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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

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・Chapter6


「マスター、セシリア……さんから、機体の調整が完了したとの報告がありました。確認に行きませんか?」
「時間は……おや、もうこんな時間ですか。行きましょう、スバル」
 管制室からもらったデータとそこから算出したルート取りを確認し、アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)六連 すばる(むづら・すばる)はイコンベースへと向かった。
「シシィ、整備お疲れ様。どのような状況になりましたか?」
 スーパーノヴァの機体の前にいる、セシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)へとアルテッツァは歩み寄った。
「パパーイ、六連さん、できる限りの調整はしておいたわ。エネルギーも少しだけ使える量増やしておいたし、武器も積めるだけ積んどいたわ。使い切ったら機動性確保のためにポイ捨てして構わないし!」
「ポイ捨て……?」
「あっはっは〜じょーおだんよ」
 軽口を叩くセシリアを訝しんだ。彼女が未来から来た自分の娘らしいことは知っているが、なぜこんな性格なのだろうか。
「スバル、どうしましたか?」
 やけにシシィに対してよそよそしいですね、と小声で続けた。
「いえ、マスター、大したことではないんです……ワタクシの気にしすぎだと思います」
「そうですか、それなら構わないのですが……」
 何を気にし過ぎなのかは分からないが、今それを考えても仕方ない。
 二人は機体に乗り込んだ。

「これでよし、と」
 セレナイト・セージ(せれないと・せーじ)は整備を終え、パイロットを待っていた。二人が来てから、最終チェックに入る。
 地球上でもほんの少しのミスが命取りになりかねないが、宇宙になるとその危険性はさらに跳ね上がる。整備の現場を受け持っている長谷川教官たちも、そのことを強調していた。
「あ、来た来た」
 端守 秋穂(はなもり・あいお)ユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)がイコンベースに入ってきた。セレナイトは彼らを手招きした。
「それじゃあ、最終チェックを始めるわよ」
 コックピットに乗り込んだ二人が、パイロット認証を行う。次いで外装、OSのスキャンに移り、各駆動部とジェネレーターの出力を確認。
「宇宙だからね、油断しちゃダメよー」
 整備中に頭に焼きついた言葉を噛みしめ、二人にエールを送った。
「わかりました。初めての場所ですし、気をつけて行って来ます」
「うん、油断しないー!」
 二人とも、大丈夫そうだ。元々あまり心配はしていないが。宇宙仕様になった自分自身――セレナイトがついているのだから。
(秋穂、ユメミ、それに「私」……ちゃーんと帰ってくるのよ!)

 天沼矛のイコンベースでは全機体の整備が終わり、各自最終調整に入っていた。
「二人とも、これを持っておいき」
 高崎 トメ(たかさき・とめ)は、出撃する高崎 朋美(たかさき・ともみ)ウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)に「千人針」を渡した。二人の無事を祈って作った、お守りだ。受け取った朋美は、それをパイロットスーツの上から、腕に巻きつける。
「行こうぜ。敵は、派手にぶっ壊してやらぁ!」
 シマックが意気込むが、トメは諭すように言葉を紡いだ。
「いいかい、敵さんにも、それぞれ家族があったり恋人や大切な人もいるから……あまり無益な殺生はするもんやないよ。いくら向こうさんが、地球全体に対して、自分たちの欲望のままに無益な殺生を省みない相手でも……それでも、そのことを忘れたら、あんたらもあの人らと同ンなじところまで堕ちてしまうことになるよって、気ぃつけや」
 天御柱学院は軍事校でなければ、パイロットも軍人ではない。過去の戦いから、天学では「極力相手を無力化するに止める」ことを前提にした訓練が行われている。もちろん、それはただ敵の機体を破壊することに比べ、非常にハードルが高い。しかし、地球・シャンバラを合わせ、最高峰の性能を誇る機体を所持しているからこそ、それが可能であると信じられているのだ。ここは、「力を制御する」「力に流されない」ことを学ぶ場でもある。そのことを二人が忘れぬよう、こうして口に出しておく。
「まだまだ若いねんから、あんたらはこれから成長するンが仕事やで。ちゃんと、元気に戻っといでや」
 無事に、人殺しにならずに……。
 真剣な表情で朋美が頷き、機体に乗り込む。
「任務を達成し、生きて帰ること。次回の戦いに備えて経験を積んだパイロットとなることまでが、今回のミッションだよ。心して行こうね、シマック!」
「おう!」

* * *


「システム、オールグリーン。固定バー解除」
 笠置 生駒(かさぎ・いこま)ジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)は{ICN0004638#ジェファルコン特務仕様機}の発進態勢に入っていた。
 機体を固定していたバーが外れるのを確認すると、機体をリフトまで移動させる。リフトが上昇していくのを、生駒は感じた。
「カタパルトへ到着。シャトル、接続」
 機体がカタパルトにセットされる。
『天候、クリア。これより機体の射出準備に入る』
 管制から、天候は問題ない旨が伝わってきた。
 正面に見えるシャッターが開く。左右両端に閃きが起こり、それらが一直線に伸びていく。
「いよいよだね……」
 フローターを起動。電磁カタパルトによって機体が押し出される。すぐに、一面の青が広がった。
「ブースター、出力全開!」
 スロットルレバーを押し込み、高度を上昇させていく。
『高度100Kmを突破』
 宇宙空間に到達。だが、まだ安心はできない。推力を維持しなければ、地球の重力に引っ張られてしまう。
『高度350km』
 地球低軌道に到達。衛星兵器があるのは、この軌道上だ。
「思ってたよりすんなりといったね」
「うむ」
 管制室との通信も良好だ。現在の衛星軌道上のデータが送られてくる。それと部隊の集合地点に差異がないかを確認し、生駒は戦闘に備えた。

* * *


「無事、宇宙に出られたようだな」
 宇宙に向かって伸びてゆく光を見上げコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は声を漏らした。
「この戦いに、地球とシャンバラの命運がかかっている。決して負けられん」
 ハーティオンは出撃態勢に入った。声高らかに、叫ぶ。
「行くぞ! 星心招来! 星怪球 バグベアード!」
 その声に反応して、星怪球 バグベアード(せいかいきゅう・ばぐべあーど)が現れた。
「星心合体! ベアド・ハーティオン! 推参!」
 カタパルトへと移動するリフトの上で、ポーズを決めた。
「さあ、行こう――宇宙へ、我らの戦場へ」