群れの真ん前へと躍り出る。
「この剛剣の錆になりたい奴からかかってきなさいよね!」
 常識外れ、掟破りの二本一組の長大な双剣を、
 双刃剣型の広域鏖殺形態である『ツインランサーモード』へ変更し、
 少しでも自分の間合いに入ってきたモンスターを刈り取るエクス。
 エクスに合わせて、巽とリブロの拳と銃弾もモンスターを阻む。
 しかし、熟練の契約者たち三人の力を持ってしても、
 沸いて出てくる圧倒的なモンスターの数に押され始めていく。
「……エーリカが来たか。前線の二人、一旦バリゲードより下がってくれ」
 リブロの声に頷き、巽とエクスは後退する。
 それよりも前からエーリカが全速力で空を突き抜けてくる。
 もちろん、モンスターの背後から銃弾をプレゼントすることはやめない。
「ったくもう、大変だよっまったく!」
 エーリカの顔つきは芳しくない。何かがあったのだろうか。
「エーリカ!」
「市民なし!」
「そのまま直進、少しもスピードを緩めるなよ!」
「了解っ!」
 短くエーリカとやりとり行ったリブロがエクスへ振り返る。
「道を潰す。手伝ってくれ」
「いいけど、やるからには、加減なしでいくわよ!」
 己の全能力を解放し、エクスが破壊の限りを尽くすラヴァイジャーへと変貌する。
 周りにある建造物や壁を端から端まで取りこぼすことなく破壊していく。

ゴゴゴゴッッ!

「これ皆ペチャンコになったりしなーい?」
「地下街はしっかりと設計されている。
 一箇所が崩れても全てが崩落することはまずないであります」
 カナリーの疑問にマリーが即答する。
 そうでもしなければこんな大胆なことはやらないだろう。
「よ、は、っとう!」
 崩れてくる瓦礫をギリギリでかわすエーリカ。
 出口となる箇所はほぼ瓦礫で埋め尽くされている。
 そこを、寸分違わず通過するエーリカ。
「これで終わりよっ!」
 エクスがトドメと言わんばかりに渾身の一撃を天井へと叩きつける。
 すると天井が派手に崩れて、見事に通路は封鎖された。
「これで止まるなり、時間が稼げるなりするだろう」
 リブロの一言に、エーリカが首を横に振った。
「残念ながら無理。……想像以上のデカ物がいたからね」

……ン ゥン、ドグォンッ!!

 エーリカの言う通りだった。
 積み重なった瓦礫の山はいとも簡単に破壊された。
 大型のトロールによって。
「こんな奴までいたとは、な」

……ドゴォンッ!!

 別の箇所で轟音が響く。
 どうやら別の壁をぶち開けて、別ルートを作ったようだ。
「厄介でありますな。カナリー、すぐ連絡をするであります」
「はいよー」
 マリーがカナリーに連絡するように伝達、
 大型のトロールにはエクスが対処していた。
「こんのっ、でかいだけののろのろトロールが!」
「ここは僕とエクスが引き受けます! 皆さんは先に撤退を」
 凶司の申し出にリブロ、マリー、巽たちは頷き合い、撤退を開始した。