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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

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・Chapter11


『無事に全員、宇宙に出れたな』
 【イザナギ】に搭乗している辻永 翔(つじなが・しょう)から、γ方面の機体へ通信が送られた。
『最初に行っておくけど、俺たちは敵を殲滅しに来たわけじゃない。衛星の破壊だ。地上施設の奪還が成功してもそれは変わらない。再利用されないよう、ここで確実に潰す』
 たとえ先に地上の発射施設のミッションが成功していたとしても、そこで終わりではない。そのことを全員で確認する。
『各員、聞こえる?』
 そこに、【イザナミ】のセラ・ナイチンゲール(せら・ないちんげーる)の声が割り込んできた。
『敵の配置は、前衛が十七機、後衛がモスキートを含めて八機。後衛はモスキート以外、ステルスモードで姿を見えなくしているわ。前衛にシュヴァルツ・フリーゲIIが一機しかいないことを考えると、前衛を突破された機体を強力な機体で迎え撃つって作戦のようね』
 セラの分析によれば、前衛は単なる壁要因に過ぎないということだ。
『もちろん、そんな壁役とまともに戦ってあげる筋合いはないわ。可能な限り少ない戦力で壁を崩し、そこを突破してもらう。幸い、こっちには【イザナギ】を含めてジェファルコンが四機いるわ』
 加えて、パイロット科代表の翔とアリサをはじめ、腕が確かなパイロットが揃っている。機体数の差を埋めるには十分だ。
「理知、前衛を崩すよ。砲撃準備はいい?」
「うん、いつでも撃てる!」
 桐生 理知(きりゅう・りち)北月 智緒(きげつ・ちお)の指示を受け、照準を敵の機体群に合わせた。地上に比べて射程は長いが、まだ範囲内ではない。機体に乗り込む前にもやったことだが、戦闘直前となった今、改めてお守りを握って目を瞑る。
(必ず守って……みんなで帰るっ!)
 ロックオンを告げる電子音が鳴った。
『前衛の機体は、俺たちが引き受ける! 別方面に行ったルルー姉妹やF.R.A.G.の隊長、それに……「アイツ」に遅れを取るわけにはいかないからな」
 【イザナギ】、【イザナミ】、そして理知と智緒が乗るヒポグリフが、壁を崩す役だ。
(やっぱり、翔くんは気づいてたんだ……)
 【シュヴァルツァー・リッター】のパイロットの正体に。どんな経緯があったかは知らないが、「彼」が今は敵ではなく、同じ目的のために戦っているというのはどこか不思議な感じがする。
『理知!』
 射程範囲内に入ったことを知った翔から、合図が送られた。
 トリガーを引き、大型ビームキャノンを放つ。反動を抑えるために智緒がスラスターを噴射し、すぐに態勢を立て直した。
 シュメッターリンクIIの命中。射程ギリギリから放ったために、敵にとっては不意打ちだったようだ。
『どこを見ている!』
 【ヒポグリフ】の攻撃と同時に敵陣へと突っ込んだ【イザナギ】が、新式ビームサーベルでシュメッターリンクIIを薙ぎ払っていく。
『翔、敵のショットガンはビーム式だ。撃たれることを恐れる必要はない。【イザナミ】!』
 アリサ・ダリン(ありさ・だりん)の指示で、【イザナミ】がエネルギーシールドを展開した。【イザナギ】と【ヒポグリフ】のエナジーウィングが強い光を放つ。
「エナジーウィングに、その程度のビームは通用しないよ!」
 理知もまた敵からの銃撃に怯むことなく、落ち着いてシュメッターリンクIIに狙いを定めた。
「そっちには、行かせないんだから!」
 智緒が機体の高度を上げる。敵陣を突破して衛星に向かう味方機――龍皇飛閃セレナイトウィンダムスーパーノヴァを阻もうとする敵の機体に照準を合わせ、砲撃した。
「敵もバカじゃないってことか……理知、接近戦に切り替えるよ!」
 妨害に向かった敵は五機。そのうちに二機はビームの直撃を食らい、戦線を離脱した。だが、このままでは砲撃が追いつかない。宇宙での反動を考えると、連射は非常に困難だ。
 だから敵が味方機に到達する前に、近接戦闘に持ち込む。
『翔くん、りっちゃん、援護するよ!』
 【イザナミ】のヴェロニカ・シュルツ(べろにか・しゅるつ)が、ビームライフルで敵機を牽制した。
『狙い通り、シールド要因であるわたしたちを潰しにかかってきたわね』
 敵の第一陣の中に一機だけいるシュヴァルツ・フリーゲIIが、スラスターを閃かせて【イザナミ】へと飛び込んでいく。
『今よ、ヴェロニカ!』
 【イザナミ】のビームライフルが、敵の関節駆動部を撃ち抜いた。
『これで武器は使い物にならないよ。ついでに……』
 敵機が制御を失い、そのまま光を失う。
『ジェネレーターからのエネルギー供給を切断したから、もう動けないよ』
 敵機のコックピットブロックが背部から射出された。緊急脱出システムが作動したようである。その勢いを維持したまま、地球へと落下していった。
『さあ、今のうちに思う存分やっちゃって頂戴!』
 威勢のいいセラの声。
 【ヒポグリフ】は、敵の背後から新式ビームサーベルを振り下ろした。確かな手応えを感じる。強化型アサルトライフルを持つ方の腕が肩口から切断された。
「理知、次!」
 【イザナギ】と互いの背中を預けるようにして、残りのシュメッターリンクIIの群れと対峙する。
『理知、そっちの敵は?』
「残りに二機だよ、翔くん」
『こっちも同じく二機だ。ヴェロニカ、味方の状況は?』
『敵第二陣に接敵。交戦、開始したよ』
 シュメッターリンクIIの片方ががダガーのような武器を構え、接近してくる。
「接近戦は、こっちの領分だよ。理知――一気に決めるよ!」
「うん!」
 スラスターを噴射。
 後衛シュメッターリンクIIからの銃撃をエナジーウィングで防ぎながら、前衛機へと飛び込んでいく。敵がダガーを振るうより早く、すれ違いざまに一閃。さらにそのまま突き進み、後衛機も同様に斬り払った。
『こっちも終わった。よし、今から合流するぞ』
 敵の第一陣を退けた理知たちは、先に行った者たちの援護に向かった。