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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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「体調は大丈夫か? セイカ」
 メイド服の上にブラックコートを着た朝霧 垂(あさぎり・しづり)が振り返り、騎凛 セイカ(きりん・せいか)はこくりと頷いた。
 そんなセイカを気遣いつつ、垂はセイカの隣をゆっくり歩き、楽しげに笑った。
「あーでも良かったぜ。教導団員2人でデパートでウインドウショッピングなんてして楽しめるかなあとか思ったんだけど、意外といけるもんだな」
「雑貨とかいろいろあって、楽しかったです」
 セイカの言葉に垂は喜び、セイカにちょっと豪華なカードを見せた。
「昔さ、空京のレストランでバイトしてたんだよ。割とがんばってたから覚えてもらえててな。そこの店長が『好きな男でも連れてきな』ってディナーの招待券送ってくれたんだけど……良かったらこれから行かないか?」
「私とでいいんですか?」
「行くような男なんていないしなー」
 笑いながら招待券をひらひらさせる垂を見て、セイカはくすりと笑い、垂についていった。

 レストランでバレンタイン特別メニューを食べた2人は、その後、ライトアップされた夜の公園に向かった。
 公園の中を歩きながら、垂とセイカは先ほどのディナーの話をした。
「うまかったか? 口に合った?」
「はい。最後のデザートとかすごく可愛くて、食べるのがもったいないくらいでした」
「えへへ、今日はバレンタインだけあって、レストランも気合入ってたよな」
 垂は公園の噴水の前に行くと、バッグから小花模様の白地の包装紙にピンクのリボンのついたチョコを出し、一緒にハートの機晶石ペンダントを添えた。
「色々とお世話になってるしな。感謝の気持ちだ、受け取ってくれないかな?」
「え? 私に?」
 いいのですか、と確認するセイカに、垂は照れながら答えた。
「セイカのために用意したものだからな」
「あ、ありがとうございます」
 セイカは笑顔で受け取り、垂はそんなセイカを見つめながら、ペンダントに手を添えた。
「かけてあげるよ」
 垂はセイカの首にペンダントをかけてあげ、セイカを見つめた。
「セイカ……」
 黒い垂の瞳が真剣にセイカを見つめ、セイカはどきっとする。
 そして、そのまま垂の顔がセイカに近づき、軽く唇が触れた。
「厄払いのおまじないだ……好きだぜ、セイカ」
 唇を離し、垂がウィンクをしながらそう言うと、セイカの顔が真っ赤になった。
「えっ、えっ……朝霧さ……いえ、垂さん……」
「ん?」
「いいえ、あの、垂……」
 頬を染めて下を向いてしまったセイカを見て、垂のほうも戸惑い、謝った。
「あ、気分悪くしちゃったならごめん……な」
 2人で温泉に入ったときに恋愛話をし、垂もセイカもどんな男性が好みか……みたいに話したので、お互い恋愛の対象が男性だということは知っている。
 だから、セイカは垂の態度に戸惑ったし、垂もセイカが困るかなと言うのはキスする前からある程度予測できていた。
「……セイカ?」
 もしかして泣かせちゃったかな、と思って、下から覗き込むと、セイカがさらに顔を赤くして、横を向いた。
「ほんと、ごめんな、セイカ……」
 しょぼんとした様子で垂が謝ると、セイカが慌てて顔を上げた。
「ち、違うんです。その、気分を悪くしたとかじゃなくて、私は、ただ……」
 今の気持ちを表現しようとして、セイカはうまく言葉が出なかった。
 ただ、垂が落ち込んだりしないように、なんとか何かを言おうとして、やっとセイカの出たのは飾りのまったくない感情だった。
「本当にうれしかったんです……」