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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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「最近の若い男の子たちは草食系……っていうのかしら。私が若い頃に比べて、自分から行くとか、そういうのはないみたいですね」
 御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)は溜息をつきながら、コーヒーを飲んだ。
 普段はタバコを愛する千代だが、家庭科室と言うことで遠慮して、もらったコーヒーで気分を落ち着かせることにしたのだ。
 ここに来る前に街に出ていた千代は
(はぁ、アベックばかり……私も10数年前はそうだったのかな、何で今こんなになっちゃったんだろ……)
 と溜息をつきつつ、バレンタインコンサートに行っていた。
 そして、流れる曲の一つ一つに若りし頃の想い出がクロスオーバーし……いたたまれなくなって、ホールの外に出てタバコをくゆらせながら、瞳に涙を浮かべて街に出たところを……ヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)に声をかけられたのだ。
「ま、分かるわよ、その気持ち。今の男って、意思が弱くて傷つきやすくて、自分に自信がないようなのが多いのよ。だから自分から動けないの」
 ヴェルチェは溜息をつきながら答えた。
「優しそうに見えて単に優柔不断だったり、真面目そうに見えて単に怖いから何も出来ないだけだったり、自分が安心させる頼られるじゃなくて、そばにいて安心できそうで、頼りになりそうな女の子が、明確に自分を好きって態度をしてくれるのをひたすら待つばかりなのよね」
「そうですね。一見騙されるけど、優しい男って、単に優柔不断で、自分に自信がないから頼られれば誰にでもすぐに靡いちゃって、自分のないようなのが多い気がします。真面目なのも変なところで真面目で、真摯さをあらわすのはそこじゃないでしょみたいなのだったり。頼られるのが好きって言っておいて、実際には頼られるほどの能力はなくて、依存されてないと心配なだけだったりですね」
 恋愛的な意味で百戦錬磨な千代はヴェルチェに滔々と語った。
 三十代後半の千代は、今までに沢山の恋愛を経験して来たらしく、いろんな男を見てきていた。が。
「やあね、こんなことを語ったり、男を評価したりするようになるなんて……年だわ」
 目ばっかり肥えて嫌になっちゃう、と千代は笑った。
 話を切り替えようと、千代はチョコを作るみんなの様子を見た。
「いまどきは女の子のほうが肝が座ってて、しっかりしてて、力強いですよね」
 街中にいたときもそうだったけど、友人を作るのでも、恋のキッカケを作るのでも、女の子の方がずっと積極的に動く。
「男は僕の可愛い花嫁とか僕の可愛い機晶姫とか、契約上離れることのないパートナーにうつつを抜かすのばかりね」
 ヴェルチェはバサッとそう切り捨てた。
「まぁまぁ、お2人とも」
 レイス・アデレイド(れいす・あでれいど)はコーヒーのおかわりを持って、2人の間に入った。
「空京の喫茶店が恋人募集イベントの広告を出しても、全然集まらない世の中だしね。男が動かないって気持ちも分かるよ」
「まぁ、でも、レイスちゃんみたいな子もいるし、捨てたもんでもないわよね♪」
 コーヒーを受け取りながら、ヴェルチェがちょっと機嫌を直す。
「そうね……ルイスさん、20歳でしたっけ? 今度どこかに遊びに行きません? 薔薇学の子たちを連れてきてくれてもいいし、そしたら私も教導団の女の子を連れて行きますから」
「ん? それもいいね。教導団のお正月にもお邪魔させてもらったことあるし」
 ルイスはそう答えながら、二人のそばに座る。
 すると、その3人のところに、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)アルフレッド・テイラー(あるふれっど・ていらー)がやってきた。
「バレンタインチョコだよ〜。良かった、コーヒーと一緒にどうぞ」
「俺もカラフルなバレンタインにふさわしいチョコを贈るよ!」
 ミルディアの可愛いハートのチョコと、アルフレッドのピンクのチョコを受け取り、ヴェルチェたちはお礼を言った。
「あら、ありがとう♪」
「ごちそうさまー」
「うれしいです。頂きますね」
 千代はチョコを受けとりながら、少し離れてポツンといるアーサー・カーディフ(あーさー・かーでぃふ)に気づき、声をかけた。
「どうしたの、君」
「いや、別に何もっ」
 皮肉屋でツンデレなアーサーは人に混ざるのが苦手なのだが、その様子を見て、千代は彼の首に、手編みのマフラーをかけてあげた。
「意地ばかり張っちゃだめですよ。そうしているうちに時間は過ぎてしまいますから……」
「…………」
 アーサーがどう返していいか悩んでいると、そこに神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)がやってきた。
「おやおや、たくさんお集まりのようで」
 翡翠は出来上がったアイスボックスクッキーをたくさん抱えていた。
「あ、クッキーじゃん。格子模様が綺麗にできてるね」
「チョコ&プレーンと抹茶&プレーンの2種類を作ってみたんですよ」
 甘いものが苦手な翡翠だが、料理を作るのは上手なため、美味しそうに出来上がっていた。
 翡翠はレイスたちにチョコをくれたミルディアたちにお礼にそのクッキーをあげ、しばらくみんなで歓談した。
「なるほど、そうでしたか。おつかれさまです」
 ふむふむと翡翠はみんなの話を聞き、最後に項提案した。
「チョコ作りがみんな終わったら、カラオケでも行って騒ぎますか?」
 バレンタインにすることじゃないかもしれませんが、と翡翠が付け加えたが、みんな乗った。
「そうね、カラオケでもしましょうか♪」
「OK。俺の美声を聞かせるよ!」
 なぜかすっかり混ざってるアルフレッドを見て、アーサーが慌てて止めた。
「おい、アル」
「いいですよ。人数が多いほうが楽しいですから」
 翡翠の言葉にアルフレッドは目を輝かせた。
「そうだよな。うちのミレーヌも呼んで来る!」
 アルフレッドが呼びに行く姿を見送りながら、ヴェルチェは翡翠に尋ねた。
「そう言えば翡翠ちゃんは参加しなかったけど、翡翠ちゃんの好みのタイプって何なの?」
 その問いかけに、翡翠は顔を真っ赤にした。
「ひ、秘密ですよ。カラオケ予約取ってきますね」
 ヴェルチェさんもお疲れ様です、と声をかけて、翡翠は慌てて電話をかけに行った。