校長室
三つの試練 第一回 学園祭の星~フェスティバル・スター
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他校生徒や一般客が帰り、薔薇の学舎の学生たちだけによる後夜祭が始まっていた。 皆で屋台を手伝いながら、それぞれに腹を満たし、多いに歌い騒ぐ。美しき園とはいえ、ひとときの馬鹿騒ぎだ。 そんな歓声から離れ、人気のない裏門から、密かに出て行く者がいた。 だが。 「逃げ出すってことは、自白も同然だぜ。まぁ、どのみち捕まった奴らから、バレるだろうけど」 「こんな風に会うのも、残念だ。……中村」 ――雪之丞が、薄闇のなかで足を止め、振り返った。 彼を追っていたのは、リア・レオニス(りあ・れおにす)とレムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)。そして、榧守 志保(かやもり・しほ)、骨骨 骨右衛門(こつこつ・ほねえもん)の四名だ。 志保と骨右衛門は、舞台には行かず、その間こそと校内の巡回をしていた。……骨右衛門のビジュアル的問題(落ち武者的意味で)があり、あまり賑やかな所に不向きだ、というせいもある。もっとも、気にしたのは骨右衛門のせいで、志保はそれほど深く考えていないのだが。 骨右衛門としては、せっかくだから、志保には学園祭を楽しんで欲しいという気持ちもあった。それならばいっそ、骨右衛門をメインにお化け屋敷の企画でもやればよかった気もするが、それに関しては無類の恐がりである骨右衛門と志保には無理な相談である。 ……というのは別として、そんな理由でもって、彼らは主に人気のない時間帯を狙って、校内を巡回していたのだ。そして、舞台が終了し、後夜祭の喜びに沸く中、一人人目を盗むようにして輪を離れた雪之丞を見つけ、こうして追跡してきたというわけである。 一方、リアとレムテネルは、元々イエニチェリたちを見張っていた。もともとは舞台の裏方のほうを監視していたのだが、とにかく黒幕を押さえるほうが優先ということで、途中で方針を変えたのだ。 「それにしても、計画がずさんじゃないか? 少し。……どっちにしろ、逃亡するつもりだったのか?」 眼鏡のつるを軽く押し上げ、位置を直しながら、いつものように穏やかな口調で志保は尋ねた。 「……あれが公になれば、それでよかったのよ」 雪之丞は呟いた。その指先は、微かに震えている。 「あれとは、……『シリウスの心』が、ですか?」 レムテネルがさらに尋ねるが、雪之丞はそれには答えず、彼らをまっすぐに見据えて口を開いた。 「本気でイエニチェリになりたいの? ……それなら、目指せばいいのよ。その先になにがあるか、確かめるといい。ただ、アタシはごめんだわ」 悲痛な表情を浮かべ、雪之丞は俯いた。 雪之丞とて、ジェイダスを慕っていた人間だ。ジェイダスもまた。だから彼にしても、雪之丞が自ら告白するのを待ち続けていたのだろう。しかし。 「そんなことは知らないけどな、とにかく雪之丞は、校長に謝るべきだろ!」 まっすぐにリアは怒鳴ると、雪之丞を捕まえようと身を乗り出す。けれども、身軽な彼はすかさずそれを避けた。 「リア!」 反撃を装うし、レムテネルがリアの腕をひき、自らに引き寄せた。 「離せって!」 リアが暴れる。しかし、レムテネルはその手を離さなかった。むしろ自分のほうが戦闘態勢といった表情を浮かべ、雪之丞と対峙する。 「……もう、謝って済むような状況じゃないのよ」 雪之丞はぽつりと呟き、踵を返した。闇に紛れ、志保たちはしばらく追跡をしたものの、振り切られてしまった。さすが相手は、イエニチェリの一員ということはある。 「くっそ!」 悔しげにリアは唇を噛む。なんだか、悔しい以上に、ひどく哀しかった。 さすがにレムテネルもそんなリアをからかうことはせず、ただ、見守るのみだ。 「イエニチェリの先にあるもの、ね……」 雪之丞が落としていった仮面を拾い上げ、志保は呟いた。戯れにその面をつけてはみたものの、見えるものはやはり、闇ばかりだ。「……『平和が戻ったが、いかにも暗い平和だ』」 舞台の上では使われることのなかった、ロミオとジュリエットの最後のフレーズを呟き、志保は暫しそのまま、ただ闇を見つめていたのだった――。
▼担当マスター
篠原 まこと
▼マスターコメント
まずはご参加いただいた皆様、ありがとうございました。 個性的なアクションに今回も支えられ、無事、学園祭を終えることができました。 一丸となって協力してくださった、薔薇学の生徒の皆様。お疲れ様でした。 来校者の方も、楽しんでいただけたのならばなによりです。 次回はもう少し、「テスト」の傾向が強いものになる予定です。 引き続き、おつきあいいただければ幸いです。 よろしくお願いいたします。