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リアクション
救護所だけではなく、今やバリケードの中は教導団の生徒も義勇隊の生徒も『黒面』も入り乱れての乱戦になっていた。
「ここから先へは絶対に行かせん!」
ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)は、アサルトカービンを構えて《工場》の入口の前に仁王立ちになっていた。彼の前は、探索部隊が《工場》内部に入った後で、地面を掘り返し水を入れて泥地にしてある。そこで『黒面』の足を多少なりとも止めると同時に、どちらから敵が来るのか察知しようという作戦だ。
『黒面』のうちの一人が、ジェイコブに向かって突っ込んで来た。泥地に足を踏み入れたところで跳躍した。
「くっ!」
ジェイコブはアサルトカービンの引金を引いた。『黒面』は、身体をひねって銃弾を避け、ジェイコブの頭を飛び越し、遺跡の中に飛び込もうとした。
しかし、入口には以前、デゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)とパートナーのルケト・ツーレ(るけと・つーれ)が他校生の侵入を防ぐために下げたカモフラージュネットがそのままかかっていた。ネットに行く手を阻まれた『黒面』は、腰に挿していたナイフを抜き、ジェイコブめがけて落下して来た。
「……落ちろ!」
しかし、ジェイコブはためらわず、『黒面』の胸を撃ち抜いた。
「おい、大丈夫か!?」
そのまま降って来た『黒面』の体に押し倒されて泥地に倒れ込んだジェイコブに、林が駆け寄る。
「……大丈夫です。しかし、銃が……」
泥まみれになったジェイコブはのろのろと起き上がった。銃は泥に沈んでしまい、拾ってもそのままは使えそうにない。
「ここは俺が守る、予備を取って来い!」
「了解!」
林と入れ替わりに、ジェイコブはぼたぼたと泥を落としながら駆け出した。
「手が空いてる奴はここへ来い! 《工場》に突入されるぞ!」
林は周囲の生徒たちに向かって叫んだ。声に気付いた生徒たちが、わらわらと集まって入口の前を固める。
どのくらい、そうやって戦っていただろうか。血と泥にまみれ、傷つき、声を枯らして戦っていた生徒たちは、いつの間にか敵が居なくなっていることに気付き始めた。
「敵、いないみたいです……。状況終了って言うんでしょうか、こういうの……」
見張り台の上から、グロリアーナ・イルランド十四世(ぐろりあーな・いるらんどじゅうよんせい)が細い声で自信がなさそうに言う。
「状況を確認する。皆を集めろ」
さすがに疲れた表情の林が指示する。
集められた生徒と、ずっと見張り台の上に居たグロリアーナの話を総合すると、蛮族はほぼ全滅、『黒面』も囮部隊に倒された者を含めると、前回の《工場》襲撃で確認した数より一人二人少ないか、という数になった。
「一段落、と言ったところだな」
林はため息をつくと、生徒たちを見回した。
「『黒面』の連中を埋葬してやれ。その後交代で休息と食事だな。……とりあえず、この血と泥をどうにかしないと始まらん」
「結局、鏖殺寺院が手に入れたかったものは、いったい何だったんでしょうか……」
ジェイコブが《工場》の扉を振り返る。探索部隊の生徒たちからの連絡は、まだない。
中枢区画を制圧し、さらに未調査の区域を探索し終えた探索部隊の生徒たちが《工場》から戻って来たのは、それから数日後のことだった。未調査だった区画からは量産型機晶姫や円盤の自動修理工場をはじめ、様々なものが発見された。中でも一番とんでもないのは、身長20mほどの人型兵器だ。パイロットが内部に搭乗して操縦するものらしい。
ただし、発見された物はどれも、どのような仕組みで制御され、動作しているのかが不明で、ある程度資料が残っていそうだとは言え、調査研究には相当な時間がかかるものと思われた。
「とにかく、資料の精査が先ね。生徒たちの疲労も激しくなって来たし、持ち出せるものは持ち出して、ここはいったん封印しましょう」
明花は林と生徒たちに言った。
「どうも、危険なものがあるようなのよ……もちろん人型兵器も動けば危険なんでしょうけど、それ以外にもね」
明花たちは、遺跡の最奥部でカプセルに封じ込められた機晶姫と、おそらく《工場》の技術者の一人と思われる古代パラミタ人の遺骸、そして、その古代パラミタ人が残した警告文を発見した。警告文には、
『黒き姫を目覚めさせてはならぬ。其は災厄を招く嵐、血風を呼び起こす者なれば』
と記されていたという。
「『黒き姫』というのはその機晶姫のことだと思うの。おそらく、警告文を残した古代パラミタ人は、『敵』の手に《工場》の中のもの……特にその機晶姫を渡したくなくて、防衛システムに侵入者を排除するよう命令を下したのね。円盤や量産型機晶姫たちは、ずっとその命令を守り続けてきたのよ」
明花はそう語った。
《工場》の中に眠っていたのは、大型・あるいは据付けの装置が多く、結局探索隊が持ち出せたのは、資料の一部と量産型機晶姫が使っていた茨の冠のような装置が十三個だけだった。『黒き姫』も、詳細がわからないうちは触れるべきではないと判断され、発見された状態のまま《工場》の奥に眠っている。林と明花は《工場》の扉をいったん溶接して封じ、警備の生徒たちの一団を残した上で、その他の生徒たちを連れて本校に帰還した。後日、重機を使って《工場》への道が敷設され、今回持ち出した資料を元に、再度本格的な調査が行われることになるだろう。
本校へ帰還した後、太乙はじめ、古代パラミタ語に詳しい技術科の教官や生徒たちが頭を寄せ集めて持ち出した資料を解読した結果、どうやら《工場》は古代パラミタ人が兵器の研究開発を行っていた施設であるらしいこと、そして、茨の冠のような装置の正体が判った。
『《冠》を戴き《御座(みくら)》に登る者に、勝利の栄光を与えん』
「……つまり、これはもともとは、あの巨大人型兵器と搭乗者をつなぐ装置なのよ」
強化樹脂のケースに収められた《冠》を見下ろし、明花は言う。
「しかも、使用者の能力を増幅して、接続された兵器に伝える。私たちが作った兵器にも接続できるかどうかは、これから詳しく調べてみないと判らないけど、量産型機晶姫がしていた使い方を考えると、おそらく光条兵器や、機晶姫が内蔵している武器には接続可能でしょう。使い方や、使う者の能力によっては、とんでもないことになるわ……。《冠》をつけていた量産型機晶姫と、つけていなかったものの本体に違いはなかった。おそらく、本体のみの能力では我々に太刀打ち出来ないと思って、内蔵の兵器をつないで能力を強化しようと考えたのね。『侵入者を排除しろ』という命令は受けていたけど、個体ごとに状況判断して動く能力は持っていたようだから」
そして明花は、部屋に集められた技術科の生徒たちを見回した。
「さあ、これから忙しくなるわよ。まずは、これが私たちの作っている兵器に接続可能なものかどうか。そして、機晶姫以外のパラミタの住人も使うことが出来るのか。地球人はどうなのか。調べなくちゃならないことは沢山あるわ」
間もなく、教導団では秋の大運動会が行われる。技術科の生徒たちは、いつにも増して忙しい思いをすることになりそうだった。
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