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リアクション
「バレンタインデーってぇ、チョコいっぱい売ってるじゃないですかぁ。一緒に買いに行きましょうよー」
雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)に誘われ、『白百合団』団長桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)は一緒にヴァイシャリーの繁華街に出た。
バレンタインデーは 書き入れ時とあって、チョコ以外にもたくさんのものが並んでいた。
特に女の子狙いの雑貨店が活気に満ちていて、普段は無いような商品も出ていたり、バーゲンがやっていたりで華やかだった。
「マグカップ買えましたぁ」
レジからリナリエッタが戻ってくると、鈴子は小さな笑みを見せた。
「他に行きたいところはあるかしら?」
「はい、それじゃ次はチョコレートのお店に行きましょうー」
リナリエッタは遠慮なく答え、ショコラティエがいる店に向かった。
歩きながら、リナリエッタは鈴子を気遣った。
「最近は色々と忙しいですけれど、でも、学生なんですもの。バレンタインデーくらい楽しみましょう♪」
「ありがとう」
鈴子はお礼を言い、リナリエッタについていった。
リナリエッタ本命のショコラティエがいるお店に入ったとき、リナリエッタは目を見張った。
「ずいぶんと男の子達がいっぱい……」
それは小林 翔太(こばやし・しょうた)たち【チョコ食い倒れ鼻血ツアー】の一行だった。
彼らは珍しいチョコレートが並ぶこのバレンタインに、あらゆるチョコをすべて制覇しようと、朝から意気込んでチョコを買って回っていたのだ。
「薔薇学の子たちね、ちょっと逆ナンパしてきますわ」
ミニスカートをひらっとさせ、ウインクするリナリエッタを見て、鈴子は小さく苦笑した。
「あまりやりすぎないようにしてくださいね」
「あら、団長様ぁ、女子には女子だけしか立てない戦場がございましてよ……ふふ。女の生き様、団長、見ててね!」
「……本当にやり過ぎないように、してくださいね?」
若干、不安になりながら、鈴子がリナリエッタの様子を見守る。
翔太のほかにも、同じ薔薇学のスレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)と蒼学の轟 雷蔵(とどろき・らいぞう)もいた。
リナリエッタは彼らをまとめて誘うことにした。
「楽しそうですわね、何してるの?」
「食い倒れだよ〜♪」
翔太がニコニコと答え、雷蔵がたくさん抱えたチョコレートをリナリエッタに見せた。
「チョコレートを片っ端から買ってるんだ。すごい量だろう?」
雷蔵だけでなく、パートナーのツィーザ・ファストラーダ(つぃーざ・ふぁすとらーだ)もたくさんのチョコを抱えていた。
「すごいわね、これ。機工士が使う工具みたいな形してるじゃない。こっちは豚さんの形で……あ、これ、可愛い絵が載ってる」
「おもしろいでしょう〜♪ この時期は普段ないようなデザインのチョコがあって面白いよね!」
「味も変わったものがあるみたいだしな。食べるのが楽しみだ」
「食べるってみんなでこれから食べますの?」
「うん、公園でこれから食べる予定なんだ。良かったら一緒に来る?」
スレヴィの言葉に、リナリエッタは顔を輝かせた。
「団長〜、逆に誘ってもらっちゃった♪ 行きましょう〜」
「団長?」
全員首を傾げたが、そこに鈴子団長がやってきて、全員に優雅に挨拶した。
「おう、百合園団の団長さんかい。これはこれは……」
鈴子の優雅な挨拶に全員挨拶を返して、一緒に公園へと向かった。
「蒼学の山葉がチョコを欲しがってるって噂を聞いたけど、これだけあると、あげに行きたくなるね」
スレヴィの言葉に雷蔵たちも同意しながら、チョコレートを開けた。
「すごい〜! これ、ホワイトチョコの苺大福じゃない」
「こちらは串カツとコロッケの形をしたチョコだよ」
ツィーザに見せられたチョコに感激し、リナリエッタが鈴子にチョコを見せる。
リナリエッタに逆ナンパと言われたときに、お出かけをするならば美術館で名画鑑賞とかがいいかな……と思っていた鈴子だが「一般の学生の楽しみを知ることも重要ですよ」とリナリエッタに言われ、加わっていた。
それに、逆ナンパなどより、鈴子からするとこうやってみんあでわいわいのほうがずっといい。
リナリエッタとしてはせっかく化粧濃い目で来たのに、色気がない展開なのが残念だったが、せっかく他校生とお知り会いになったので楽しむことにした。
「いい日だねえ、バレンタインって」
翔太は買ったチョコだけでなく、清泉 北都(いずみ・ほくと)にもらったブロックチョコも口に放り込みながら、ニコニコとする。
食いしん坊といえば翔太とみんながすぐに思いつくくらいの素晴らしい胃袋をした翔太は、食べてもまったく体に変化がなく、うれしそうにずっと食べ続けた。
「食べ物ってみんなで食べたら楽しいし、美味しいものを食べたら暗い気持ちも飛んじゃうから、蒼学のメガネ君も、幸せになってるといいね」
その頃、翔太は自分が対山葉対策に頭を練っていた教導団の林田 樹(はやしだ・いつき)に「ああ、めんどくさい……もうあの眼鏡をふんじばって薔薇学の食いしん坊にでも届けてやりたい」と山葉すら食べられるのではないかと思われていたのだが……。
そんなことととは知らず、ツィーザが心配するくらいにたくさんチョコを頬張っていた。
しばらくすると、みんなに紅茶を入れていたスレヴィが立ち上がった。
「ちょっと失礼」
「あ、待て、スレヴィ、鼻血……」
雷蔵に指摘され、スレヴィはちょっと感動した。
「本当に出たっ!」
大発見気分で喜びつつ、制服の袖で反射的に拭きかけたが、そのスレヴィにリナリエッタがティッシュを差し出してくれた。
「どうぞ」
「ごめん、ありがとう」
一瞬、ハンカチを差し出しかけたリナリエッタだったが、それだと遠慮するだろうと思い、ティッシュにしたのだ。
「では、改めて、ちょっと失礼するね」
スレヴィはそう言うとみんなを離れ、しばらくして、椅子に拘束されたアレフティナ・ストルイピン(あれふてぃな・すとるいぴん)を持ってきた。
バンダナではなく、片方の耳に赤いリボンをつけたアレフティナを、ニコニコとスレヴィは差し出した。
「騙された〜っ。お財布も罠だったんですね!?」
アレフティナが何かを言っているが、スレヴィは丁重に無視する。
「小林にゆる族の味をプレゼントしよう。召し上がれ」
「……ゆる族って食べられるのかな?」
派手な赤いリボンで椅子にぐるぐる巻きにされているアレフティナをじっと翔太が見つめる。
「や、やめましょう、翔太さん。まだこれからさらにチョコを買いに行かないといけませんし。とこけるまで堪能しましょう、チョコを!」
「さ、ジャムもホイップクリームも蜂蜜もあるから。かじるなり、舐めるなりどうぞ」
アレフティナの悲鳴を黙らせるように、スレヴィがニコニコと様々なトッピングを用意する。
「生で食べられる……?」
「あ、気になるなら焼こうか?」
スレヴィが火術を用意する。
後でご機嫌とり用の、アレフティナ専用超高級チョコも用意してるだろうから平気だろうと思いながら、スレヴィは火を向ける。
「ヒエー〜!」
その後、アレフティナがどうなったのかは謎である。
公園でのチョコ三昧が終わると、雷蔵はツィーザに可愛らしい感じのチョコをプレゼントした。
「いつも世話かけてるな。兄貴としちゃ頼りないところもある俺だけど、これからもよろしくな。頼りにしてるぜ、兄弟!」
もう食べられないかもしれないから、後でゆっくり食べろよ、と心配しながら雷蔵がチョコを渡す。
ツィーザも翔太の次によく食べた雷蔵を心配しながらチョコレートを渡した。
「私もチョコを……。でも、今日はいいけど、普段はチョコレートの食べすぎはダメだよ」
弟してしっかりと釘を刺す。
「あははは、大丈夫だ」
そう笑った雷蔵だったが、その笑いと共に鼻血が出てきた。
「うわ!」
ツィーザが慌ててティッシュを探す。
こうして【チョコ食い倒れ鼻血ツアー】は終了したのだった。
一方その頃、佐々木 小次郎(ささき・こじろう)は翔太のためにチョコレートケーキを作っていた。
「クリスマスのお礼をしませんとね」
あの時、翔太の優しさに触れ、小次郎はあたたかな気持ちになった。
その思いを込めて、小次郎は丁寧にケーキを作る。
それと同時に、小次郎はちょっと照れていた。
「改めてプレゼントなんていうと……恥ずかしいですね。さて、どう渡しましょう」
すると、その小次郎の耳に甲高い声が聞こえてきた。
「鬼は〜〜外! 小次郎も外ッ!!」
いきなりカッツェ・オージェ(かっつぇ・おーじぇ)に麦チョコを投げつけられ、小次郎は驚いた。
「な、なんですか!?」
「言ったとおりよ!」
節分用の升に入れた麦チョコを、カッツェはさらにまた投げつける。
普通にチョコを渡してしまうと、勘違いされてしまうと思い、カッツェはこんな手段に出たのだ。
カッツェからすれば、うっかりと小次郎にチョコを渡して、翔太に勘違いしてしまったらたまらない。
投げつけるだけで投げつけると、カッツェは矛を収めた。
「か、勘違いしないでよね小次郎。今日はこの辺で勘弁してあげるけど、絶〜ッ対☆いつか暗殺するんだからッ!!」
叫んだカッツェの声に重なるように、オーブンがチーンと音を立てる。
「……何あれ」
「翔太さんにチョコケーキを焼いていたんですよ」
綺麗に焼けた小次郎のチョコスポンジを見て、カッツェはしょんぼりとする。
小次郎のスポンジはとても綺麗にできていて、これにチョコレートを塗ったら、とても綺麗にできるであろう事は、メイドになったカッツェにも分かった。
分かったけれど、同時に悔しかった。
カッツェも翔太のためにチョコを作ってみたのだけれど、形が崩れてしまい、美味しくなさそうになってしまったので、翔太のためにミス・スウェンソンのドーナツ屋……通称ミスドのドーナツ券を用意するというオチになってしまったからだ。
「いいにおいだね〜、イーグルちゃんにもちょうだいー」
「……イーグル? アンタいたの? …………きゃあっ!」
イーグル・ホワイト(いーぐる・ほわいと)の声を聞いて後ろを向いたカッツェは思わず悲鳴を上げた。
イーグルと共にイーグルをかたどった【イーグルちゃん等身大チョコ】があったからだ。
大きなリボンを巻いたそれに視線が注がれ、イーグルはうれしそうに言った。
「可愛いでしょう〜。イーグルちゃんチョコレート。はちみつとかも用意してあるから、たーっぷりイーグルちゃんの上にかけて、翔太ちゃんにペロペロしてもらうの♪」
とても楽しげにイーグルは体をくねらせた。
「バレンタインには性癖バレたい〜ん!なんちゃってー、うふっ」
うふっとイーグルが言った途端、カッツェがハンドガンを発射した。
そのまま何回も撃ち、イーグルちゃんチョコを壊して、ハウスキーパーで綺麗に掃除してしまう。
「ああっ!?」
「良かった、翔太が帰る前に醜いものが掃除できて」
イーグルの叫びを無視し、カッツェは何かをやり遂げたような顔をしたのだった。