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横山ミツエの演義(第3回/全4回)

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横山ミツエの演義(第3回/全4回)

リアクション

 竜司との喧嘩でできた傷を天流女 八斗(あまるめ・やと)に手当てしてもらいながら、カリンはキリンとのわずかなやり取りを話して聞かせた。
「やっぱり文化祭に遊びにきてるだけなんだよ! きっと超照れ屋なんだねっ」
「なるほどなるほど。それなら、ぜひともお誘いしてちゃんと案内してやんないとな」
「キミ達、私の話をちゃんと聞いていたのかい……?」
 八斗と伊達 恭之郎(だて・きょうしろう)は、『ミツエ ブッコロス』のあたりは綺麗に無視していた。脳内はキリンと過ごす楽しい時間でいっぱいのようだ。
 さらに恭之郎にいたっては、見事キリンを連れて帰った彼にとびっきりの笑顔で飛びついてくるというオマケの妄想もついていた。
「よし、みっつんのためにも行ってくるぜ! きっと話せばわかってくれるさ」
 恭之郎は気合を入れるともうじき来るだろうキリンの通過地点へ駆けていった。
 それを見送ったカリンがホッと息をつく。
「キミ達が通りかかってくれて良かったよ」
 キリンを見失い、勘で走り出したカリンとメイは恭之郎と八斗に出会い、キリンの進路を知った。ミツエ親衛隊の恭之郎がミツエと連絡を取ったことにより割り出したのだ。
 竜司とはあの後別れたので、彼らがどこにいるのかはわからない。けれど、諦めてはいないだろう。
「はい、治療おしまい。痛いとこ、ないよね?」
「ああ。ありがとな」
 二人が穏やかに微笑みあった直後、行ったはずの恭之郎の叫びが和やかな空気を木っ端微塵にした。
「無理無理無理っ。息できないくらい臭いっての!」
「戻ってくるの早いんじゃないの!?」
 八斗が手加減なしのチョップで出迎えた。
 打たれた額を押さえながら恭之郎はキリンと対峙した時の様子を話した。
「一緒に文化祭に行こうって話しかけようとしたんだけど、『文』までしか言わせてもらえなかった。すげー気迫だった」
「諦めるの?」
「まさか! どうにかして近づくか、気を静めてもらわないとな……」
 知恵を絞る恭之郎に、八斗は安心する。諦めたと言ったら拳を出しているところだった。
 とりあえず、ここにいても仕方ないと移動することになった。


 移動先で待機していたソルラン・エースロード(そるらん・えーすろーど)に事情を話すと、恭之郎は防腐剤を渡された。
「みんなで食事会をする時に、虹キリン君の能力で料理が腐っちゃったら気まずいでしょう?」
 というのは、アイナだ。防腐剤は彼女の提案らしい。
 だいぶ強力な防腐剤のようだから、たぶんキリンにも対抗できるのではないか、とアイナは続けた。
 八斗が恭之郎の背を叩く。
「さぁ、もう一度!」
 防腐剤を盾に恭之郎は再びキリンの進路へ立った。

「虹キリン君、今度こそ話を聞いてもらおうか! オレはキミの敵じゃない!」
 防腐剤を首に提げた効果か、強烈な腐臭は幾分やわらいだ。ような気がした。
 恭之郎の呼びかけにキリンはようやく足を止めた。
「テキジャナイトイウコトハ ミカタカ? ミツエ ブッコロスカ?」
「いや、みっつんは殺さないし殺させない。話したいのはそういうことじゃないんだ。今、向こうでは文化祭やってんだ。キリンくんをそこに招待したい。楽しい祭りだ。一緒に楽しもうぜ」
 恭之郎の心の中はさまざまな思いでいっぱいだったが、何とか表には出さずに笑顔でキリンを誘うことができた。
 もしこのまま突進してきたら勝てないなー死んじゃうなー、とドキドキする目の前でキリンは一度威嚇するように首を振った。

 固唾を飲んで恭之郎とキリンの行方を見守る八斗達に、鳳明が疑問を差し挟んだ。
「あの〜、防腐剤はどのくらいの時間もつので?」
「……わ、わかんない」
 自信なさそうに答えたのは発案者のアイナだった。
 キリンを見たのは今日が初めてなのだから仕方ない。
 八斗が何かを納得したように深く頷いた。
「効果のほどを恭之郎で確認しようってわけだね」
「そんなつもりはないからっ」
 嫌味ではなく本気でそう思って言った八斗の言葉を、アイナは慌てて否定する。言われたほうは酷く気まずい。
 それに気づいた八斗は明るく謝った。
「いいのいいの。どんどん使ってやって!」
「いや、だから、そうじゃなくて……」
 いまいち意思の疎通がうまくいかない二人の会話を、緋桜 ケイ(ひおう・けい)がぶった切る。
「おいおい、ちょっと待てよ。そんなとんでもない力を常時発生させてたら、キリン自身の食事もままならないだろう!」
 もっともな意見に、八斗とアイナ、ソルランは目を見開いた。
 三人の反応にケイは肩を落とす。
「霞を食って生きてるんならともかく、ゆる族なんだろ。ちゃんとコントロールできるんじゃねぇの?」
 以前に同じ能力を持った者を相手にしたことのあるケイの言葉は、説得力があった。
 感嘆する三人から目をそらしたケイは、それにしても遅いなとこぼした。
「仲間がパラミタトウモロコシ持ってくることになってんだけど、どうしたんだろ」
 遠くを見てもそれらしき人影は見えない。
 恭之郎の必死の説得はうまくいきかけている。
 ここで、ゆる族の好物と言われるパラミタトウモロコシでご機嫌を取って、円満に収めたいところだ。
 流れを頭の中でまとめた鳳明は、携帯に向けてこれらのことを伝えて煽るような言葉を並べる。
「キリンの能力のあり方はいかに!? 真実はパラミタトウモロコシだけが知っている! これはもしかすると、勝者はトウモロコシか?」
 改めて、キリン捕獲組は鳳明を見つめた。
「そういえば、鳳明ちゃんは何をしているの?」
「トトカルチョだよ。キリンさん討伐トトカルチョ。その実況中継。市で今頃盛り上がってると思うよ」
 いつの間に賭けのネタにされていたのか。
 いや、考えられないことではないが。
 あんぐりと口を開けている彼らに、鳳明は無邪気な笑顔を見せた。
 そんな彼女も、携帯の向こうでミツエまで参加していることは知らない。