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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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リアクション

「さあ、この世から一切のキャッキャウフフを徹底的に転覆するのです!! この聖戦を制するのは、我ら非モテです!」
 公園の配電室を占拠したいんすます ぽに夫(いんすます・ぽにお)は全パラミタに宣言するように叫んだ。
「驚きおののくがいいでしょう! 我々の大停電作戦でツァンダは真の夜を手にいれるのです!」
 ぽに夫は公園の電源盤を一気に落とした。
 公園のライトアップもイルミネーションも一気に消え、夜の公園を真の暗闇が包んだ。
「これで、カップルの恋は風前の灯です!」


「えっ!」
 いきなり真っ暗になり、クロス・クロノス(くろす・くろのす)は驚いて、顔を上げた。
「いったい何が起きたのでしょう……」
 周囲を見回すクロスを見て、カイン・セフィト(かいん・せふぃと)はホッとしたように、微笑を見せた。
「良かったです、涙が乾いて」
「……えっ」
「大丈夫、落ち込まないでください。クロスのことは分かっているつもりですよ……?」
 クロスが意図していないことを口走ってしまって、涙目になったのをカインは気づいていた。
 だからカインはクロスをそっと抱き寄せた。
「ずっとそばにいます。だから、ゆっくりと想いが口に出来るくらいに……時間を重ねましょう」
 それはクロスに向けた言葉だったのか、自分に向けた言葉だったのか、カイン自身にも分からなかった。
 少なくとも分かっていることは……こうして、クロスがカインの腕に抱かれるのが嫌ではない……うれしい……という事実だった。


「あれ、ライトアップが……」
 晃月 蒼(あきつき・あお)は急に暗くなった公園を東屋から眺めた。
 レイ・コンラッド(れい・こんらっど)がキャンドルをつけておいてくれたおかげで、急に真っ暗にはならなかったが、それでもちょっと蒼は不安そうな顔をした。
「そっちに寄ってもいい? レイ」
「どうぞ」
 レイが少し体を引いて席を空けてくれたので、蒼はそのそばに行った。
 そして、ちょうど良いタイミングと思い、蒼はレイにプレゼントを差し出した。
「これ、レイに……」
 編む間、いろんな台詞を考えたのに、蒼の口から出てきたのは、やっとそれだけの言葉だった。
 蒼が渡したのはレイに内緒で一生懸命編んでいたマフラーと、手作りのチョコだった。
 チョコレートにあいてる穴がちょっと人の顔に見えて怖いけれど。
 かじってみると、カカオ90%チョコよりもビターだったけれど。
 何かチョコスティックとか謎なものも刺さっていたけれど。
 レイは喜んでそれを受け取った。
「ありがとうございます、蒼様」
 娘がくれるものならば何でもうれしいという父親のようなレイの笑みに、蒼は複雑な気持ちになった。
「それでは私からも……」
 レイが編んでおいた手袋を、蒼の冷たくなった手にはめてあげる。
 白くて可愛い、まるでお店の売り物のように上手な手袋に、蒼はちょっと焦りながら、自分もレイの首に編んだマフラーをかけてあげた。
「ありがとう、レイ。色が両方とも白だから、おそろいみたいな感じだねぇ」
 うれしそうな蒼にレイは微笑を返す。
 ふっと風が吹き、二人のそばにあったキャンドルの火を消した。
 真っ暗な中で、蒼はレイをジッと見つめ……その暗さに押されるように、口を開いた。
「レイ……」
「はい?」
「…………好き」
 ピンク色の唇から零れた想いに、レイの動きが一瞬止まった。
 いつもならば、小さい子の「おとうさんだいすき」と同じようなものだろうと流しただろう。
 しかし、ぽに夫の野望により真っ暗になった公園で見つめられ、レイは惑った。
「……蒼様」
 いつものようにはぐらかさず、レイは真剣に見つめ返して言った。
「蒼様……あなたはまだお若い。まだまだあなたの知らない世界がたくさんあります」
「で、でも……」
 それでもワタシは……と言おうとする蒼の言葉を止め、レイは続きを言った。
「あなたがこれからたくさんの世界を知って、たくさんの経験をして、たくさんのものを見て、それでも……それでも、その想いが続いていたら……そのときにまた、言ってください」
「また?」
「ええ。たくさんの経験をして、それでも想いが変わらなければ……きっと……」
 そこでパッと公園の明かりが復活した。
 再びイルミネーションが輝くようになった公園を見て、レイはいつもと変わらぬ笑みを向けた。
「帰りましょうか」
 レイに手を引かれ、蒼はイルミンスールへと戻っていった。