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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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「さて……行くとしますか」
 赤い薔薇の花束を携え、オレグ・スオイル(おれぐ・すおいる)ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)を訪ねた。
 ラズィーヤとは先の会議に会って以来だ。
 オレグは離宮対策本部の事務局長付けの事務員であり、その前にも何度か百合園関係のことには足を運んでいるので、顔見知りではあるが、親しい仲と言うわけではない。
 それはオレグ自身も分かっており、失礼のないように、フォーマルな装いで、ラズィーヤの元に行った。
「失礼いたします」
 オレグは丁寧に礼をし、ラズィーヤに赤い薔薇を差し出した。
 それを見て、ラズィーヤは微笑を浮かべた。
「赤い薔薇の意味を……お分かりで渡しているのかしら?」
「え……?」
 赤い薔薇は本気の愛を表すときに使われる花。
 オレグは蒼い薔薇もあるけれど、ここは赤い薔薇でと思って持ってきたのであって、いきなりラズィーヤに踏み込もうとしたのではなく、友人から始められればと思って、来たのだが……。
 ラズィーヤはオレグの表情を読み取り、それ以上の追求はせず、オレグを招き入れた。
 席を勧められ、オレグはそこに座った。
 オレグはこうやってラズィーヤを訪ねた自分が、自分でも少し不思議だった。
 物腰柔らかなオレグだが、人と距離を詰めないようにして生きてきた。
 人に本心を見せることもなく、人に親切にはしても、距離を取るように生きてきた。
 それなのに、ラズィーヤとはなぜか一緒にいたいと言う気持ちがある。
「今日はバレンタインですわね」
 ラズィーヤがそんな風に切り出し、2人は世間話をした。
 他愛のない話ばかりであったが、それはそれでオレグは楽しかった。
 その時間が幸せに感じた。
(もっとお話しできる機会ができるといいな)
 帰るときには、オレグの心にそんな気持ちが芽生えていた。

 
「はい、どーぞっ」
 張り切った様子で牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)が差し出したのは、綺麗に包装されたオランジェットだった。
「これ、なーに?」
 不思議そうなミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)を撫で撫でし、アルコリアはニコッと笑った。
「オランジェットって言ってね。オレンジピールをチョコで包んだお菓子だよ。空京で見つけたちょっと良さげなお店で買ってきたの」
「わぁ、ありがとうっ!」
 ミルミは目を輝かせ、期待に満ちた目をした。
「開けていい、開けていいっ?」
「うんうん、もちろん」
 許可を得て、ミルミは箱を開け、喜んでオランジェットを食べた。
 アルコリアはその姿を楽しそうに眺めた。
 バレンタインデーにミルミと会えるとは思っていなかったので、うれしいのだ。
 公園で話をしていた2人だったが、日が落ちると、アルコリアは夜空の見やすいベンチにミルミを誘った。
「飛空艇が見えたりして楽しいよ。ライトアップも近すぎない方が見やすいから行こう」
「うん!」
 ミルミは元気に答え、アルコリアについていった。

「寒いから、これかけようね」
 アルコリアはミルミを膝に乗せ、その上からひざ掛け毛布をかけて、ぎゅーっとミルミを抱いた。
 人ほどあったかいものは無いなあと思いつつ、ミルミの頬をすりすりする。
「くすぐったいよ〜」
 きゃっきゃっと笑うミルミに、さらにアルコリアは頬を摺り寄せた。
「摩擦熱、摩擦熱」
 そんなアルコリアの言葉に、ミルミは楽しそうに笑う。
 アルコリアは温かい烏龍茶の入った水筒を取り出し、ミルミに差し出した。
「ミルミちゃん、どうぞ……あ! 猫舌なら口移しで飲ませるよっ」
「大丈夫ーー。ミルミ、冷めるまでちゃんと待てるよ!」
 思い出したように下心を出してみたアルコリアだったが、ミルミは笑顔で断った。
 それでも、アルコリアは気にせずに、むぎゅむぎゅとミルミを抱いた。
 アルコリアの超感覚で生えた黒い猫耳と黒い尻尾がうれしそうにパタパタしている。
 デートなのだから、何か気の効いたことが言えたり、出来たりするといいなと思うのだけれど、ミルミを抱いていると、それだけで癒されてしまい、何も出なかった。
「しあわせー……」
 黒い猫耳がへにょんとして、幸せそうにミルミの体温を味わう。
 ミルミを抱いていると、自分の人間らしさをどんどん吸い込んでいく穴が、その間だけ塞がるというか、そんな感覚をアルコリアは感じていた。
「ミルミちゃん、お腹すいた。耳もにょもにょ食べさせて」
「た、食べれないよぉ」
 お耳を食べようとするアルコリアから、きゃっきゃ言いながら、ミルミが逃げる。
 そんな間に、大分遅い時間になり、アルコリアはミルミを送って行くことにした。
「送りますよ、私の可愛いお嬢様」
 アルコリアはミルミをお姫様抱っこして歩き出した。
 2人は身長がほとんど変わらず、体重はほぼ同じなのだが、アルコリアは見た目とは裏腹に割りと力があり、要領を心得ているらしく、ミルミを上手にお姫様抱っこできた。
「わ、わっ!」
 ミルミは照れながらもアルコリアに連れられ、百合園まで帰っていったのだった。