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ホワイトバレンタイン

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「呼雪ー!」
 元気に手を振るヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)を見て、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)はどこからつっこめばよいのかと思い、額を抑えた。
 しかし、今回はハロウィンの仮装よりもかなりマシで、コートを着て、それに色を合わせた帽子を目深に被り、顔が見えないようにしていた。
 それに、公園は既に夕暮れなので視界も悪く、周りも相手しか見えてないカップルばかりなので、誰もヘルに注意は向けなかった。
「大丈夫、検問とかあるわけじゃないし、それにいざとなればテレポートもあるし」
「テレポートっていっても……」
「うん、しないよ。体に悪いのもあるけどさ、テレポートなんてするより、呼雪と一緒に並んで歩きたい」
 屈託のないヘルの言葉に、呼雪は少し照れながら、調べておいた公園の東屋の方にヘルを連れて行った。
「ここなら人目にも付きづらいし……蝋燭の日も消えづらいだろう」
 なぜ蝋燭かというと、ヘルの誕生日はそれどころではなく、祝ってやれなかったからだ。
 だから、呼雪は3号程度の小さいチョコレートケーキを手作りし、蝋燭を持ってきたのだ。
「2本で良いのか?」
「うん! あ、呼雪がもっと挿したいなら何本でもいいよ!」
 何本でもじゃ意味がないだろうに、と言いながら、呼雪は蝋燭を挿して火をつけてやり、ヘルは言われるままにそれを吹き消した。
「わーい、これ食べていいの? 呼雪」
「ああ、フォーク出してやるから待ってろ」
 呼雪が準備をしてくれると、ヘルは喜んで食べ、その表情に作ってきて良かったと呼雪は思ったのだった。

 ライトアップされた公園の中で、2人はしばらく話をした。
「ヘルには感謝してるんだ。経緯はどうあれ俺が変われたのはヘルのお陰だし、必要だと思ってる」
「ありがとう、そう思ってくれて! 呼雪、大好きだよー!」
 うれしそうなヘルを見て、呼雪は珍しく曖昧な微笑を見せた。
 呼雪は好きだという気持ちをハッキリ伝えていなかったし、ヘルは自分を大分好いてはくれるだろうけれど、自分だけじゃないだろうという思いがあった。
 ヘルにとって自分はどれくらいかというのも気になったし、今の立場が立場なので、ヘルが独り立ち……せめて身の振り方が決まってひと段落できたら、改めて向き合おうと思っていた。
 しかし、呼雪の曖昧な微笑に、納得いかないらしく、ヘルは不満そうな顔をした。
「ね、呼雪ちゃんと聞いてる?」
「ああ」
「大好きだよって言ったんだけど」
 ヘルは面白くなさそうに、ぎゅむーっと呼雪を抱きしめた。
「こんなに好きなのにー」
「…………」
 外でべたべたするのは恥ずかしい呼雪だが、離すのは……と思い、抱きつかれていた。
 すると、ヘルは声を低め、呼雪の耳に囁いた。
「愛してるよ」
 普段はあまり表情の崩れない呼雪が驚きの表情を浮かべる。
 それを見て、ヘルは満足そうに言った。
「よーし、これなら伝わった感じ! あ、呼雪、寒いからマフラー入れてー」
 ヘルがプレゼントした長いマフラーにヘル自身が巻きつき、そのままこてんと呼雪に背中を寄せた。
「でも今、こうやってデートしてくれるって事は期待してもいいんだよね? 呼雪の一番が僕ならいいや♪ 前に言った通り、僕を幸せにしてもらうよ☆」
 浮かれた調子のヘルの頭を、呼雪は抱き寄せ、2人はしばらく2人だけの時間を楽しんだのだった。