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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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 九条 風天(くじょう・ふうてん)は緊張していた。
 初めてリース・アルフィン(りーす・あるふぃん)と2人っきりでお出かけだからだ。
 しかし、リースはそれ以上に緊張していた。
 今までだって何度も何度もそうしたいと思ってきた、夢見てきた。
 でも、本当になってみると、緊張をして……夢見てきたときのように、みんなと一緒にいるときのように、うまくしゃべることも動くことも出来なかった。
「リースさん」
 ポンと風天の手が、リースの頭に置かれ、薄茶の髪を優しく撫でる。
「あ……」
 その手の暖かさに、リースは少しホッとし、表情を緩める。
 リースのそんな表情を見て、風天は足を進めた。
「それじゃ、行きましょうか。公園の奥に花畑があるんです」
「はい」
 道を作るために前を歩く風天の後ろを、リースはちょこちょこっとした様子で付いていく。
 そして、色とりどりの花の咲く花畑につくと、リースが笑顔を見せた。
「わあ、綺麗ですね」
 花よりも綺麗なリースの笑顔に、風天はドキッとして彼女を見つめる。
 リースはその花畑を背に、風天にずっと抱えていた想いを言った。
「風天さんのこと……初めて会った時から、ずっとずっと好きでした。友達になっていっぱいおしゃべりして、もっともっと惹かれていって……」
 ぎゅっとリースが自分の手を握る。
「惹かれていって……どんどん好きになったけど、でも、言えなかった。好きという言葉を口にしてしまったら、関係が壊れてしまいそうで……そばにいられなくなるならば、想いなんてずっと秘めていてもいい、友達としてでもいい、好きでいてくれたら、仲良くしてくれてたら……って」
 風天は切なげなリースの言葉を聞き、その頃を思い出した。
 最初の頃は、風天はリースとは他の人と同じく仲良く出来たらいいなくらいの認識だった。
 しかし、友達たちと集まっているときに、リースの口から風天への好意の言葉が漏らされ……それから意識し始めた。
「リースさん……」
 小さなリースの肩に、風天が手を乗せる。
 あの時は己の身すら自分の力で護れるか怪しく、さらに誰かを護れるのかと何度も自問自答した。
 それでも、リースは風天に言った。『信じているから』と。
 不安のすべてを吹き飛ばすその言葉を聞き、それまで堰きとめていた想いがあふれ出して……風天は思わず聞いてしまった。
『ナラカの果てまで共に付いて来る覚悟はありますか?』と。
 いきなりに質問だったが、リースは迷わずに『最初に会ったときから、そのつもりでしたよ』と答えた。
 その日からもう、風天はリースの居ない世界など考えられなくなっていた。
 風天の手が肩に触れ、どきっとしながら、リースは何とか言葉を口にしようとした。
 でも。
「風天さん……」
 彼の名を呼び……それ以上、引っ込み思案なリースの口からは、うまく言葉を出すことは出来なかった。


 クロス・クロノス(くろす・くろのす)はパートナーのカイン・セフィト(かいん・せふぃと)と夜の公園を歩いていた。
 今日のクロスはシンプルな黒のオフタートルAラインワンピースで、それに裾にレースをあしらった白のペチコートを重ね、黒のニーソを履いていた。
 モノトーンで固めたそれは大人っぽい雰囲気のクロスによく似合っていた。
「素敵ですよ、クロス」
 カインもそう褒めてくれた。
 今日は2人は一緒に教導団を出るのではなく、外で待ち合わせをして、ということになり、待ち合わせの場所に来たクロスを見て、カインはそう言ってくれたのだ。
 カインの方も黒のシャツに赤のネクタイを締め、黒スーツに黒のコートと、銀の髪と金の瞳が映える服装で来ていた。
「こういうのって、珍しいよ……ね?」
「そうだね。留守番なことが多かったし」
 こういうことというのはデートめいたことの話だったのだが、カインはそれをはぐらかした。
 下手に行動を起こして、今の関係が崩れてしまうのが怖い。
 曖昧な関係から一歩踏み出す勇気が出ないクロス同様、カインも関係の崩壊を怖がっていたのだ。
「あ、うん。カインに留守番頼むこと多くてごめんね? 今年は出来るだけ一緒に出かけよう」
「今日がその最初ですか?」
 カインの問いにクロスはちょっと慌てながら頷く。
「うん……ライトアップ、見たかったから」
 夜の公園にカインを連れ出すために、クロスがつけた理由がそれだった。
 2人はしばらくライトアップされた公園を歩き、昨年のことをいろいろ話したりした。
「少し座らない?」
 クロスに求められ、カインもベンチに座る。
 少し大きめの袋の中から、クロスは花束を取り出した。
 『よきパートナー』の花言葉を持つシザンザスと、『秘めた恋』の花言葉を持つイキシアの花束を、クロスはカインに贈った。
「これは……」
 同じく花束を用意してきたカインは、クロスからの花束を小さな笑顔で受け取り、自分も花束を贈った。
 カインからクロスへの花束は『君と居ると心和む』の花言葉を持つペチュニアと、『あなたは私のやすらぎ』の花言葉を持つルピナスの花束だった。
 そして、カインは同時に雫型にカットされたサファイアのネックレスをクロスにプレゼントした。
 サファイアはお互いの刺青と同じ色合いのものだった。
「カイン、私はカインの瞳と同じ色のこれを……」
 クロスがカインのために選んだのは、カインの瞳の色と同じ、琥珀の石が埋め込まれたブレスレットだった。
「クロス……」
 カインが見つめると、クロスは顔を赤らめ、視線を逸らした。
「ふ……、深い意味はないから。パートナーとして、これからもよろしくって意味だから。パートナーとして……」
 そこまで言って、クロスは自己嫌悪に陥る涙目になった。
「……クロス?」
 そうカインが問いかけても、クロスの口からうまく言葉が出てこなかった。