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精霊と人間の歩む道~凍結せし氷雪の洞穴~ 後編

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精霊と人間の歩む道~凍結せし氷雪の洞穴~ 後編

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ファイア・イクスプロージョン! ……はぁ〜、リンネちゃんもう疲れちゃったよ〜」
 リンネがへろへろ、と地面に倒れこみかけ、氷の冷たさにひゃあ、と飛び上がる。でもやっぱり疲れているのでへろへろ、と地面にしゃがみ込む。
「リンネおねえちゃん、つかれちゃったですか? がんばってくださいです」
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)の腕がリンネの首に回され、唇が頬に触れる。
「……うんっ! リンネちゃんもうちょっと頑張れるかも! ありがと、ヴァーナーちゃん!」
 今度はすっ、と立ち上がったリンネが、ヴァーナーに礼を言って戦力の不足している場所へ向かっていく。

「カヤノおねえちゃん、がんばってくださいです!」
 ヴァーナーの生み出した加護の力がカヤノを包み込む。
「へえ、あたしにも効果あるのね。ありがと。……あんたも忙しいわね、向こう行ったと思ったら今度はこっちに来て」
 リンネのいた場所はエリアの後方、そして今カヤノがいるのはエリアの前方。エリアのあちこちで戦闘が激化し、なかなかその場を動けない生徒たちにとって、支援を得意としながらかつ前衛に単独で向かえるヴァーナーは、そこら中から引っ張りだこ状態であった。
「えへへ〜、みんなにがんばってほしいから、ボクもがんばっちゃうんです」
 ヴァーナーの無邪気な笑みに、そこまで言われちゃあね、とカヤノが呟く。
「それじゃ、あたしも負けてられないわね。レラをアイツから助け出したら、看護をお願いするわよ」
「はいです! まかせてくださいです!」
 笑顔で答えるヴァーナーに頷いて、カヤノが羽を広げて飛んでいく。
「みんな、がんばってくださいです!」
 そのひたむきなまでの支援に、数多くの生徒が危機を救われ、再び戦う力を取り戻していった。

(メイルーンを守る氷柱は、こことここ……なら、この位置から攻撃すれば……)
 影野 陽太(かげの・ようた)がHCを操作し、エリア全体の地図からメイルーンへ最も効率良く接触可能な進撃路を割り出し、必要な戦力を計算する。狙いの氷柱を破壊、もしくは無力化するためには、既にやる気満々なエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)と、同じ氷結属性の精霊が関わっていることから珍しく真剣なノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)を合わせても、後一人ほど足りない試算が出た。
(協力を願えそうな人は……あ、あの人、僕と同じクイーン・ヴァンガードだ。あの人なら……)
 自分が付けているのと同じエンブレムを身に付けているガイアス・ミスファーン(がいあす・みすふぁーん)に、陽太が協力を願う。
「よかろう。同じクイーン・ヴァンガードとして力を貸そう」
 快諾するガイアスを引き連れ、陽太は検討したポイントへと向かう。既に先行して待機していたエリシアとノーンは、今すぐにでも飛び出していきそうだった。
「遅いですわよ。置いていくところでしたわ」
 睨みつけるエリシアへ苦笑を浮かべて、陽太が作戦の概要を説明する。陽太が最も後方で指揮、その前をガイアスが炎で援護、エリシアとノーンはギリギリまで氷柱に近付き、矛先が向けられる前に火力を集中、無力化するというものであった。地道ではあるが確実で、火力さえ保てれば必ずメイルーンへ辿り着ける作戦といえよう。
「ノーン、無理はしないでくださいね」
「だいじょうぶ! レライアおねーちゃん、わたし、がんばるからね……!」
「ノーンはわたくしが必ずメイルーンまでお連れしますわ。だからといって援護の手を抜くような真似はしないでくださいませね」
「分かってますよ、ノーンが大事なのは、僕も同じですから」
 前方で、氷柱が氷柱を生み出し、向かってきた生徒たちへ飛ばす。攻撃の準備を整える間もなく、生徒たちは氷柱の直撃を受け後退を余儀なくされる。その点陽太の選んだ経路は、身を隠しながら攻撃出来るだけの遮蔽物に富んでいた。
「……行きましょう!」
 陽太の指示で、それぞれが目的を果たすべく遮蔽物から飛び出していく。
(ジーナは……今は七尾氏に任せておくよりなかろう。我は我で為すべきことを為そう。……ふふ、竜を超えた存在、か。長く生きていて、これほど心踊る瞬間は、そうそうないことであろうな)
 ガイアスの掲げた杖を介して、炎が生み出されていく。火術の速射性を生かした連続投射で、氷柱が大きく揺さぶられる。攻撃を受けていることに気付いた氷柱が矛先を変えようとするが、巨体であることも手伝ってそう上手くは行かない。他からも攻撃を受けているとあればなおさらのことである。
「二人をやらせはしませんよ……!」
 エリシアとノーンへの迎撃が厳しくなるのを少しでも防ぐため、陽太の銃撃が危険度の高い氷柱から順に撃ち抜いていく。ノーンを介して伝わる精霊の知識が、優先順位を教えてくれるように、それに従って陽太が銃口を向ける。
「おねーちゃん、あそこ! あそこを狙えば、早くたおせそう!」
「分かりましたわ。この炎で、バーベキューにしてさしあげますわ!」
 ノーンの示すポイントへ、エリシアの機関銃の如き火術が炸裂する。小刻みに揺らされる氷柱の、集中的に炎弾を受けた箇所にやがてヒビが入り、それは徐々に大きくなっていく。
「いっけーー!!」
 ノーンの放った大きめの炎弾が、そのヒビの入った箇所に直撃する。大きく揺さぶられる氷柱、しかし持ちこたえた……のも束の間、ついに反対側までヒビが辿り着き、その瞬間地響きのような音を立てて氷柱が崩れ、地面に転がった。

「こっちは氷龍との戦闘に移行した。そっちも色々起きてるとは思うが、適当にやってくれ」
 別の氷柱が爆撃のような氷柱の攻撃を行っている中、閃崎 静麻(せんざき・しずま)は今頃イナテミスで防衛に従事しているはずの『相棒』に連絡を取る。非常に簡素な戦況報告に過ぎないが、彼らにはそれで十分なのである。
「さて……こっちもやることやるか。ったく、どいつもこいつも自分より他人を心配しやがって。バックアップに回る俺の身にもなれってんだ」
 愚痴をこぼしつつ、遮蔽物に潜みながら静麻は自らのこれも相棒であろう『ケイオスレイヤー』をSモードで出現させ、特火点と化した氷柱を射程に収められるギリギリの位置まで進み、狙いをつけて引き金を引く。放たれた弾丸は途中で散弾のように無数の小弾をばら撒き、氷柱を穿ち欠片を舞わせる。二発目を撃とうかと狙いをつけたその時、メイルーンの『口』らしきそれが開かれ、白色の光が生まれるのが見えた。
「やっべ!」
 慌てて銃を引っ込め、後方の遮蔽物へ退避する。静麻が飛び込むのと、まるでレーザー光のような冷気が到達するのは、僅かに静麻が早かった。
「ふぅ〜、ありゃあ厄介だな。俺はよくても他のヤツらが苦労しそうだ」
 冷気が通り過ぎ、壁の端で途切れるのを見送って、静麻が一息ついて呟く。
「あのね、ボク思いついちゃった! クリュティ、協力してくれる?」
「お願いします、魅音。この身盾となり、必ずや守り抜きましょう」
 閃崎 魅音(せんざき・みおん)の氷術が、クリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)に氷の鎧と氷の盾を生み出す。氷の比重と、一般的な防具に使用されている鉄の比重、さらにクリュティ自身の出力を鑑みれば、数十倍の厚みを持った氷の鎧と盾を装備しても、問題なく飛べるはずであった。
「じゃ、あたしはこのエリアの属性を炎熱に傾けてみるわ。短期決戦なら派手に燃やしてやればいいんだろうけど、そうもいかなそうだしね」
 神曲 プルガトーリオ(しんきょく・ぷるがとーりお)が、得意の炎熱魔法を形を変えて顕現させ、エリアの局所に炎熱属性を強め、氷結属性を弱めるフィールドを構築する。流石にエリア全体を包むのは彼女一人では一瞬も持たず、それにメイルーンと同じ氷結属性の精霊の力を弱めることにも繋がるので、スポット設置に留めておいた。それでも、複数あるポイントにそのような魔法を構築し続けるのは相当な負担であるし、それが与える恩恵は長期的に見れば見るほど大きくなることは確かであった。
「クリュティ、頑張ってね! ボクも頑張るから!」
 傍目には氷の塊にしか見えないクリュティが、メイルーンへ向けて飛び立つ。氷柱からの氷塊攻撃も、彼女を砕くには至らない。メイルーンが扇状に吐き出す冷気放射も、クリュティがいた場所だけ線が弾かれ、天井に突き刺さり大きな氷柱を作り上げる。それほど大きい範囲ではないものの、クリュティの背後は生徒たちにとっては『安全地帯』となっていた。
 この身は盾。
 絶望を払う剣の為にわが身あり。
 希望を灯す命の為にわが盾あり。
 その思いを胸に、クリュティの決死の献身が続けられる――。