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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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「二人好きになるとかねーよ……」
 七枷 陣(ななかせ・じん)は空京を一人でふらふらと歩きながら、自己嫌悪に陥っていた。
 リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)小尾田 真奈(おびた・まな)
 きっと出逢ったときからずっと、2人のことを同じくらいに好きだった。
「だから、ねーって……」
 もう一度、陣は自分につっこんだ。
 何処へ行くともなく歩く陣の目が露天商に向いた。
 見た目は普通のハートの機晶石ペンダントに見えた。
 しかし、それはちょっと変わった、恋人向けのものだった。
『一度だけ半分に割れ、別のペンダントの片割れと重なればくっつき二度と割れない』
 半透明で綺麗なシルバーとロイヤルブルーのペンダントを、陣は1つずつ購入した。
「リーズと真奈の髪に似合いそうやな」
 ペンダントを手に、陣はそんなことを呟いた。

 陣が出かけている頃、リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)小尾田 真奈(おびた・まな)は2人でチョコを作っていた。
「ハート型、ちょっと大きすぎたかなあ」
 リーズの言葉に真奈は首を振る。
「これくらいでちょうど良いかと思います。バレンタインですし」
「うん、そうだね!」
 元気に答え、リーズは真奈と一緒にチョコが溶けやすいように、材料のブロックチョコを刻み始めた。
 いつものようにリーズが元気に話して、真奈がそれに答えていく。
 だが、ふとリーズが真剣みを帯びた声で、真奈に尋ねた。
「ね、真奈さん。陣くんのこと、好きだよね?」
 その問いに真奈の動きが一瞬止まる。
 でも、それは一瞬で、真奈はまた普通に動き出した。
「ちょっと温度が上がりすぎなので、焦げちゃう前に下げましょうね」
 リーズの問いに答えず、真奈はそう言った。
「ボクもね、陣くんのこと好きだよ!」
 ハッキリとしたリーズの言葉に、真奈は先ほどよりさらにビクッとする。
「ボクも同じ気持ちだから、言ってくれるとうれしいな。他の人なら嫌だけど、真奈さんとなら陣くんのこと一緒に好きでも嫌じゃないよ」
「…………」
「ねえ、真奈さん。そうなんでしょ?」
「私は……子供を産めない人形だから……」
 家族以上の存在とクリスマスに言ってもらったことで、真奈は満足しようとしていた。
 しかし、リーズは真奈の言葉を強く否定した。
「それって、変」
「変……?」
「それじゃ、真奈さんは陣くんが実は子供の出来ない体だって分かったら、陣くんのこと嫌になっちゃうの?」
「え……」
 考えてもいなかったことを問われ、真奈は戸惑う。
「そんなことは……」
「ないなんて言えないよね。先輩たちが結婚の話してるとき言ってたもの。7組に1組は人間夫婦でも子供が出来ないんだって。男性に理由がある場合も半分以上で。仮に真奈さんは自分が子供が産めたとして、子供が作れない陣くんとは付き合えないって言うの?」
「そ、そんなことはありません!」
 ビックリして真奈は思わず否定する。
「うん、そんなの理由にならないよね。逆だったらそんなことしないもん。でしょ?」
 少しの沈黙が流れた後、2人はチョコ作りの作業に戻った。
 その間も、真奈の心の中ではいろいろな思いが動いていた。

「おかえりー! 陣くん、チョコだよー!」
 帰ってきた陣にリーズと真奈は作っておいたチョコを渡した。
 そして、それと同時に真奈とリーズがお小遣いを出し合って買っておいた半透明な蒼紫のハートの機晶石ペンダントをプレゼントした。
「あっ」
「え?」
 驚く陣に2人は不思議そうな顔をし、そして、陣は笑いながら、2人に自分の買ってきたペンダントを見せた。
 3色のペンダントを見て、3人で笑い合い、それぞれに用意されたペンダントを受け取った。
 陣からの贈り物であるペンダントを握り、真奈はつっと涙を流した。
「どうした、真奈」
 心配した陣とリーズが覗き込むと、真奈は思いを爆発させた。
「ごめん……なさい。ごめんなさい、ごめんなさい……」
 真奈はペンダントをぎゅっと握り、告白した。
「お慕い申しております……初めて出逢った時からずっと」
 その言葉を聞き、陣が目を見開き、リーズが笑顔を見せた。
 リーズは涙を流す真奈の肩を抱くようにして後ろに立ち、陣にも笑顔を向けた。
「ボクも陣くんのこと好きだよ。気付いたのはクリスマスからだけど、きっと最初から好きだった」
 2人に告白され、陣は硬直した。
 だが、率直な思いを受け、陣も覚悟を決めて口を開いた。
「オレも2人のこと女の子として、好きや。でも、2人を好きになってしまったなんて、自分でもねーよって思ってる。こんなんじゃいつか2人を傷つけるだろうから、だから………………ごめん」
 長い時間をかけて何を言えばいいか迷い、陣は謝った。
 その言葉を聞き、リーズは頬を膨らませた。
「そんなの関係ないよ。ボク達が好きなら、それでいいじゃん!」
 リーズの言葉に、涙を拭いた真奈も同意する。
「はい、関係なんてないと思います……」
 2人にジッと見つめられ、陣は考え込んだ。
 揺らぎのない瞳が自分を見つめる。
「…………」
 そんなリーズと真奈を、陣はぎゅっと抱いた。
「ありがとう、こんな最低なオレを想ってくれて……」
 感謝を込めて、陣は二人を抱きしめた。
 寿命的に考えても、きっと自分が先に逝くんだろうけど、それまでは……。
「死がオレ達を分かつまではずっと一緒に、共に在りたい」
 陣はリーズと真奈のそれぞれに、誓うように口づけをした。
 そして、陣はペンダントを割って二人に差し出し、リーズも真奈も半分に割って、陣と交換をした。
 金色の鎖と、それぞれに合った色の石が3人を祝福するように光り輝いたのだった。