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ホワイトバレンタイン

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(あの方はどうしていますでしょうか……)
 バレンタインデーが近づいてきた頃。
 高務 野々(たかつかさ・のの)レッザ・ラリヴルトンのことを思い出していた。
 前に会ってから、だいぶ日が過ぎた。
 女の子が好きな野々だが、男性が嫌いというわけではない。
 それにパラミタに来てお世話になった方でもあるから、お礼をしたいと言う気持ちがあった。
「学校に通っていらっしゃるとのことでしたから、待ち伏せしたら会えるでしょうか?」
 ちょっといたずらっぽい笑みを見せ、野々はチョコを用意しに出かけた。

 バレンタインデー当日。
 野々はレッザと無事に会うことが出来た。
「あ、レッザ様。チョコをお届けにあがりました」
 差し出されたチョコに、レッザは目を丸くした。
「キミが来てくれるとは……思わなかった」
「ご迷惑でしたか?」
 その質問にレッザは首を振る。
「いや、そんなことはまったくない。覚えていてくれて、気にかけてくれて、ありがとう」
 レッザの言葉に、野々は小さな花のように柔らかな笑みを見せた。
 ところが。
「義理チョコでもうれしいよ」
 というレッザの言葉に、ちょっと眉根を寄せた。
「いいえ、義理ではありませんよ。あ、ですが本命というわけでもありませんので、誰かお相手がいらっしゃるのでしたらご安心を」
 うまく意味が分からないらしく、レッザが難しそうな顔をするが、野々はくすっと笑い、人差し指を立てて、ウインクした。
「これは立場も見返りもない、ただ高務野々個人が渡したいと想って渡すチョコなのです。実はほんとーに貴重なものなのですよ?」
「貴重なんだ」
 野々のウインクを受け、レッザも小さく笑った。
「それならよりうれしいよ。どうもありがとう」
「はい、チョコには集中力を高めたりする効果がありますので、勉学の合間にでもどうぞ」
 大事そうにチョコをしまう様子を見ながら、野々はレッザに尋ねた。
「もし、お時間があるようでしたら、少し歩いてお話しても構いませんか?」
「俺でよければ喜んで」
 レッザはそう答え、一緒に歩き出した。
 特にどこに行くでもないのだが、2人はそのまま歩きながら、最近あったことなどを話したりした。
 そして、しばらくすると、野々が立ち止まり、一歩下がって手を振った。
「それではレッザ様。ありがとうございました」
「あ……」
 行こうとする野々をレッザが呼び止めるように手を伸ばす。
「はい?」
「いや……覚えているかな……。卒業したら、父よりも働いて、俺が家を復興させる。キミを俺の力で雇えるくらいにね、と言ったのを」
 レッザの問いかけに野々がこくんと頷く。
 すると、レッザは小さく笑った。
「そう、覚えていてくれたならうれしいよ。今日はありがとう」
「はい、レッザ様もお体に気をつけて」
 野々は頭を下げて、レッザの前を去った。
 レッザは野々の姿が見えなくなるまで、ずっと見送ったのだった。


 バレンタインデーの喧騒に湧く街を離れ、瓜生 コウ(うりゅう・こう)マリザとジャッパンクリフに向かった。
 夜のジャッパンクリフは静かで、そこにはマリザとコウの2人しかいなかった。
「キレイ……」
 マリザが地球の夜景を見つめ、呟く。
 コウはその隣から同じく夜景を見つめた。
 アメリカのマサチューセッツ州出身のコウとしては、聖ヴァレンティヌスの記念日は恋人の祭りと言うよりも、大事な人や親しい人にプレゼントを渡し、一日を一緒に過ごすものと理解していた。
 だから今日はマリザと過ごしたかったのだ。
「お互いに色々と背負っているけれど、今日はゆっくりと夜景でも見たいと思ってな」
「うん、コウの選択に感謝」
 マリザも気に入ったらしく、ずっと夜景を眺めている。
 その傍でしばらく夜景とマリザの横顔を交互に眺めた後、コウは切り出した。
「オレは自分の魔法の素質で大きなことを成し遂げたい。マリザはどうだ?」
「そうね。何かと言うならば……具体的に聞こえないかもしれないけれど、騎士としての使命かな」
 マリザの言葉にコウは頷く。
 コウにはその意味が分かったからだ。
 マリザの言う使命には、子供たちのことも含まれていた。
 2人はまた夜景を一緒に見つめ、コウが帰り際にマリザにあるものを贈った。
「これは……」
「銀のスプーンだ。目覚めた半妖精たちと、パラミタに来たオレは、いわば『新たに生まれた』もの。だから、持って生まれると幸せになると言われる銀のスプーンを一緒に持っておきたかったのだ」
 マリザへ贈ったものは、コウとお揃いのものだった。
「ありがとう」
 大事そうにマリザは胸に抱く。
 2人はこれからの日々を思いながら、この日はゆっくりと一日を楽しんだのだった。

 
 ゴチメイ隊のリーダーであり、レッドであるココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)の元に一つの箱が届いた。
 ハート型のケースだ。
 ココはそれを世界樹の中で開けてみた。
 中にはたくさんの小さなチョコが入っていた。
「へぇ……」
 小さなチョコたちのそれぞれ形を、ココは一つ一つ手にとって確認してみる。
 すると……。
「俺様も一緒に食べてくれにゃ!」
 中からシス・ブラッドフィールド(しす・ぶらっどふぃーるど)が飛び出した。
 そして。
「にゃーーーっ!!」
 シスはココのドラゴンアーツで吹っ飛ばされて、世界中の枝葉の中に消えた。
「本当に食べるのは勘弁だったけど……これもひどいにゃ〜」
 ココからすればいきなり飛び出してくるから、反射的にやっただけなのだが。
 シスはチョコ作りに行ったケイが帰らぬ自分を探しに着てくれますようにと祈りながら、枝葉にぶら下がったのだった。