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リアクション
第一章 御輿入れ1
「この日がくることは覚悟していましたので」
葦原明倫館の一角で、葦原 房姫(あしはらの・ふさひめ)はハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)に向かって、いつものように凛とした声で話している。
「これはまた、最高の品ばかりでありんすね」
二人の目の前にあるのは、将軍家へ輿入れするための数々の嫁入り道具だ。
この調度品の殆どを用意したのは、葦原明倫館生ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)であった。
「これが私が房姫様にできる精一杯だけど、マホロバに行ってもどうぞご安心を。皆が姫をお守りするからね」
パートナー上杉 菊(うえすぎ・きく)は「大儀院勝菊尼」と名乗り、房姫の身の回りの世話をすると申し出る。
「由緒ある葦原の姫様ですもの。房姫には無用でしょうが、大奥での礼儀作法や言葉遣いはわたくしがしっかり指導いたしますからね」
「うう……それって、あからさまに私のことじゃ……」
ネージュ・グラソン・クリスタリア(ねーじゅぐらそん・くりすたりあ)は、大奥への憧れと不安を隠せない。
つい先日までは、自分が大奥入りするなどと思ってなかったのだ。
しかし、夢はある。
「将軍様、お優しい人だと良いなあ」
「用意はできたか」
典韋 オ來(てんい・おらい)が馬を率いてやってきた。
「心配するな。大奥ではあたしがお庭番として警護する」
「わっちはそれほど、大奥の中のことは心配してないでありんす。どちらかというと、道中が気がかりでやす」
輿入れの行列を出来るだけ豪勢にというローザマリアの助言に、ハイナ大きな身振りで溜息をつく。
「派手な行列は人目につくのが心配でやんす。わっちは品々は空輸がよいと思っていたんでありんす。しかしマホロバに建設中の分校からは、輿入れは街道が常といわれたんでやんす」
ローザマリアはハイナの心配を当然とは思うが、空より訪れては威厳がない。かつて江戸での輿入れの様子を描いた画をハイナに見せる。
「砲艦外交、とは少し趣が違うけど、こっちの国威を将軍家にも示さないと将軍は兎も角、幕府の関係者が不安に駆られて結果的に瑞穂に内応する自体にもなりかねないわ。何事も第一印象が肝心ではないかしら。瑞穂にも見せ付ける牽制の意味も兼ねて大々的にデモンストレーションする事は必要だと思うの」
大きく頷きながらも、ハイナの顔は曇っていた。
「道中は厳しいものになるでありんす。瑞穂藩のみならず、各地の荒くれ者達もお宝を狙いにくるでやんす」
「きっと大丈夫です、皆がいますもの。それよりハイナ、そなたに頼みがあります。聞いてくれますか」
房姫はハイナに古びた古文書を手渡す。
「葦原に伝わるものの写しです。鬼鎧(きがい)……貞継様にはきっと必要なものでしょう」
ハイナはごくりと息を飲んだ。
字はまったく読めなかったが、そこに書かれている場所に行けば見つけられるに違いない。
久々に彼女の血が騒いだ。
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