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リアクション
そのころ、薔薇の学舎では。
メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)と、
パートナーのセシリア・ライト(せしりあ・らいと)、
フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が、
黄薔薇の入ったバスケットを手に、学舎の入り口に立っていた。
百合園生であるため、薔薇の学舎に入ることは禁止されている。
しかし、タシガンの人との友好を築くために行動したいと、
メイベルは中村 雪之丞(なかむら・ゆきのじょう)に申し出たのだった。
教導団員のグロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)と、
レイラ・リンジー(れいら・りんじー)、
アンジェリカ・スターク(あんじぇりか・すたーく)も、
女人禁制の学舎に入ることなく、イエニチェリの指示に従って、
警備を行うつもりであった。
「黄薔薇の花言葉は「友情」。
メッセージカードには「パラミタと地球の永久(とこしえ)の友情を願って」と書いてありますぅ。
この願いが叶うことを祈ります。
五千年の時を超えて再会した兄弟ともいえる二つの世界の民が
手を取り合って生きていける世界が続きますように。
今は諍いの中にあっても、いずれは手を取り合って生きていけると信じて。
黄薔薇をタシガンの皆さんに配ることで、
少しでも関係が良好になることを願ってますぅ」
メイベルの差し出した黄薔薇は、怪我をしないよう、ひとつひとつ棘を取り除いてある。
「私たち軍人及びその志願者たる学生は無辜の民に向ける武器を持っていません。
ただ大過なく無事にアーダヴェルト卿が帰ってきてくることを祈るのみです」
グロリアは、薔薇の学舎に地球人排斥派が押し寄せてしまっても、
できるだけ穏便にすませたいと考えていたのだった。
「アンタ達の気持ちはわかったわ。
他校生なのに、薔薇の学舎とタシガンの関係について考えてくれてありがとうね。
だけど、いくら薔薇学が女人禁制だからって、
契約者が学舎の前をウロウロしてると
かえってタシガンの人達を刺激しかねないでしょ。
アタシの権限で今日は学舎への出入りを許可するわ。
タシガンの人たちと友好に接するために
アーダルヴェルト救出を待つ飛空挺のエアポートで
お茶会をしましょうっていう提案があったから、
そこを手伝ってくれないかしら」
雪之丞はそう言い、メイベルとグロリア達を学舎の敷地に招き入れた。
「……」
「よかったわね」
人見知りなレイラが何とか勇気を振り絞り頑張る様を影ながら応援しつつ、
一緒に警備をがんばろうと思っていたアンジェリカは少し安心する。
「さあ、行きましょう」
グロリアにも優しく言われて、
無口なレイラは、いつもどおり、
声を出すことはなく、首を縦に動かしてみせた。
スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)は、学舎でお茶会を開催し、
タシガンの民をなだめたいと、
ラドゥ・イシュトヴァーン(らどぅ・いしゅとう゛ぁーん)に、
タシガンコーヒーの淹れ方を教わろうとしていた。
「コーヒーにあう菓子もあったら教えてもらえないでしょうか」
「ふん、学舎に通う者でありながら、
こんな基本的なことをわざわざこの私に聞きに来るとはな。
まあいいだろう。
タシガンの貴族の作法というものを、私がじきじきに教えてやろう」
そう言いつつ、ラドゥは丁寧に、スレヴィにタシガンコーヒーの淹れ方を伝授したのだった。
「これがタシガンの伝統的な茶菓子の作り方か……。
助かりました。ありがとうございます」
本を借り、スレヴィは言う。
「それと、エアポートで茶会をやりたいと申し出た者もいる。
どうせなら貴様もそちらに行くがよい」
ラドゥに言われ、スレヴィもそちらに行くことにした。
アレフティナ・ストルイピン(あれふてぃな・すとるいぴん)は、
スレヴィの手伝いとして、光学迷彩で姿を消し、
お茶会を見守るつもりである。
(学校で警備した場合、
何も起こらずに、警戒して損した、で終わるのが望みでしたけれど、
無事、アーダルヴェルト卿が帰還し、
何もかもうまくいくとよいのですが)
アレフティナは思う。
ミゲル・アルバレス(みげる・あるばれす)や、
藍澤 黎(あいざわ・れい)の提案により、
アーダルヴェルト卿の帰還を待つお茶会が開催されることとなった。
エアポート前には、アーダルヴェルト卿の家臣が待機しており、
タシガンの人々も遠巻きにそれを眺めている。
ジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)がエアポートに現れたのを見て、
人々はざわめく。
「ようこそ!
一緒にチュロス食べへんか?」
「ちゅろすくうかー! なのですよー」
ミゲルとあい じゃわ(あい・じゃわ)は、
アーダルヴェルトを心配しているタシガンの人々に声をかける。
「チョコたっぷりつけて食べてみ。
ほっこり甘くて美味いやろ。
これオレの故郷のスペインのおやつやねんで」
ジョヴァンニ・デッレ・バンデネーレ(じょばんに・でっればんでねーれ)と一緒に女の子に声をかけて、
ミゲルはチュロスを勧める。
「ねえところでキミタシガンの子?
やっぱりそうだ。
タシガンの子は皆陶磁器のような真っ白い肌をしている。
きっとこの霧が守ってくれてるんだろうな」
ジョヴァンニは、今日は鎧は身につけておらず、
ごく普通のイタリア男のようにナンパをして回る。
「そや、タシガンにはあらへんのかな、これぞお袋の味! な食べ物。
他にも色々ききたいなタシガンのこと。
ドミニクにきいても教えてくれへんのやもん。
『昔のことは忘れた』言うて。
そうそうドミニクなあタシガンの出身なんやて。
ずっと昔に飛び出したっきりらしいけどなー」
ドミニク・ルゴシ(どみにく・るごし)は、
趣味のレース編みで作ったテーブルクロスでお茶会の準備をしたのだが、
ミゲルに話を振られて言う。
「確かに此処タシガンの出身だが出たのは千年以上も前。
知った顔もとうにあるまい」
しかし、タシガンは長命な種族である吸血鬼の都市であり、
ちらほらと顔見知りの姿もあった。
ドミニクは、少しうれしそうな様子を見せる。
「スレヴィ殿、このお菓子、
タシガンのお料理なのですかー?」
「うん、木の実のパイだよ」
スレヴィは、ラドゥに教わったお茶菓子を、
じゃわとエディラント・アッシュワース(えでぃらんと・あっしゅわーす)に配ってもらう。
「日本には野点って言う野外でお茶会を開く事もあるみたいだし、
たまには屋外でちょっと熱めのお茶を飲むのも良いんじゃないかな!」
エディラントは人懐っこい笑顔で、給仕を行う。
フィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)は、お茶会の様子を見ながら思う。
(だいぶ和やかな雰囲気になってきたな。
気合い入れて準備したかいあったで)
フィルラントは、真っ白なテーブルクロスに黎の育てた薔薇の花と、
会場設営に奔走したのだった。
黎は、特技であるヴァイオリンを演奏し、雰囲気を和ませる。
(卿を無事に帰還させ、薔薇学を代表する者と
タシガンを代表する者が友好を結ぶ姿が示せればよいが)
黎がお茶会にこの場所を選んだのは、
仲間を信頼し、帰還時にすぐに迎えられるようにと考えてのことであった。
セシリアとフィリッパは、黄薔薇を配りながら思う。
(僕たちはそれぞれ別の世界で生まれたけれど、
今はこうして運命の導きによって共に生きていくことを願っている。
「青薔薇」の花言葉は「奇跡・神の祝福」だけれど、
今パラミタの人々と地球の人々に必要なのは「黄薔薇」の「友情」の方かもしれないね。
僕ら「契約者」は二つの世界の架け橋になるよう、頑張りたいと思う。
せめて微力ながらもメイベルと一緒にこうして皆に配るくらいしか出来ないけれど、
いつかその想いが実を結ぶと信じているよ)
(「好き」という感情の反対は「嫌い」というわけではなく、「無関心」なのです。
「好き」と「嫌い」は互いに関心があるからこそ生じる感情なのです。
だからこそ、二つの世界の人々が共に生きていく可能性はまだ有ると信じています)
(黄薔薇のもうひとつの花言葉は……)
セシリアはふと思い出す。黄薔薇のもうひとつの花言葉は「嫉妬」である。
黄薔薇は、神子になりたかったけれど、なれなかったアーダルヴェルトの心情、
そして、相手への関心、ひいては「友情」の裏返しの象徴なのかもしれなかった。
その横で、
クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)と、
クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)は、
歌を歌い、ジェイダスのお小姓として側に仕える。
隠れ鏖殺寺院のクリストファーは、
ジャルディニエの目的について賛同はしないが、特に積極的反対でもない。
しかし、薔薇の学舎の存続と天秤にかけるなら、間違いなく学舎の存続の方が重い。
だが、ジャルディニエから情報をもらっておきながら、
殺すという選択をするのにはためらいがあった。
そんな折、黒崎 天音(くろさき・あまね)に言われた。
「警備というのも無粋な響きだよね。
君達には綺麗な声で歌う小鳥として、校長の傍に侍って貰いたいな。
傍近くにいるという事は、いざという時には体を張るという事だけど……出来るかい?」
この指示は、クリストファーにとっては渡りに舟だった。
口移しでお茶菓子をジェイダスに食べさせ、クリストファーは「毒見」を行っている。
その様子に、クリスティーはイエニチェリを目指すものとして、
平常心を失わずにいようと努力する。
(それよりも、周囲の様子に注意しないと……)
クリスティーは歌を歌い続けながら思う。
クリストファーは、クリスティーのため、
ジェイダスにささやきかける。
「イエニチェリになるには相棒もそれなりでないと駄目?」
ジェイダスは、クリストファーを少し抱き寄せて瞳を覗き込む。
「ふむ、君からは懐かしい匂いがするな。嫌いではないよ」
タシガンの民は、歓待を受けて、和やかな雰囲気になってきていた。
その言葉から、アーダルヴェルト卿は、
家臣からも領民からも慕われていることがわかる。
「神子にさえ、こだわられなければ……」
ドミニクが同郷の吸血鬼であることもあり、
アーダルヴェルト卿の古くからの従者の一人がそう口走ったとき、
隣の男があわてて首を振り「それは禁句だ」と告げてみせる。
(しばらく離れていたので、タシガンの様子はよく知れんのだが、
アーダルヴェルト卿はそこまで神子にこだわっていただろうか?)
その様子を見てドミニクは思う。
エディラントは、ドミニクの周りで神子の話題がでないか気にしていたので、
後で黎に伝えることにする。
ミゲルとジョヴァンニは、
女の子達と楽しくおしゃべりしている。
ミゲルは言う。
「オレ、タシガンのこともいっぱい知りたいよ。
タシガンもタシガンの人達も好きやし。
あんな、オレ天魔衆の人らもそうやと思うよ。
あの人らもきっとタシガンの人達好きで力になってあげたいんやな、きっと。
オレらよく考えたら同じこと考えてん。
いがみ合ってたら勿体無いやんな。
アーダルヴェルト卿も、
イェニチェリや学校の皆も、
天魔衆の人らも教導団の人らも、皆戻ってきたらおかえりって皆でお茶しよか」
「契約者の人達は、本当に私達の力になってくれる?」
楽しく談笑する中、そう言った少女の目が一瞬、鋭くなったように思われたが、ミゲルは明るく言う。
「うん、もちろん!
大丈夫、皆強いよ。
ちゃーんと無事に帰ってくるよ。
だからそれまでオレらと待とか」
(帰ってきてオレら仲良くなってたらみんなびっくりやんなあ)
ミゲルは仲間達を信じている。
自分の言葉を真実にしてくれると。
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