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リアクション
シャンバラ儀式場を守れ! 3
狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)とグレアム・ギャラガー(ぐれあむ・ぎゃらがー)が、際限なく現れる怪物の群れに立ち向かっていく。彼女たちの背後には、かつてふたりによって命を救われたアリー・アル=アトラシュがいた。
「アリー……。お前を助けたあの日から、あたいはずっと迷っていたんだ」
這いよる小型の怪物を踏み潰して、乱世は言う。
「自分のようなヤクザな生き方にお前を巻き込むのが、果たして良いことなのか……ってな」
足裏にこびりついた怪物の残滓を、忌まわしげに振り払う乱世。彼女の前には見上げるほどの巨大な怪物が、ずるずると近づいてくる。
その怪物は、蜘蛛の姿をしていた。
乱世は苦笑する。そういや、はじめて会ったアリーもこんな姿をしていたな。
アリー・アル=アトラシュは戦争が激化する母国を救うため、自ら兵器となるべくパラミタを訪れた。平和を願う彼の思いは、悪質な軍事組織に利用され、巨大なパラミタランチュラへと改造されてしまったのである。
「アリーを守るため、自分が矢面に立つつもりなのだろう」
トラップの配備を終えて迎撃体勢を整えたグレアムが、パートナーへ冷静に告げた。
「【PCM−NV01パワードエクソスケルトン】。君の過去の戦闘データを元に、最適化してある。存分に暴れてくるといい」
「任せとけ! アリーは後方でバックアップしろ。あたいが仕留め切れなかった分を狙い撃つんだ。こいつが最後の決戦……。一花咲かせようぜ!」
戦闘本能をむきだしにした彼女は、危険もかえりみず前衛に飛び込んでいく。
「バケモンどもめ! このままじゃ終わらせねえぜぇぇぇ!!」
裂帛の気合いに呼応するコンバットモジュール。くぐり抜けてきた歴戦の記録が、拡張された現実のなかへ取り込まれていく。
乱世は、絡みつく糸をかいくぐり、高く飛翔し、怪物の脳天に向けて、渾身の一撃をふりおろす。
怪物が砕け散った。
彼女の動きは、蜘蛛にされたアリーを深い眠りへと導いた、過去の戦いを再現している。――とどめの一撃に、容赦がなかったことを除いては。
戦場の音を聞くたび、アリーには蘇る記憶があった。
目の前で射殺された血だらけの妹。その姿が、醒めない悪夢のように何度も何度も蘇っていた。
大切なものを守れなかった自分の弱さを、憎んだ。
「だけど……。グレアムさんが教えてくれた。戦争の傷を、僕ひとりが負う必要はないって」
アリーは、銃を握る手にぎゅっと力をこめる。
「そして……。乱世さんが教えてくれた。僕の、新しい居場所を」
アリーが新しく見つけた居場所とは、乱世とグレアムのそばだ。
だが。それは乱世自身が危惧したとおり、常に戦いへ身を投じる修羅の道でもあった。
決して平坦な道ではない。むしろ、いちど大切なものを失っているアリーにとって、滅びを望んだほうが楽ですらある。
それでもアリーは、自らの意志でシャンバラ儀式場に立つことを選んだ。
故郷を、世界を、守るために。
「僕はもう、大切なものを失いたくないんだ! 乱世さんとグレアムさんに出会えた、この世界を……。こんな怪物なんかに奪われたくない!!」
乱世が仕留め切れなかった異形の蜘蛛を、アリーがすかさず撃ち抜いていく。
パアァァァン……。
アリーにとっては絶望でしかなかった銃声。しかし、乱世と戦う今は、希望のための前奏(プレリュード)となっていた。
「たとえ世界が産まれ変わっても! 僕は……乱世さんと、グレアムさんと、いっしょに生きていきたい!!」
「そうかい。……じゃあ、あたいについてきな。いっしょに新しい世界を見にいこうぜ、アリー!!」
汗と血にまみれた乱世は、豪快に笑いながら怪物の群れへと突き進んでいった。
「おらあっ!!!」
ブレイズ・ブラス(ぶれいず・ぶらす)は手近な怪物にパンチを放ち、これを辛うじて撃退した。
大荒野の儀式場では、多くの人々が祈りを送るために集まっている。ブレイズはその人々を守るべく『真・正義マスク』として戦いの場に身を投じていた。
「なるほど、すげぇ数の敵だぜ。だが、こっちも負けてらんねぇ……何しろ、これから新しい世界を作るってぇんだからな!!」
それがどういう性質のもので、どういう結果がもたらされるものなのかは、彼自身よく分かっていない。
が、今の彼にとってそんなことは些細な問題でしかない。彼は守りたいものを守る。それがもしある意味では『悪』と呼ばれるものであったとしても、彼が守りたいと思ったものを、全力で守るだけなのだ。
「もう迷いはねぇ……俺は、俺のしたいことだけに全力を出すぜ!!」
そんな彼を暖かく見守る親友――マブダチがいた。
鳴神 裁(なるかみ・さい)である。
『そうそう、その方がよほどブレイズらしいよ。
怒りを憤る事莫れ。悲しみを哀しむ事莫れ。恐れを怖れる事莫れ。
……ま、あれだよ、おいしいものいっぱい食べて、気の置けない友達とバカやってるだけでも世の中どうにかなるものさ。
そりゃー理不尽なことだって多いけどさ、でも、だからこそ人は”繋がって”いられるんじゃないかなー。
ま、ボクはいつだって『ごにゃ〜ぽ☆』と笑って吹き飛ばしていくだけさ☆』
祈りの言葉とも、自分への決意とも取れるような呟きを放ち、裁は奈落人の物部 九十九(もののべ・つくも)と共にブレイズをサポートしていた。
九十九もまた、戦いながら祈る。これから産まれ来るであろう、新たな世界のために。
『ブレイズに出会いボクはボクになれた。
コピーではない本物のボクになれた。
生まれた想いはまだ拙いものだけど、ああ、だけど世界はこんなにも輝いている☆』
いつ終わるとも知れない戦いの最中、しかし彼らは強い絆で結ばれていた。
必死に戦うブレイズ。そしてその背を守る九十九に、裁は想いを馳せた。
「しかし……こっちに出てきてはイタズラばっかりしてた九十九が、変われば変わるもんだね。
ブレイズもボク達を信頼してくれているし……なんだかんだでいいコンビになれそうじゃないか、九十九?」
九十九に憑依されている裁の呟きは、九十九にしか聞き取ることはできない。その裁に九十九は慌てた声を上げた。
「な、ななな、何言うんだよ裁!! ボ、ボクはただブレイズが必死に頑張ってるから応援したいなって……!!」
九十九を憑依主である裁と区別ができる人間ということがきっかけで、九十九はブレイズに恋心を抱いている。
さすがの鈍いブレイズもその想いに気付きつつあるとは思われるものの、はっきりとそのことを口に出したことはなかった。
「まぁボクもブレイズと一緒に戦いたいところもあるけれど……今回は主導権を九十九に譲るよ、人の恋路を邪魔するヤツはなんとやらってね。
……さっさと告白すりゃーいいものを」
裁との心の会話を続けながらも、九十九はブレイズをチラリと見た。
「……ううん、いいんだ。今はまだ、ブレイズの手助けをしていたい。
ブレイズは言ったんだ、人々を守りたい……本物のヒーローになりたいと。
なら、ボクはその手助けをするだけだ!!」
激戦を繰り広げるコントラクター達。その一角で、ブレイズと九十九は必死の想いで儀式場を守っている。
「はぁ……っ、キリがねぇな……」
何しろ敵の数が多い。無尽蔵とも思える数の敵を目前にして、ブレイズと九十九は希望を捨てずにいた。
「頑張ろう……戦っているのはボク達だけじゃない。ボク達が祈り続ける限り……希望はあるよ!!」
九十九の激励に、ブレイズはニヤリと笑った。
「ああ……そうだな……なぁ、九十九」
「……なに?」
周囲の敵に警戒しながら、九十九は応える。
「正直、この戦いが終わったら世界がどうなるのか分らねぇけどよ……。
いろいろカタが付いたら……俺と旅に出ねぇか?」
「……え?」
九十九は驚いたような声を上げた。
「なんだか世界が面白ぇ方向に行きそうな気がするんだよな……色々なことが大きく動くような、よ。
……思うんだ、ひょっとしたらその先に九十九……お前の身体をどうにかすることもできるんじゃねぇかって」
「……えっ!?」
今度こそ九十九は驚いた。この戦いの最中で、こいつはそんな事を考えていたのかと。
そもそも、裁の身体に憑依しないと現出できない奈落人であるという九十九の問題が、ブレイズとの関係を進展させられないネックのひとつだった。ブレイズは九十九の気持ちそのものを受け止める前に、その先のことを考えていたというのだろうか。
「何しろ新しい世界だからな!! 俺達の未来も、その先にあると思うんだ……どうだ!?」
包囲を狭めた敵に対して、ブレイズは突進を開始した。
その背を追いながら、九十九は笑う
「はは……いいよ、行こうよブレイズ!! ボク達なら、どこまででも行けるよっ!!」
およそ戦場に似つかわしくない、陽気な声が響いた。嬉しそうな九十九の中で、裁は呟く。
「……何か勝手に盛り上がってるけど……憑依主であるボクの意見はどうなってるんだろう……」
「まぁまぁ、細かいことは言いっこなし!! 後で相談しようそうしよう!!」
勢いで突っ切る九十九の声を聞いていると、裁ももう何も言えなくなってしまった。
「やれやれ、しょうがない……。じゃあなおさらこの戦い、負けられないよ!!」
「もちろんだよ!! ブレイズ、背中はボクが……ううん、ボクたちが守る!!! だから……思いっきりいっちゃえーーー☆」
「おお!! お前らがいるなら――百人力だぜ!!」
ブレイズは、その燃える心を両の拳に宿した。激しい炎が燃え盛り、竜の形を作る。
そのまま、目下最も大きな敵に向けて、炎の拳を放った。
「喰らえ――火竜拳!!」
人々の祈りと新しい世界を守る彼と彼女達の戦いは、まだ続いていく。
彼ら自身の、新しい道と未来を作るために。
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