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リアクション
《工場》の通路は決して狭くはない。場所にもよるが、おおむね、乗用車が一台余裕で通れる程度の巾はある。
探索隊は、先頭にスナイパーライフルを担いだクリスフォーリル・リ・ゼルベウォント(くりすふぉーりる・りぜるべるうぉんと)と、パートナーのクレッセント・マークゼクス(くれっせんと・まーくぜくす)、その後ろに懲罰部隊の前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)とパートナーのドラゴニュート仙國 伐折羅(せんごく・ばざら)、そして神代 正義(かみしろ・まさよし)が、横一列になって強化盾を構えて進んでいた。
「前方、今のところ異常なし!」
双眼鏡で通路の先を見ながら、クリスフォーリルが言う。だが、通路は人が進むに連れて照明がつくようになっているので、まだ照明がついていない場所の様子は良くわからない。
「思ったより視界がないですね……遠距離の狙撃は難しいかも……」
「そうでございますね、暗視鏡なしでは100メートルくらいと言ったところでしょうか?」
クレッセントがうなずく。
「この先の十字路も直進だ! さくさく進めよ!」
松平 岩造(まつだいら・がんぞう)が、前回遺跡の外で戦っていた懲罰部隊の三人のために、地図を持って指示を出す。その時、岩造が言ったその十字路から、円盤がゾロゾロと現れた。
「こ、これは、一人だけ前に居てはいい的ですね」
クリスフォーリルはクレッセントを連れて下がる。
「敵、来ました! ……神代、前田、仙國、しっかりね」
宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、三人に声をかけ、パートナーのセリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)と共に、自らも強化盾を持って前に出た。これで、ほぼ通路の巾一杯に盾が並ぶことになる。
「とにかく、出来るだけ前に出ましょう」
「その働きぶり、しかと見せてもらうぞ」
セリエとランスロットも、懲罰部隊に声をかける。
「言われずとも!」
最前線で戦えるなら降格も懲罰部隊送りもなんのその、と思っている風次郎は、力の篭った声で答えた。その隣で正義が例によってお面をかぶり、
「覚悟完了!パラミタ刑事シャンバラン! ここから一歩も下がらないぜ!」
と名乗りを上げる。
「……行くわよっ!」
祥子の号令一下、前衛の六人は攻撃を開始した。風次郎がドラゴンアーツで円盤を吹き飛ばす。一方、正義は『爆炎波』を放ったが、ほとばしる炎をかいくぐって、円盤は生徒たちに迫って来る。天井に上った円盤の頭上からの攻撃を祥子は盾で避け、ランスを素早く繰り出してつつき落とした。
「おおっと!」
目の前に落ちて来た円盤を、懲罰部隊の後ろに控えていた鄭 紅龍(てい・こうりゅう)がカルスノウトで貫く。レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)とエリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)も、すばしこく側面に回った円盤の攻撃をレジーヌが盾で防ぎ、エリーズがカルスノウトで攻撃、という連携プレーで撃破して行く。
「機械であれば、雷が有効でござろう!」
伐折羅が雷術を放つと、命中した円盤が動作を停止してぽとんと落ちる。
「まとめて始末してやる!」
なおもぞろぞろと壁や天井を這って来る円盤に正義はアサルトカービンの銃口を向けた。
「きゃーっ、ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」
少し後ろから、一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)が悲鳴を上げた。
「むやみやたらに広角射撃なんかしたら、跳弾が起きて大変なことになりますよっ! 一機ずつ、確実に当たるようにしないと!」
「……そうだったっけか?」
正義はぽかんとして、治療要員として後ろに控えているパートナーの大神 愛(おおかみ・あい)を振り返った。
「前回までの探索内容のレポートに書いてあったじゃないですかっ! もう……すみません、皆さん」
愛はぺこぺこと、他の生徒に向かって頭を下げる。
「しょうがねえな、じゃ、作戦変更だ」
正義は肩を竦めると、攻撃方法を『轟雷閃』に切り替えた。
「ありゃりゃ、敵が多いから派手にトミーガンをぶっ放せるかと思ってたんだが」
後方でアリーセと正義のやりとりを聞いていた相沢 洋(あいざわ・ひろし)は、パートナーの魔女乃木坂 みと(のぎさか・みと)に言った。
「そう言えば、機晶姫はともかく、円盤はいい感じに銃弾を弾きそうですわね……」
洋に命じられて、トミーガンの弾倉を担げるだけ担いで来たみとは情けない表情になった。
「クリス様、右手の壁にも!」
クリスフォーリルもクレッセントに助けてもらいながら、精密射撃で一機、また一機と円盤を撃破する。
しかし、戦闘を続けるうちに、懲罰部隊の三人には疲労が目立つようになってきた。怪我は正義のパートナー、剣の花嫁大神 愛(おおかみ・あい)やイリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)のパートナーのエレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)、そして鄭 紅龍(てい・こうりゅう)のパートナー楊 熊猫(やん・しぇんまお)が『ヒール』で治療しているので大事ないものの、スキルを使うことによる消耗が激しい。そして、治療担当者の『ヒール』も、無尽蔵に使えるわけではない。
「も、もうだめです……イリーナさん、申し訳ありません……」
熊猫はまだ大丈夫そうだが、新兵のエレーナは今にも座り込みそうだ。
「今元気にしてあげますね!」
レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)が『SPリチャージ』を使う。
「戦いとは、相手を倒すことだけではない。守り切ることもまた戦いなのだッ」
「忍とは耐え忍ぶもの、その真髄を皆に示してみせようッ!」
風次郎と伐折羅は己をふるい立たせるように言うが、だんだんと盾を掲げる高さが低くなって来ている。
「くそ……平和のために戦うヒーローが、疲れたなんて言ってらんねえんだよ!!」
吼える正義を、愛が心配そうに見ている。
敵を倒しながら少しずつ進み、円盤が現れた十字路にさしかかる。だが、その時、円盤が現れたのとは反対側の通路から足音が聞こえてきた。
(このままでは、中枢区画にたどり着く前に皆疲弊してしまうかも……!)
そう思った黒乃 音子(くろの・ねこ)は、パートナーの剣の花嫁フランソワ・ド・グラス(ふらんそわ・どぐらす)、英霊アルチュール・ド・リッシュモン(あるちゅーる・どりっしゅもん)、ゆる族ニャイール・ド・ヴィニョル(にゃいーる・どびぃにょる)と共にそこに残る決断をした。
「ここはボクたちが食い止めるから! 皆は先に行って!」
「その人数では危険だ。風紀委員を何人か残らせよう」
鵬悠が風紀委員たちを見回す。
「私たちが残りましょう」
岩造のパートナーの剣の花嫁フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)と機晶姫ファルコン・ナイト(ふぁるこん・ないと)が申し出た。他に、風紀委員も何人か残ると言う。
「劣勢だったら、無理をせずに下がって助けを求めなさい!」
明花の声に、音子はうなずいた。
通路の先の暗がりから、数体の量産型機晶姫が姿を現わす。
「ただの一人もこの先に通すことはできない! 戦線死守せよっ!!」
音子の号令と共に、フランソワ、アルチュール、ニャイールはそれぞれ武器を構えた。ファルコンもカルスノウトを抜き放つ。
「『バニッシュ』で先手を取ります!」
先へ進む生徒たちが十字路を完全に通り過ぎたのを見て、フェイトが叫んだ。光が、薄暗い通路に満ちる。生徒たちが手や腕を掲げてそれを避け、光が消えた通路を見ると、量産型機晶姫たちは目標を見失ったかのように立ち止まり、周囲を見回していた。
「今だ!」
音子はアサルトカービンで先頭の機晶姫を狙い撃った。
「見事、初陣に勝利を飾ってみせるニャー!!」
フランソワに『パワーブレス』をかけてもらったニャイールが量産型機晶姫に向かって突っ込んでいく。
「さて、腕の見せ所ですね」
アルチュールもエペを構えた。が、すぐに量産型機晶姫たちは内臓の銃器で反撃してきた。銃と言っても実弾ではないため、避けることは出来ても武器を使ってはね返すことは出来ない。アルチュールとニャイールは、慌てて風紀委員たちが掲げる盾の陰に戻った。
「これは、近接攻撃は難しいであるな」
ファルコンは突っ込むのを止めて冷静に言う。
「盾で向こうの攻撃を止めながら接近戦に持ち込むしかないかな……」
音子は風紀委員に頼んで、盾で量産型機晶姫の攻撃を止めながら少しずつ前に出た。しかし、機晶姫たちも接近戦は不利だと判っているのか、じりじりと後退する。
「黒乃、あまり出るとさっきの十字路ががら空きになる。奴らを仕留めようと考えずに、後退して十字路を塞ぐ形で守った方がいい」
フランソワに言われて、音子はうなずいた。