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リアクション
●第1章 巨大キメラとの死闘
昼下がり、降り注ぐ陽光を浴びる森の上空が、無数の点に埋め尽くされていく。
それは、魔法の英知によって異形の姿を与えられた生物、キメラの群れであった。翼もなしに空を飛ぶその姿は異様であり、森に住む獣たちは形を潜めて彼らが通り過ぎるのをじっと見守っていた。
百は下らない数のキメラが通り過ぎた後、それまでの数倍はあろう巨大キメラが、醜悪な表情を晒して飛び過ぎていく。
異形のモノたちが向かっているのは、森の中に埋没するように建つ遺跡。
なぜ遺跡に向かっているのかは定かではない。本能か、それとも裏で誰かが糸を引いているのか。
……だが、遺跡にはこれまで喜怒哀楽を共にした『仲間』がいる。
仲間が危機とあらば、救えるなら救いたい。
そうして冒険者たちは、剣を取り彼らに立ちはだかった。
「わ……す、すごい大きさですよシルフェさん……これはその、私達で何とかなるものなんでしょうか……?」
「そう聞かれましても、なんとかするしかないでしょうねえ……」
キメラの大群を前にして、箒にまたがった水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)が不安げな表情を浮かべ、彼女の前に立ち背丈よりも長い槍を構えたシルフェノワール・ヴィント・ローレント(しるふぇのわーる・びんとろーれんと)が呟く。二人の隣には睡蓮のパートナーである鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)が控え、攻撃の機会をうかがっていた。
「ほう……巨大とは聞いていたが、これはこれは。かのモノに正面から攻撃を仕掛けるとなったら、さぞ面白いことになるだろうか」
「何言ってるんですか! あんまり危ない事言ってると、箒から落としますよぅ!?」
「……冗談だ。俺様は機を見て攻撃を見舞うとしよう」
呟いたセシル・ライハード(せしる・らいはーど)が、同席していたシャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)のツッコミを受けてやれやれとばかりに引き下がる。
そうこうしている間にも、キメラの大群は徐々に近付いてくる。グループを組んだ彼らを気にする仕草は見られない。少人数だから気にしないのか、はたまた遺跡に向かうことだけを目的としているのか。
「まぁ、頑張りましょうー。では、いきますよぉ」
呟いたシャーロットの手から祝福の力が放たれ、それは他の者たちに勇気と活力を与える。そう、たとえ少人数でも戦いようはある。それに彼らは孤独ではない。志は常に、この場で一緒に戦う者たちと同じなのだ。
「さぁ、行きますわよ! 誘導、お願いしますわね」
「は、はい、シルフェさん……えっと、落ちないように気をつけてください……」
「…………」
シルフェノワールの声に従い、睡蓮が箒を進める。彼女を護るように、九頭切丸も武器を携え箒を進める。
「私は箒の操作に専念しますぅ。セシル、しっかり支援してあげてくださいねぇ」
「ふっ、いいだろう。俺様の火術、とくと味わうがいい!」
箒を操作するシャーロットの後ろで、セシルが自信たっぷりの笑みを浮かべて、掌に炎を出現させる。放たれた火弾はキメラの一匹を直撃し、集中力を失ったキメラは地上へと落ちていく。
ついに、戦端は開かれた。仲間がやられたことを悟った他のキメラが、咆哮をあげて彼らを威嚇する。
「あ、その、えっと……ご、ごめんなさーい!」
「そなたが謝る必要はないですわ。謝る必要があるのは、向こうの魔物たちなのですから! 準備はよろしいかしら?」
「!!」
シルフェノワールの問いに、九頭切丸が唯一表情の表れるであろう瞳を明滅させて答える。それを了解の意思と受け取り、睡蓮に箒を操作させ、巨大キメラへと近付いていく。
だが、キメラも簡単には通さないとばかりに、大きく開けた口から炎の塊を打ち出す。炎がすぐ傍を掠めるだけでも、膨大な熱量が彼らの全身を襲う。
「あ、あついですぅー!!」
「俺様より強力な火術を操るとは、侮れんな。……だが、当たらなければ意味はないぞ」
「当たらないようにしているのは私ですよぅ!?」
飛び荒ぶ炎の連弾を、シャーロットが巧みな箒の操作でかわし、セシルがお返しとばかりに火弾を見舞う。不安定な姿勢からの発射であるため直撃とまではいかないが、キメラに対する牽制としては十分な効果を発揮していた。
「シャロ、シルフェと九頭切丸が降下するようだぞ」
「わかってますよぅ。はーい、頑張ってくださいねぇ」
シャーロットの祝福の力が、シルフェノワールと九頭切丸、二人の背中を押すように、そして二人は巨大キメラへと一直線に降下していく。
「妾の一撃、その身にお受けなさい!」
「!!」
シルフェノワールの長々とした槍が、九頭切丸の雷をまとった剣が、巨大キメラの背中に突き刺さる。確かな一撃ではあるが、その程度では巨大キメラの身体が揺らぐことはない。
「シルフェさん、九頭切丸、無理はしないでくださいね……きゃっ!」
睡蓮の傍を炎が飛び抜け、はずみで二本のうちの一本の箒を落としてしまう。箒はまっさかさまに森へと落ち、見えなくなる。
「退路を断たれた、というわけですか……ですが、その程度で妾が、怖気づくとでもお思いでしたか?」
「…………」
キメラの背に足を着けた状態で、シルフェノワールと九頭切丸が武器を手に身構える。その周りには、無数とも言えるキメラの姿があった。
互いの視線が交錯し、一瞬の沈黙の間が訪れる。
「妾を無礼るなぁ!」
そして両者に動きが生じた。急降下攻撃を仕掛けるキメラに対して、臆することなくシルフェノワールと九頭切丸が向かっていく。
シルフェノワールの叫びと、キメラの咆哮が同時に響いた――。
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