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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

リアクション


・Chapter3


「ねえねえ『白雪姫』ちゃん。単刀直入に聞くわ」
 パピリオ・マグダレーナ(ぱぴりお・まぐだれえな)は、管制室から出てきた雪姫に声をかけた。
「何?」
「あなた、クローン人間なんじゃないの?」
 雪姫の表情は変わらない。パピリオがそう判断したのは、雪姫があまりにも少女時代のジール・ホワイトスノーに似ているとの評判を聞いていたからである。
「否定(ノー)」
 迷う素振りを一切見せず、否定した。
「じゃあ、クローン化技術について詳しい人、知ってる? ぱぴちゃんねぇ、クローン化技術について知っている人を探しているの。そんな技術持っている人、どこかにいないかしら♪」
 クローンであっても、普通の人と同様に人の魂を持ち合わせているか。悪魔である彼女としては、それに興味があった。無論、悪魔がそれを求めるというのは、種族性を踏まえるとなんら不思議なことではない。
「個人的な面識がない人物であれば、該当者がいる。ヴィクター・ウェスト。現在の所属・所在は不明。専門は生物学全般、遺伝子工学。ギルバート・エザキに師事していた時期があり、ロボット工学にも造詣が深い」
 淡々とした口調で雪姫が告げる。
「へぇ〜、ヴィクター・ウェストね。覚えておこーっと♪」
 どこにいるのか分からないというのがネックだが、「間違ったことは言わない」雪姫の言葉だ。信用していいだろう。
 もう少しだけ踏み込んで話そうとするが、そこにきょろきょろと周囲を見回しながら歩く人影が現れた。
「アップデートしたOSについて聞きたいんだけど……司城さん、まだ天沼矛にいるかしら? あ!」
 セシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)だ。
「司城さん、少しお時間大丈夫? 少し機体調整の方で確認してもらいたいことがあって」
 雪姫がこくりと頷くと、彼女は雪姫を連れていこうとする。ふと、セシリアはパピリオを睨んできた。
「あら、悪魔様……こんなところで何をしてたのかしら?」
「ちょっとした世間話。ってか、アンタだあれ? ぱぴちゃんに敵意丸出しなんだけど?」
 その理由が、パピリオには分からない。
「貴方は知らないだろうけど、わたしは色々覚えているの」
「……色々知った風な口のきき方ね。あたしアンタに何かしたかな?」
「『セシリア・ゾディアック』……貴方にはそう名乗っておけばいいかしら?」
「『ゾディアック』? ……テッツァの縁者だっていうわけ?  あたしの邪魔、しないでくれる?」
 返答はない。すでにセシリアは、雪姫と一緒にパピリオから離れていた。
「ほんとなんなの? あの女……」

* * *


 雪姫が出て行った後の管制室に、声が響いた。
「蒼空学園の夢宮未来です! 鈿女さんのお手伝いについてきました!  宜しくお願いしまーすっ!」
 ほんの少し緊張した面持ちで中に入ったのは、夢宮 未来(ゆめみや・みらい)だ。
「さっきの子が、司城 雪姫女史ね。噂には聞いていたけど、本当に若いわね」
 高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)は先刻すれ違った少女の姿を頭に浮かべた。自分の妹と同じくらいの歳の子が、現在のイコン技術に大きく寄与しているとは。ロボット工学の母の後継者というのも、伊達ではなさそうだ。
 今現在の宇宙の様子は、国連から送られてきている。そこに映っていたテロリストの機体のデータを出撃前にある程度収集・解析するのが彼女の仕事だ。作戦が始まったら、パートナーであるコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)のサポートに専念することになっている。
(あのギルバート・エザキ博士まで来ていると聞いてるけど……こちらに専念している以上、顔を会わせる機会はないかもしれないわね)
 ロボット工学界の大御所であるため名前こそ知っているが、ジール・ホワイトスノー博士の師ということばかりが取り沙汰され、彼自身の成果についてはあまり知られていない。しかも歳のせいもあってか、今の彼はただのスケベジジイでしかない。たまに学会に顔を出しては奇行を繰り返していることからも、知識と技術はまだしも人格面がかなりきていることは確かだ。会わないで済むならそれでもいいと、鈿女は思う。
「敵のデータ、見せてもらってもいいかしら?」
「どうぞ」
 管制室を取り仕切っているロザリンドから、鈿女はデータを受け取った。
「これは……モスキートのカスタム機ね。デフォのモスキートでさえ厄介なのに、面倒くさいものを出してくれるじゃない」
 いいわ、私が丸裸にしてあげる、と呟いて解析を開始した。
「現状、モスキートと有効な攻撃場所が同じなら、『ここ』を狙うのが一番ね。ただ、何かしらの対策をしている可能性は否めないけど」
 もっとも有効なのは、頭部の主砲発射の瞬間だ。モスキートの装甲は頑丈だが、主砲を開いている時だけ、内部を狙う隙ができる。もっとも、狙うのは至難の業だ。
「あ、あの! 通信関係って今どうなってますか?」
 鈿女の横で、未来が訊ねる。
 イコン間はもちろん、管制室とも連絡が取れるよう通信網は整備されている。しかし、通信機器が使えない事態に陥る可能性がないわけではない。
「念のため……特に、二機のカスタム機のことに関しては、弱点が分かったらテレパシーで伝えた方がいいわね。それならラグもほとんどなくて済むわ」
「判りました! そういうことならあたしに任せて下さい!」
 彼女はテレパシーでの通信役を引き受けた。

 そして、衛星兵器攻略のために動く人物がもう一人。
「ふむ、衛星を落とすのにはこれだけの計算と労力が必要なのだね」
 これは、やりがいがある。レオナルド・ダヴィンチ(れおなるど・だう゛ぃんち)は衛星を破壊するための計算を始めていた。
 衛星を単に破壊するだけでは、スペースデブリの問題が発生する。無論、最悪それで済ませなければならなくなるかもしれないが、でき得る限り後々のことも考えた方法を取っておきたい。
 衛星自体の廃棄は、国防大臣が発射装置の破壊を許可した際に、一緒に認めてもらった。コントロール自体はおそらく発射施設で行っていたはずだというが、実際に施設から処理を行えるかは分からないという。そのため、イコンで大気圏まで押し込んでもらうというやり方も視野に入れる。あとは、こっちで時間とポイントを計算すればいい。
(施設に関しては茉莉からの連絡待ちだが……すぐに指示が出せるよう、計算は始めなければな)