薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

パラ実占領計画 第三回/全四回

リアクション公開中!

パラ実占領計画 第三回/全四回
パラ実占領計画 第三回/全四回 パラ実占領計画 第三回/全四回

リアクション

 ドージェの妹、基牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)のために彼女の望む行き先まで道を作ろうと奮闘するパラ実生だったが、健闘するチーマーにより遅々として進まない。
 戦いを見ているのもそれはそれで楽しいが、そろそろ連れの我慢が切れそうだ。
 ちらりと見やると、案の定うずうずしているラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)
 アルコリアはゆったりと隣を歩く桐生 円(きりゅう・まどか)に声をかける。
「まどか、絨毯を敷いてちょうだい……私の往く道に真っ赤な絨毯を」
 見上げる円の顎を指先でとらえ、顔を近づける。
 恥ずかしそうにしながらも目はそらさない円に、アルコリアは艶やかな笑みを浮かべると、小さく出した舌先で円の唇に触れた。
「いよいよだね、アルコリア! アリウム、もうじき楽園へのパレードが始まるよ! 赤い赤いパレード!」
「ラズン様、楽しそうですね」
 はしゃぐラズンにアリウム・ウィスタリア(ありうむ・うぃすたりあ)が微笑む。
 出番が来た、とミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)がレプリカ・ビックディッパーを頭上でぐるりと回した。
「ミネルバちゃん、いくよー! うんどうだー!」
 軽く床を蹴ったミネルバが、パラ実生とチーマーの乱闘に混じっていく。
 ヒロイックアサルトにより得た力や速さで一人二人と薙ぎ払っていくが、五人目くらいで止められた。
「あれがニンジャとサムライのヤクザさん?」
 珍しそうに黒ずくめのスーツ男を見つめるオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)
「ヤクザさんって、もっと搦め手とか経済的に攻めてくると思ってたんですが、違うんですねぇ。それとも、正面に立って主のために命がけで戦うというのが仁義ってやつかしらー」
 知的好奇心を刺激されたのか、ヤクザについて考察するオリヴィアに円から声が飛ぶ。
「オリヴィア、ミネルバがやられちゃうよ」
「大丈夫ですわー。まだまだいけますわー」
 オートガードによりミネルバへのダメージは軽減されていたが、暴力のプロとパラ実生が恐れるたけあり、複数人からの攻撃をさばくのは苦労していた。
 しかも、オリヴィアの言葉は聞こえていたらしい。
「オリヴィー、さぼってるー!?」
 ほんのわずか意識がそれた瞬間、ヤクザに強く蹴飛ばされる。
 とどめを刺そうとするヤクザを中心に、オリヴィアはエンドレスナイトメアを展開させた。
 こみ上げる嘔吐感にヤクザの足が鈍る。
 その間にミネルバはリジェネーションで回復をはかった。気のせいかもしれないが、うっすらとオリヴィアの魔法に巻き込まれている感じがあった。
「気のせい気のせい! はい、ふっかつー!」
 元気になったミネルバは、魔法の影響を受けているヤクザに蹴りの仕返しをした。
「アリウム、ボク達も」
 円がアリウムを呼ぶと、彼女はにっこりして鎧となり円の身を覆う。
 円は進路を定めると、魔銃モービッド・エンジェルを構えた。そして、籠めた弾丸にうたうように囁く。
「行こうか、コキュートス。ボクと一緒に道を作ろう」
 大魔弾『コキュートス』は、暗闇と氷の軌跡を引いてチーマーの群へ吸い込まれていった。
 一拍遅れて鮮血の道が描かれる。
 こっちだ、と導いているように。
「少し、暇になっちゃうね」
 呟き、円達は進んだ。
 階を上ってもやはりパラ実生とチーマーの戦いだった。時間が巻き戻ったのかと思うほどだ。
 短い退屈の終わりにミネルバは喜んだが。
「全員くたばれ!」
 チーマーの一人が狂ったような叫び声をあげた。ヤクザらしき者がその男に飛び掛ったが、円達が見たのはそこまでだった。

 やさしい風に撫でられているような感覚に、円のまぶたが開く。
「あれ?」
 周りがとても静かだ。
 それもそのはずで、障害物のらしきものが置かれていたフロアは、やけに広々としている。
 喧嘩してた人達は、と見れば、壁際に重なり合ってダウンしていた。
「爆弾が仕掛けてあったようです。ミネルバ様が助けてくださいました」
 最初の感覚はサクリファイスによるものだったようだ。
 アリウムに言われてミネルバを探せば、少し離れたところに倒れていた。
 アリウムも必死に円を守ったのだろう。いつもより声に元気がない。
 そこに、大勢の靴音が近づいてきた。
 大和田が配下を連れてやって来た。
 後ろからはパラ実生が上ってきている。
「素敵な痛みだったね」
 少女の笑い声。
 アルコリアの身につけている赤いボンデージ──魔鎧のラズンからだ。
 うっとりとしたラズンの声が流れる。
「目ある者は見よ
 耳ある者は聞け
 口ある者は語れ

 我が主の
 御姿を
 御声を
 武勇を

 流れる紅き魂の水を献上せよ
 終わり無き歓喜の中で死ね」
 武力を第一とするナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)から教わったものだった。
 静かな言葉の後、ラズンの甲高い笑い声がこだました。
「きゃははははは! みんなみんな、イタイイタイキモチイイしよぉよ」
 先に仕掛けたのは、その言葉を教えたナコト。
「マイロードへのナイフの返礼ですわ」
 コインを弾き、雷術で大和田へと矢のように飛ばす。狙いは小型結界。
 大和田は鞘に入れたままの短刀でそれをはじいた。
 アルコリアがプリンス・オブ・セイバーを握る両腕を広げる。一瞬後、炎が剣を覆った。
「……ほぉ、やっと来たか」
 大和田の横からヌッと出てきたのは白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)
 彼は赤黒い刀身の光条兵器を現すと、アルコリアへ挑発的な笑みを見せた。
「俺と勝負しねぇか? 嫌だっつってもダメだけどな!」
 封印解凍で一気に力を増した竜造が、返事を待たずに斬りかかる。
 アルコリアは「痛みを与えあいましょう」と瞳を煌かせた。
 刀と剣が激しく打ち合いを始めると、止まっていた時間が動き出す。
 パラ実生が、ヤクザが、それぞれ攻撃を開始した。
 乱闘から一歩離れたところで、シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)がデジタルビデオカメラを回している。
 戦場の端からやがてアルコリアへ。
 シーマが低く笑いをこぼす。
 竜造とアルコリアでは実力に差があることは明らかだった。
 彼もそれはわかっているようだが、それでも怯む様子はカケラもなく、どれだけ傷ついても楽しそうに突っ込んでいる。
 けれど、戦闘不能になるのは時間の問題、とシーマは視点を移そうとしたが。
 アルコリアの剣に長ドスを弾かれた竜造は、何を思ったか彼女の腕を掴み引き寄せた。
 アルコリアは一瞬驚いたような顔をしたが、その剣は竜造を脇腹から刺し殺そうとしている。
 そこに、シーマの注意が飛んだ。
 ニヤリとした竜造の向こうから長ドスが間近に迫っていた。
 奈落の鉄鎖で向きを変えた凶器が竜造ごとアルコリアを貫いた──。
「……っと、かわされたか」
 竜造の体をすり抜け、乾いた音を立てて落ちる赤黒い長ドス。
 シーマの声に、アルコリアが反射的に竜造を突き飛ばし、切りつけたのだ。
 切り裂かれた体から噴出すのは、血か炎か。
 いつの間にやって来ていたのか、倒れた竜造をレンがじっと見ていた。
 意識を失った竜造の傍に、銀座の十二星華綾香が介抱に向かう。
 みるみるふさがっていく傷口に、パラ実生がどよめいた。
「あれが銀座の……!」
「ホステスか。何て恐ろしい治癒能力!」
「だから蓮田のヤローが余裕だったのか。……もしかして、まだ何か隠している!?」
 動揺するパラ実生をアルコリアが静かに宥める。
「気になるなら暴けばいいでしょう? 一番厄介なのは私が」
 視線を受けた大和田は、無表情に踏み出した。

卍卍卍


 別の階ではシグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)がようやく会えた相手に満足したように目を細めていた。
「暴走イコンの次はあなた達ですか」
 あの後、瓦礫の下から這い出したミゲルは、レンはどうしたかと思い、戻ろうと階を上っていたのだが、猛追してくるシグルズ達により足止めされたのだった。
 シグルズはレプリカ・ビックディッパーをミゲルに突きつけ、挑発する。
「前はうまく逃げられたが、まさか今度も『逃げる』とは言わんよなぁ」
「ははは。そう言うなら相手をしてあげなくもないですよ」
 からかうようにミゲルは笑った。
 集まってきたチーマーもそれぞれの武器を構える。
 シグルズの横に武者人形が並び、アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)エヴァ・ブラッケ(えう゛ぁ・ぶらっけ)が空飛ぶ箒でふわりと舞い上がった。
 チーマーが雄叫びをあげて突進してくる先に、ギャザリングヘクスで威力を増したアルツールのブリザードが叩きつけられた。
 正面から襲う氷の礫に足が止まったチーマーを武者人形が払いのけ、シグルズがミゲルへと突き進む。
 彼は前回の戦いを忘れていなかった。
 だから、ショットランサーを握るミゲルの腕の動きにもすぐに気づくことができた。
 ロケットのように飛んできた穂先を大剣で打ち払い、踏み込んでミゲルに向かって斬り上げる。
 剣は槍の柄で防がれ、ミゲルはシグルズからすぐに距離を取り、穂先を引き戻した。
 入れ替わるようにチーマーがシグルズに金属バットや鉄パイプ、中には鉈で襲い掛かる。
 アルツールは彼らを阻もうと再びブリザードを唱えようとしたが、ミゲルの問いかけによって詠唱は途切れた。
「あなた達のことは噂で聞いています。旧生徒会に力を貸していたとか。それがなぜ、今は現生徒会の体制下にあるパラ実に味方しているのですか?」
「俺達がいつ今の生徒会側についたと言った?」
 アルツールのきっぱりとした返答に、ミゲルは納得した。
「そういうことでしたか。ですが、今のパラ実生は旧生徒会にどれだけ心を残しているでしょう? オレ達の建てた首領・鬼鳳帝にあっさり信仰心を募らせたくらいですよ」
「心移りが激しいなら、それもけっこう。あの人達を思い出すこともできるだろう」
 アルツールの気持ちが揺らがないことを知ったミゲルは、それ以上問答することをやめた。
 シグルズを抑えるのもそろそろ限界のようだ。
 と、ずっとミゲル達の後ろで戦いを見ているだけだったヤクザが、手元の小さなコントローラーをいじった。
 壁に仕込まれていた矢が空中のアルツールとエヴァを襲う。
 矢が掠め、バランスを崩した二人が落下する。
 とっさに彼は紙ドラゴンを放ち、クッションにした。
 たたみかけるように凶器を振りかざしてくるヤクザへ、もう一体の紙ドラゴンを解放してブレスで牽制する。
 魔道書の形のままアルツールに携行されていたソロモン著 『レメゲトン』(そろもんちょ・れめげとん)がスウッと人型をとり、さらにアシッドミストでヤクザ達を覆った。
 エヴァがアルツールの傷を先に治療していく。
 ミゲルはチーマーに混ざってシグルズへと仕掛けた。