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パラ実占領計画 第三回/全四回

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パラ実占領計画 第三回/全四回
パラ実占領計画 第三回/全四回 パラ実占領計画 第三回/全四回

リアクション



生きてる? 死んでる?


 各社の新聞、雑誌を脇に、片手では携帯を。
 少し前にも同じようなことをしていたスレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)だったが、相席している人が違った。
 泉 椿(いずみ・つばき)オープン・ザ セサミ(おーぷんざ・せさみ)だ。
 消滅したという石原校長の邸宅のことや本人の行方など、各メディアでの報告を集めていた。
 新幹線で上野に向かって発車してからしばらく経つが、三人の表情は冴えない。
「つまり、よくわからんってわけだ」
 短くため息を吐きながらスレヴィは新聞を元通りに折り畳む。
 主に彼とセサミが中心になって情報収集をしていたが、得られたものは少なかった。

『都内で大爆発!』

 これが内容のほとんどだ。何がどうして大爆発なのかはわかっていないらしい。
 他、石原校長については、わずかだが新たなことがわかった。
『蓮田組組長は父親の代から石原肥満とは盟友だったが、パラミタ進出をきっかけに仲たがいしている』
 ということだ。
「もしかして友達同士の喧嘩か? 派手だな」
「派手の範囲でくくっていいのかしら」
「おまえら何でそんなに呑気なんだ」
 スレヴィとセサミの、放課後のおしゃべりのような空気に椿が呆れの視線を投げる。
「椿は少し落ち着きが必要ね。そんなんじゃ、わかることも見逃してしまうわよ」
 セサミは言い聞かせるように知的な瞳をきらめかせた。
「とりあえず、蓮田組組長は怪しいけど証拠はなし……どころか、すでに亡くなってるっぽいな」
 呻きながら週刊誌を睨みつけるスレヴィの横から、椿もそのページを覗き込む。
 その時、これ見て、とセサミが二人の前に携帯画面を滑り込ませた。
「宇宙からのレーザー!?」
 椿とスレヴィの声が重なった。
「ちょっとマイナーなとこの記事なんだけど、おもしろい推測よね」
「……衛星?」
 ふと、スレヴィは衛星で何か捉えられていないかと携帯から調べてみたが、残念ながらこれといった手がかりは掴むことができなかった。

 石原邸はきれいになくなっていて、今やもう、石原邸だった場所あるいは石原邸跡地と言ったほうがふさわしかった。敷地はテープで囲まれ警察関係者らしき人達がいる。
「宇宙からのレーザーって、ひょっとするとひょっとするかもしれないわね」
 セサミの呟きに、椿とスレヴィも頷くしかない。
 それほどまでに、きれいにそこだけが更地になっていたのだ。爆弾では不可能だ。けっこう離れているとはいえ、隣家は無傷なのだから。
「まずは、聞き込みから始めましょう」
 何かの血がうずくのか、セサミは気合たっぷりに行ってしまった。
 石原校長を気にかけている人はけっこういて、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)もその一人だ。
 もともと閑静な高級住宅地であるため人通りなどないので、トライブが気軽に聞けるような誰かが通りかかることもなく──こんなことが起こったせいで家に引っ込んでいるだけかもしれないが。
 仕方なく、警備の人に当たることにした。
「ここで何かあったんですか?」
 警備員は疑わしそうな目つきでトライブを上から下まで移す。
「話せることは何もないよ。子供が来るところじゃない。帰りなさい」
 最初から期待はしていなかったが、酷い言われようにトライブは不満げに鼻を鳴らしてその場を去った。
 それから邸宅前から少し離れてみることにした。
 誰かしら通る住人がいると思ったから。
 確かに、人はいた。
 それも予想以上に。
「キミ達と遊んでいるほど暇人ではないんです〜。他をあたってください」
 数人の不良に絡まれているのは、見た感じトライブとたいして年齢の変わらなさそうな女の子。
 こんなところにもいるのか、場違いすぎるだろ。
 と、心の中で毒づきながらトライブが助けに入ろうと歩み寄ったが。
「暇ではない、と言っているでしょう」
 突然、どこからか現れた青い髪の男に不良達は一掃された。
 古代禁断 復活の書(こだいきんだん・ふっかつのしょ)不動 煙(ふどう・けむい)を呆れたように見下ろす。
「あんたの敵じゃないでしょうに」
「余計な騒ぎは起こしたくなかったんですぅ」
「慎重なのはいいことですけど……」
 言い合う二人の周りに伸びている不良の一人に、トライブは聞いてみることにした。
 場違いなところが気になった。
「おい、起きろ。あんたに聞きたいことがある」
 揺さぶると、不良はハッと身を起こす。
 暴れ出さないようにトライブは雅刀の柄をちらつかせる。
 息を飲んだ不良は、じっと見下ろしてくる二人分の視線──特に復活の書のほうに気づくと、定規でも飲んだように背筋をピンと伸ばした。
「石原邸が消し飛んだことは知ってるな? それが起こる前に不審な人物が出入りしているのを見なかったか?」
「……」
「なァ、何でわざわざあんたに聞いてるかわかるか?」
 トライブの声に剣呑さが増す。
「何の証拠もねぇけど、あんたらみたいな奴らが、このお金持ちの住む地区に堂々といるのがおかしいってんだよ」
「ちょっと、そんな怖い顔したら話したくても話せませんよ」
 と、他のところで聞き込みをしていたジョウ・パプリチェンコ(じょう・ぱぷりちぇんこ)がひょっこりと顔を出す。
 トライブを諌めたジョウは、誰もが美少女と認めるその顔立ちに微笑みを浮かべて、トライブと同じ内容の質問をした。
 態度が違うだけでこうも違うものかと感心するほど、ジョウには親しみを覚えかけた不良だったが、彼女の手にある色紙にサインされている名を見ると、情けない悲鳴をあげた。
「ど、ドン・キホーテ……!」
「レ、レンさん……」
 ヒャア〜、と周りで伸びていたはずの不良達が逃げていく。
 捕まえていた不良も逃げようともがいたが、トライブが許さなかった。
「おっぱい女だ! ロケットみたいなおっぱいの女が何度か来ていた! 他は知らねぇ! あのおっぱいに他の奴らなんか消し飛んだ!」
「誰かに見張るよう言われたのか?」
 疑問はあったがトライブは先を続ける。
「それは言えねぇ!」
 不良の様子から、知られたくないことだということがわかった。おそらく、彼らの動きをレンは知らないのだろう。
 トライブは不良を解放した。
 彼は転がるように逃げていった。
「あんなんで良かったんですか?」
「そのうちレン本人から制裁が下るだろ」
 おっぱい女が何者かも含めて、トライブと煙達は再び聞き込みを開始した。
 その後、煙が見た目の良さを利用して買い物帰りの奥様方から聞いた話によると、石原邸には民自党員がたびたび訪問していたことがわかった。しかし、これは校長が民自党と繋がりがあることを考えれば、特に不思議はない。
 また、ヤクザらしき人物も訪れていたとか。
 さらに、おっぱい女はミルザム・ツァンダに特徴が似ていることがわかった。

 スレヴィが都内の主だった病院へ石原校長、あるいはそれらしき人が入院しているかどうか問い合わせている頃、椿は、ふと家族が気になり家の番号を押していた。
「え? 余計な心配だ? 心配するよ! 今、何が起こってるか知ってるだろ!?」
 椿の大声の後、魚屋・ポイント二倍・特売などの単語が漏れ聞こえてきた。母親の周りで起こっている重大事項のようだ。
「鍋でも何でも勝手に食ってろ!」
 最後の怒鳴り声と同時に椿はブチッと通話を切った。
 なおも怒りがおさまらないのか、ブツブツと母親への悪態をついているが、それは家に何事も起こっていなかったからだ。
 もし、ヤクザに嫌がらせを受けていたらイコンでブッ潰しに行くくらいの気持ちでいた。
 ふと、押し殺した笑い声に気づいた椿は、その主をギロリと睨む。
「おまえも笑ってんなよ」
「おもしろくて、つい。……それはそうと、病院のほうにはいないようだよ。隠されてなければだけど。もしそうなら、どうしようもないな」
 収穫なし、と携帯をひらひらと振るスレヴィ。
 椿は残念そうに眉を下げた。
 それと、と椿は次に百合園との合併のことを口にした。
「百合園は嫌いじゃないが、今までだって校長行方不明だったのに、今さら廃校とかねぇだろ? 教職員組合とか、今まで何やってたんだよ」
 椿の頭の中は、沢山の悩み事でいっぱいだった。
「……あ、もしかして合併話は教頭の趣味か!?」
「ああ、ありえそう」
「クッ……。校長、絶対見つけてやるぜ! ヤクザなんかに負けねぇからな!」
 セリヌンティウスへの不審をヤクザへの対抗心にすり替える椿だった。

「警察関係の見張りもいるし、敷地の捜索は夜にしないか?」
 というスレヴィの提案で、彼らは各自聞き込みなどを続けながら夜を待った。
 結局、あれ以降は校長に関する情報は出てこなかったのだが、彼らは諦めなかったのだ。最初から、敷地に手がかりを求めていたというか。
 そして夜。
 暗闇に紛れて敷地内へ忍び込んだ石原校長捜索隊。
 広い敷地にそれぞれ散らばって、校長の生死に関する痕跡がないか探しにかかった。
 疑わしいのは、地下。
 地下室、あるいは地下通路があるのではないかと伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)は丹念に調べるが、呆れるくらいに何も出てこない。焼けた土だけだ。
「死体がなければ死んだとも言い切れませんし……。少し、掘ってみましょうか」
 藤乃はシャベルを地面に突き立てた。
「死体の掘り起しね。私も手伝うわ」
 楽しそうな声でオルガナート・グリューエント(おるがなーと・ぐりゅーえんと)も藤乃の横でシャベルを使う。
 けっこう真剣な藤乃に比べ、オルガナートは遊びのような感覚だ。
 しかし、掘っても掘っても何も出てこない。
 複数箇所試してみたが、結果は変わらず。
 トレジャーセンスを持っているトライブに、引っかかるものはあったか聞いても、ため息をついて首を振るだけだった。
「もう飽きたわ〜」
 たいして時間は経っていないが、結果が出ないことに早々にやる気がなくなってしまったオルガナート。
 シャベルを放り出して敷地の外に出ようとして、新たな気配がこちらを窺っていることに気づいた。
「藤乃、誰かの気配を感じるわ」
 オルガナートに言われ、藤乃とトライブが緊張した面持ちで辺りをうかがうと、街灯の陰から誰かが手招きをしているのが見えた。
 警戒しながら数歩近づき、藤乃が「誰ですか」と問いかける。
 人影は「肥満様をお探しなのですね?」と逆に聞き返してきたが、その声に敵意は感じられなかった。
 敷地内の契約者達を呼び集め、敷地を出てその人物について歩くことしばし、彼は広い公園で足を止めた。身形のきちんとした壮年の男だ。
「私は、肥満様の近くでお仕えしていた者です。あなた達の噂を聞いてお話ししたいことがありまして」
「校長の居場所ですか?」
 藤乃の問いに、しかし彼は力なく首を振る。
「残念ですが、私達も探しているところなのです。ですが、あのお方は死んではいないはずです。近くで見てきたのですから、その用心深さは誰よりもわかっているつもりです」
 生きている証拠はないが、彼の強い言葉からそうなのだろうと思われた。
「私達、ということは、他にも生きている人がいるのですね?」
「ええ。……たまたま、外に出ていた者達だけですけれど」
 それでも、使用人達すべてが死んでいたとしても、校長だけは生きているだろう、と彼は断言した。
「すでにおわかりかと思いますが、あのお方は味方も大勢いますが同じくらい敵もいます。あなた方の動きも敵方に伝わっているでしょう。あまり無茶はしませんよう」
 敷地周辺でウロウロしているのがパラ実生を中心とした学生達であると聞き、心配して駆けつけたようだった。
 藤乃は丁寧に礼を言った。
「お気遣いありがとうございます。校長が生きているなら、そのうち機を見て姿を見せてくれるでしょう」
 その言葉に安心したのか、男は帰っていった。
 残された藤乃達は、今後について話し合った。
「和希には全部話すつもりだ……」
「待って、椿。それはいいけど、校長のことは死んだことにしない? あの人の言うことが本当なら、生きているって騒いでかえって校長が危険にさらされたら大変だわ」
 セサミの言うことに、椿はなるほどと頷く。
 さらに、藤乃の提案で校長死亡説に信憑性を持たせることになった。
「私が校長代理を名乗り出ましょう。反発が来るのは承知です」
「じゃあ僕は推薦者になりますねぇ。ついでに教頭にも立候補しますぅ」
 煙が元気に手を挙げたが、教頭に立候補については藤乃以外が目を丸くした。
 現教頭のセリヌンティウスはどうするんだ、と。
 何とかなりますぅ、と煙はにこにこ顔を崩さない。
 多少の困惑を残したまま、とりあえず話は決まった。