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第四師団 コンロン出兵篇(序回)

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第四師団 コンロン出兵篇(序回)

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 サルヴィン川が支流に分岐していくところで、船は引き返していった。
 ここからは、ボートか湿地帯を徒歩で進むしかない。
 龍雷連隊が引き続き、甲賀の筏で先行し、障害の排除等を行った。
 大岡少尉の提案により、本校に調達し輸送隊が運んできた小船(ボート)を組み立てた。ボートには主に士官らや隊長兵長クラスが乗り込んだ。しかし800という規模であるので、全てはボートに乗り切らず。この間に、付近の住民に川渡しを頼んではどうかとのユウからの進言により、交渉の末に住民らから幾らかの協力を得ることもできた。それでもすべては乗り切らず、歩兵等残りは徒歩で湿地を進んだ。
 水辺の魔物も多く棲息し、三日程を要したが、士官・各部隊長らはよく兵の士気を保ち、全隊はやがて国境手前にまで駒を進めた。
 湿地帯が終わり平地になったところで、隊は山よりの低木帯の辺りにキャンプを張った。
 交渉は上手くいったものの、東西対立にあるなか、東側各校に近隣する地域を通過する間緊張は解けず、船旅も表向きは交易船を装っているため船室で静かにし、支流と湿地の旅は労を要した。
 それらを無事、通過し、ようやく一休憩入れることができるといったところ。もっとも、このあとは間もなくコンロン入りする。未踏の地。だからこそ、今ここで一時の安らぎを、とも言えるわけだが……
「セイカ殿! 一杯くらいなら飲んでも罰はあたらないと思うのだ!」
 魔王軍から、ノストラダムス・大預言書(のすとらだむす・だいよげんしょ)がお酒を持って騎凛のもとへやってきた。
「えぇ、そうですよね。やったぁ!」
 早速お酒を注ぐ。この先生がどんな酔い方をするのかちょっと楽しみなのだ……!
「ジークは未成年だから駄目なのだ……」
「……」
 魔王軍メンバーは、教導団をもてなすのにこっそり手配し調達してきたパラミタ猪やパラミタ鳥の料理を始めていた。これには、教導団の兵らも大いに喜んだ。
「魔王さんは、残念ですね。
 じゃあ、大人は飲みましょうか?」
 騎凛先生は、ゲルデラー博士やマリーらとしみじみ飲むことにした。シオンや大預言書やクリームヒルトや年齢秘密や?な面々も加わる。プリモも「わぁいお酒♪」。
「セ、セイカ。いいのか……」
「あれ。久多さんは、飲まないんですか? どーぞ。久多さんも、もう立派な大人ですものね」
「ああ、年齢的にはそうだが……
 (そーか。俺は大人。セイカも大人。……何だか、ドキドキしてきたぞ。)」
「美味しいお酒。他の部隊の皆さんにも、届けてあげてください」
 そこへ比島少尉、大岡少尉に、ケーニッヒや松平ら武将が入ってくる。
「あ。……」
「(お酒臭いでありますね。)その、大岡少尉らと出発前に話したよう、キマクからコンロン国境にかけては警戒を緩めてはいけないと。
 まだ、国境越えはこれからであります」
 比島少尉は心配から少し語気を強めて言った。
 ケーニッヒは本陣の様子にとくに言及せず、淡々と述べた。
「シャンバラとコンロンの国境を越える際は、必ず待ち伏せがある、と判断します。
 これを安全に越える抜け道の情報は残念ながら得られていませんが、少なくとも夜陰に乗じて一気に国境を突破すべきであろうと我は進言致します」
 金住少尉が、鉄心と共に少数を率い、全滅したという国境警備隊の駐屯した付近含め、先行して偵察に向かっている。鉄心は本隊には一時停止と後方警戒をと申し上げている。また、ユウのメイド軍師ルゥは、みっちゃん(三厳)とメイドナイツを使い、付近をすでに調べさせていた。
 勿論、警備も交替で行うこととなる。
 松平は、フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)に命じ、夜襲への警戒をとり龍雷連隊に不寝番をさせ警戒態勢を整えると述べた。「敵襲が来たらいつでも各員に呼び起こして戦闘態勢に投入させるよ」
 同じくノイエ、騎狼部隊、大岡少尉の輸送隊からも交替で兵が出て、警戒にあたった。
 国境を越えるのは、金住少尉の隊が戻ってきてからである。
 それまでは兵はこの態勢のもと、休息を取ることとなった。もう、今日は日も暮れている。
 
「葵? 疲れていない?」
「しっかり疲れた……」
 荷台にぐったりもたれかかる佐野 葵(さの・あおい)に、ルナが話しかけている。
「私は旅には慣れているけど、それでもけっこうしんどかったからね。葵には……あれ? もう寝ちゃってる?」
「い、いや、まだまだ。気は抜けないからね……!」
「まあでも今は、休んでおくことね」
 荷車の後ろから、ぬっとパンダが現れた。
「大丈夫?」
「今のうちに、休んでおかれるよう」横には、十二単姿、綺麗なかんざしを挿したはかなげな女性。
「不寝番の方は、トトやあたいらに任せて」
 輸送隊を預かる大岡永谷のパートナー達――熊猫 福(くまねこ・はっぴー)滋岳川人著 世要動静経(しげおかのかわひとちょ・せかいどうせいきょう)らしい。
「あっ。ごめんなさい。見張りはきちんと代わるよっ。
 なかなかまだお役に立てなくって……。大型トラックの免許なら持ってるんだけど」
「いいのいいの、あなたはまだこれからよ」
 福は輸送隊先輩として少し得意げに言う。
「って、まだ大型トラックの免許なんて取れる年齢じゃないでしょう?」
「え、ええその……」
 やっぱりそうは見えない葵であった。
「あなたは?」
 ルナは、世要動静経としばし話す。
「わらわは……陰陽師でござる」
 今回の出兵から、大岡少尉の組に加わっている。陰陽師と称するが、実は……? まだ謎多い人物だ。
「やあ。改めて、よろしく。闇商人の佐野さんの妹なんだって?」
 本陣に寄ってきた大岡少尉が戻ってきた。
「え、うん……」
 大岡は(外見)同じくらいの葵に親近感を持ったのだが、葵がすでに免許(しかも大型トラック)を持っている年だとは知らなかった。
 
 ノイエでは……
 支給された酒にとりわけ喜びの様子なのは、ノリさんこと平 教経(たいらの・のりつね)である。
「うひひ、新しい土地には新しい出会いをってなぁ。
 北と言えば陸奥の女は中々に野趣溢れる味があってんけど、こっちのお姉ちゃんはどないかなあ……。
 大将も、酒どうや。って、おらんな」
 昴コウジは今回の出兵に張り切り、新兵の指導や警戒の指揮に余念がないようである。
「ああン? また昼間と同じこと言うとるみたいやな。
 けっ、武者(むさ)の世は遠くなりにけり、やなぁ。
 男らしく女も土地も切り取り次第にしてまえばええやんけ!」
 一方のライラプスは、いつもの無表情、無愛想ながらも、異郷の地に出兵する兵らの心を、分け隔てなく接し慰めている。
 (果たしてそれは戦闘指揮官としてのプログラムが走っているだけなのか、或いは…? 本人にもそれは分からない。らしい。 )
「なんや。酒飲む相手がおらんがな。……
 ちょっと教官に酒の礼でも述べてくるかぁ」
「これは教経殿。こちらで飲めばいかかでございましょう?」
 同じノイエのハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)の方も一杯やっているようであった。
「ほら、ヴァリア、亜衣。教経殿に……」
「……」「……」
 やっと普通のLC生活に戻れたと思ったら、ヒラニプラ南部で数ヶ月やらされたキャバ嬢に逆戻りかと、サルヴィン川での交渉で苦々しく思っていたパートナーのクリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)亜衣。あげく危ない男どもに追い回されたし……
「な、なんか……やめとくわ。(ハインリヒとこの姉ちゃん、えらいおっかないわ。相当荒れとるで)」
 
 龍雷は龍雷で、飲んでいた。
「騎凛教官殿も、気が利く」
 酒を飲んでいるのは甲賀とロザリオ魯粛テノーリオミカエラらの組。松平とトマスは、フェイトから注いでもらったジュースを酌み交わす。
「どうかねトマス。龍雷には慣れたか」
「ええ。そうだ忍者軍師の甲賀さんにも教えを乞いたいですね」
「そうだな。今夜は飲み明かすか」
 松平とトマスはコップを持って甲賀のところへ行くのだった。
「おお、フェイト」
 途中、夜の木陰でくつろぐもと浪人兵らにジュースを配っているフェイトと会った。
「岩造。
 龍雷はこれから先、第四師団以外での行動が多くなってきます」
「ああ。
 龍雷の将来はもう決まってる……その為にコンロンで活躍する」
 松平はふっと微笑した。
 
「林田か」
「姉御(デゼル)? こんなところにいたのか。どうしたのだ。
 む、静かだと思ったら、そっちのは皆、眠っているのだな」
「ああ。こいつら、うろちょろしすぎて疲れちまったみたいな」
 デゼルは皆とは少し離れた暗がりで、一人腰かけて休んでいた。
 林田 樹は、隣に腰掛け、とん、と瓶を置いた。
「教官からの差し入れだ。なかなか、美味いぞ」
「俺は……いいのかな」
「ダメだぞ、デゼル」……ルケトの寝言だった。
「……」「……それよりそろそろ警備を代わって、兵の皆にも振舞ってあげたいところだな」
「うむ。うちのパートナーらに代わらせる。
 爺さんは酒が入っているし、一緒になってずっとはしゃいでいてな。温泉でもないのに」
「林田、騎狼部隊を頼むな」
「? どうして」
「いや、コンロンに入ったらこいつらと少しのんびり行こうと思ってな。
 建設中というクレセントベースには行かずに、クィクモの方へ……まぁ、偵察目的ってことで教官には話してるんだが」
「青年(イレブン)は葦原明倫館に行っているし、候補生(一条)は兵の一部を連れ空路にいるし、私がひとまず本隊を預かることになるか」