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リアクション
●彼物に蔓延る悪しき意思よ、永久に滅せよ!
「……レライアさん?」
問いかけた吹笛の声に、僅かな輝きをたたえる目の奥から、声が響く。
『……はい。皆さんのおかげで、まだわたしはこうして皆さんとお話が出来ます。わたしまで溶けちゃいそうでした』
レライアには珍しく軽口が漏れた後、レライアが声色を落として声を響かせる。
『わたしがメイルーンの中に取り込まれたのも、メイルーンを倒してしまうことが一番、被害が少ないと思ってのことでした。その場合わたしは、カヤノの持つリングの力無しには存在出来ないことになるのですが……。でも、吹笛さんの言ったことは、わたしにとっては予想外でした。それに、わたしもこうなることで初めて知ったのですが、メイルーン自身もただ闇雲に暴れたくてそうしているわけではないみたいなんです。メイルーンが『氷龍メイルーン』となった経緯まではわたしも分かりませんが、メイルーン自身では抗えない運命というものがあるのだとしたら、メイルーンばかりをを責めるわけにもいきませんね』
一旦言葉を切って、そしてレライアが再び声を響かせる。
『皆さん、思うところはたくさんあると思います。ですが、皆さんの意思として、やらなければならないことは一つに決められなければなりません。その結果が常に最善であるとは言えないのですが、皆さんならきっと、どんな結果であっても受け入れられるとわたしは信じて、わたしは皆さんに問いかけます。……メイルーンを助けますか? それとも、倒しますか?』
レライアの問いに、まず答えるべき人物、吹笛の回答は。
「メイルーンさんが宿命を変えたいと願い、その願いが本物だと信じたいというのなら、私は、メイルーンさんを全力で支援しましょう」
一人の答えは決まった。次は、レライアに最も近しい者、カヤノの言葉。
「あたしは……レラと、お節介なあんたらの決定に従う。別に判断出来ないとかそういうんじゃないわ。ただなんとなくね、答えはもう出てるんじゃないかって思うから。あたしをイルミンスールに置いたあんたらが、今更こいつを消すなんてこと、言わないわよね」
二人目の答えも決まった。残るはここに集まった生徒たちの言葉。
「レライア、私がレライアの問いに答えるわ。
……氷龍メイルーンは倒す!
そして、レライアも、メイルーンも助ける!
……ヒーローとしては理想的な回答かしら?」
十六夜 泡(いざよい・うたかた)の言葉に、氷龍メイルーンを倒すために集まった者たちが一様に頷く。
「というわけだから、さっさと進めちゃいなさい、レラ!」
カヤノの言葉に、レライアの笑ったような声が響く。
『分かりました。……では、今からメイルーンの『力』を解放します。吹笛さん、危険ですから下がってください。……生まれた『力』を倒すことが出来れば、メイルーンはもう危険なものとして振る舞うことはなくなるはずです。……皆さんの力を、メイルーンに見せてあげてください』
吹笛とエウリーズを遠ざけさせたレライアの声が途切れ、それまで弱々しい光を放っていた目が、強い光を放つ。その光の中で、メイルーンを構成していた氷柱が意思を持ったかのように組み上がり、そして光が晴れた時には、垂直に伸びる太い氷柱の間を細い氷柱が幾重にも渡り、それぞれの太い氷柱に浮かんだ一対の『目』を強く光らせ、新たに出来た『口』から咆哮をあげる、氷龍メイルーンの最終形態とも言うべき『力』が生徒たちの前に姿を現した――。
「ココが正念場、ですわね。沙幸さん、気合を入れていきますわよ」
「うん! ハッピーエンドで終わらせるためにも、まずはこれを倒さなくっちゃ」
久世 沙幸(くぜ・さゆき)と藍玉 美海(あいだま・みうみ)が見上げる『力』は、メイルーンがしてきたのと同様に、横に伸びる氷柱から氷塊を生み出し生徒たちへぶつけ、垂直に伸びる氷柱からは濃縮された冷気の筋を吐いてきた。全ての攻撃が視認出来るようになったものの、その投射量はメイルーンを相手にした時よりも上回っているように感じられた。
「近付くのも一苦労だね。身を隠せる場所はたくさんあるみたいだから……ねーさま、もしもの時はお願いね!」
そう言い残して、沙幸が忍の如く気配を消して、身を隠せる場所を利用しながら『力』に近付いていく。氷柱も無造作に投射されているのではなく、人の気配の多いところを狙って飛ばされているようで、沙幸を直接狙う氷柱は少ないものの、それでも流れ弾のようにいくつかの氷柱は、飛び出した沙幸を狙うかのように飛んでくる。
「わたくしの沙幸さんに易々と手を出せると思わないことですわ!」
美海の飛ばした炎弾が、氷柱を打ち砕く。「溶かすことまでは難しい」とは本人談だったが、直撃さえすれば氷柱くらいは破壊出来ていた。
そして、美海の援護もあって、沙幸は垂直に伸びる柱の下まで辿り着く、が、ここからが問題だった。
(うーん……ここからどう行けばいいんだろう……)
メイルーンの時よりは低いとはいえ、それでも『目』のところまでは相応の高さはあった。箒を使って飛んでもよかったが、それでは標的にされかねないし、ここまで忍らしく来たのなら、最後までそれを通しておくべきのようにも思う。
幸い、垂直に伸びる柱には表面に無数の凹凸がついていた。これを伝って登れば、『目』のところまで到達することが出来そうだ。
「ここであの『力』に打ち勝てば、終わらせることが出来るのですね。レライアさんを助け出し、街に平和を取り戻す為、貴方には倒れてもらいます!」
ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)から加護の力を受け取ったナナ・ノルデン(なな・のるでん)が、垂直に伸びる氷柱の一つ目がけて飛び出していく。迎撃に飛んでくる氷柱はズィーベンの呼びかけと、地面、壁、天井を問わない移動範囲を駆使して回避していく。
「うわぁ、ナナを追ってるボクの方が目を回しそうだよぉ。天井から来なくなったと思ったら、ナナが天井に行っちゃうんだもんなぁ」
壁から氷柱へ、氷柱を駆けたかと思えば天井を蹴ってまで移動をこなすナナは、おそらく放っておいても回避出来るだろう。ズィーベンは他の生徒たちへの注意喚起を行うことにしつつ、ふと、他の場所でもこのようなのが発生していたりするのだろうか、と考える。
(炎龍に光龍、闇龍……はいるね。熱いのはヤダなぁ、ボク猫舌だもんなぁ)
まずは目の前のに集中集中、と意識を切り替え、飛んできた氷柱にズィーベンが炎弾をぶつけて相殺する。一方ナナは、ズィーベンの予想通り飛んでくる氷柱を避け切り、氷の地面をものともせずとん、と足を着け、一気に垂直に伸びる氷柱の根元へ飛び込む。そこからは攻撃の殆どは飛んでこず、冷気放射も発射口を踏むような真似をしなければ直撃を受けない。身のこなしを得意とするナナにとって、この時点で雌雄は決していた。
「一撃で……決めます!」
両手に燃え上がらせた炎を一つに纏め、ナナが氷柱を駆け上がる。途中で、柱をよじ登っていた沙幸を追い抜き、最後の抵抗にと放った冷気放射を避け、ナナが『力』の『目』の前に躍り出る。
(火力が足りなければ……その時は、リンネさんや皆さんが援護してくださいますね)
しかし実際は、『力』の『目』はメイルーンの時同様、そこまで装甲厚いわけも、耐久性に優れていたわけでもない。ナナの振り抜いた拳から放たれた炎が『目』を貫き、炎は貫通して反対側まで抜け、そして『目』に湛えられていた光が弱まり、消えていった。
(……私も忍なんだから、壁くらい走れるようになった方がいいよね? でも、それだとスカートの中が見えちゃうよね?)
先を越された形になった沙幸だが、ようやく『目』の部分まで辿り着くことに成功する。
「この一撃で……っ!」
両手で刀を握り、炎を噴き上げる刀を『目』の中心へ突き刺す。生じた爆風が氷柱を突き抜け、『目』の光が消え、活動を停止していく。
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