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リアクション
第一章 御輿入れ3
マホロバ領内のとある宿場町。
葦原房姫がお泊りになるという上宿では、ものものしく警備されていた。
百合園女学園からやってきた秋月 葵(あきづき・あおい)とエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)も共に寝ずの番をするつもりだ。
外は既に暗い。
街中と違い、電燈がないので星が綺麗に見える。
灯り取りの丸窓から外の様子を窺う葵は、小声でエレンディラに話しかけた。
「明倫館生じゃないけど、房姫が狙われてるのを聞いたらほっとく訳には行かないよ。前にハイナちゃんも護ったことあるしね。」
そんな葵にエレンディラは優しく微笑む。
「私を気にせず葵ちゃんのやりたいことをしてください。私は好きなことをする葵ちゃんをずっと見てたいんです」
夜が更けてきた。
眠くなるのを我慢する葵とエレンディラ。
そのとき二人は何かを感じた。
葵がエレンディラの口元をそっと、指で押さえる。
敵は屋根から来た。
黒い影が動く。
ここぞとばかりに用意していたフライパンを、葵はがんがんと叩いた。
「敵襲!みんな起きてー!」
天井から敵が振ってきた。
が、なぜか動きがおかしい。
寝息を立てていたはずの房姫が飛び起きた。その動きは機敏である。
「図ったな!」
「どっちがだよ!」
女の姿でいる酒杜 陽一(さかもり・よういち)は、自らを房姫と瓜二つの姿に変えていた。
陽一は、事前にハイナから少し分けて貰ったしびれ粉と、手榴弾の信管を細工したものを天井に仕掛けていた。
「特殊部隊で仕込まれた罠だ。味わってみな!」
侵入者は、隣部屋から爆風の巻き込まれる。
「陽一、見てくれた?やっぱ、あたしって天才ちゃう?」
隣室にて待機していた陽一のパートナー、ソラ・ウィンディリア(そら・うぃんでぃりあ)は、しびれ粉対策にガスマスクを装着し、気配や物音に備えていた。
陽一の部屋で騒ぎが起こったとき、彼女は敵の居場所を確認しつつ、仕掛けの作動させたのだ。
「俺の仕掛けが完璧だからだろ」
「なんや、あたしみたいに格闘の達人やから、相手の気配を正確に察知したのに。そやなかったら、陽一いまごろその人らみたいになってんで」
爆風に巻き込まれた男たちは、体を引きずりながら逃げ出していた。
そのころ、葦原明倫館生伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)は、屋敷の裏門を警護していた。
他の場所にも多くの葦原明倫館生が交代で見張り番をしている。
「あたいはさぁ、房姫の覚悟に参ったんだよ」
周囲を警戒して小声で話しているつもりだが、藤乃の声は次第に大きくなる。
「誰かくるわよ」
それまで、藤乃の話をじっと聞いていたアルク・ドラクリア(あるく・どらくりあ)が暗闇に目を凝らした。
数人の男が走ってくる。傷を負ったものもいる。
「敵よ」
傷を負った敵に駆け寄ったのは、アルクだ。
「大丈夫?敵にやられたのね。助けてあげるわ」
そう言いながら、抜け目無く金目のものを探す。
騒ぎに気付き、多くの兵が集まっている。あちこちで戦闘が始まる。
魔道書屍食教 典儀(ししょくきょう・てんぎ)は藤乃が感動して行動するというのでなんだか心配になったので付いてきているだけで、そのほかのことには、関心ない。
「藤乃、危ないぞ、何をしているのだ」
良く見ると、藤乃は戦闘で怪我した男の刀やら財布やらを抜き取っている。
「あんた見ろよ、みんな自害してるよ、怖いねぇ」
刺客としてしくじった男たちは、皆、自ら毒をあおったようだ。
「ふうん、何をそんなに死に急ぐかねえ」
藤乃は片膝を付くと、十字を切った。
彼女に理由はない。
何故か、そうしたくなっただけだ。
卍卍卍
一夜が明け、宿では後片づけが淡々と行われている。
昨夜の刺客が何者かは、ついぞ分からなかった。
しかし、人々の間に黒いわだかまりを植えつけるには十分だった。
なぜ、こうも簡単に人を殺そうし、自らも死のうとするのか。
このときはまだ、多くのものは理解できなかったに違いない。
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