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リアクション
●第九試合 メインパイロットステンノーラ・グライアイ(すてんのーら・ぐらいあい)・サブパイロットジル・ドナヒュー(じる・どなひゅー)VSメインパイロット皆川 陽(みなかわ・よう)・サブパイロットテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)
『ステンノーラ選手のイコンは、アルマイン・ブレイバーとなります』
これまでの他校のイコンは、イーグリットに準拠したものだったが、アルマインはそうではない。蜂を思わせる有機的なデザインが目を惹く機体だ。武器は、マジックソードだった。
「どういう手でくるかわからないけど……頑張ろう、ね」
陽はそうテディに話しかける。だが、テディは「ああ」と答えるのみで、陽と視線をあわせようとはしなかった。
「…………」
陽が俯く。そのことにテディも気づいてはいる。しかし、微笑みかけることができなかった。
あの『種』を植えるために、陽がなにをしたか。テディはそれを思うたびに、気が狂いそうになる。それは、忠誠を誓った、パートナーを傷つけられたという怒り。……そのはずだった。
けれども、テディは気づいてしまったのだ。自らも、陽に同じことを彼にしたいという、浅ましくも激しい自らの欲望に。
だからこそ、テディは恐れていた。他の誰でもなく、己自身を。
(いや、今は、試合に集中だ……!)
剣の扱いならば、多少の心得がある。一歩も退くつもりはなかった。
「……では、ウゲンの言うとおりに?」
「今回は、しょうがないね。でも、不審に思われない程度にやってよ」
「んー、わかったよ」
ステンノーラとジルは、そうブルタ・バルチャからの指示を確認する。
このイコンの性能も、もっと披露したかったという気もするが、仕方がない。目的のためだ。
第九試合は、両機の身軽さと移動能力を発揮した戦いとなった。
しかし、ブルタの思惑もあり、最終的には陽とテディの勝利となった。
●第十試合 メインパイロット鬼院 尋人(きいん・ひろと)・サブパイロット呀 雷號(が・らいごう)VSメインパイロット水鏡 和葉(みかがみ・かずは)・サブパイロットルアーク・ライアー(るあーく・らいあー)
すでに夕暮れとなり、真っ赤に空が染まり始める。
太陽を背にして、競技台に対峙したのは、尋人の操るシパーヒーと、和葉のイーグリットだ。
「天御柱学院の生徒か……」
尋人が小さく呟く。イコンの扱いについては、やはりあちらのほうが上だ。しかし、剣での戦いの経験においては、引けを取らないという自信はあった。
そして、イコンであれば、尋人が密かにコンプレックスにしてきた『小柄で痩身』という肉体的弱点は関係なくなる。多少の性能差はあれど、少なくとも体格的には同等だ。
今回は、イーグリットはビームサーベルを装備している。互いにスピードには自信がある機体だ。
「どっちも、手元狙いだろうね」
尋人が呟いた。雷號が頷き、応じる。
「かなり敵と接近する必要があるが、間合いの取り方さえ誤らなければ……」
間合いと、いつそれを縮めるか。そのタイミングと、正確なイコン操作が、勝敗を決めるだろう。
(ウゲン様も見ている……みっともない動きはしたくない)
そう思いながら、尋人はサーベルを構えた。
「いざ、勝負だよ!」
和葉は弾んだ声でそう告げる。
彼女自身は射撃のほうが得意だったが、今日はルールに従っている。
せっかくの薔薇の学舎のイコンと戦えるチャンスということで参戦したが、今まで繰り広げられてきた試合のどれも楽しんでいた。
「装甲パージっていうのは、びっくりしちゃったな」
「マネするなよ?」
「しないってば。でも、イーグリットだとどんな風になるんだろうね?」
ルアークはそう止めるが、和葉の好奇心はかなり刺激されているようだ。
試合が始まる。
果敢に先制攻撃をしかけてきたのは、シパーヒーのほうだった。
「和葉、2秒後接敵するよ?準備OK?」
「オッケー、ボクにお任せあれっ!!」
イーグリットがサーベルを受け止め、そのままなぎ払おうとする。その動きを察知したか、イーグリットが若干後方に退いた。同じくイーグリットも退き、互いの間合いをとる。
イーグリットが踏み込めばは、シパーヒーが退く。互いに、巨体とは思えぬスピードだ。
『両者、一歩も退きません!』
荒々しくも、気迫に満ちた試合が続く。
「けっこう、やるね」
手加減をするつもりは最初からなかったが、さすが薔薇の学舎の生徒だとは、和葉も素直に感心する。とくに剣さばきに関しては、若干押されていることは否定できなかった。
「和葉、時間がない。スピードで、たたみかけるよ」
ルアークの言葉に、和葉は頷いた。
そして、同様に。
「次で、決めよう」
尋人が呟いた。
『まもなく試合終了時間となりますが……両者、互いにつっこんでいく!』
観客が息を飲む。砂塵を巻き上げ、燃える夕焼けを背景に、二体が動きを止めた。
……お互いに、その剣の切っ先を、喉元に突きつけて。
『……ここで試合終了です! 両者、引き分け!』
肩で息をしながら、尋人がサーベルを下げる。張り詰めきっていた緊張の糸が切れ、疲労がどっとおしよせたようだ。
和葉もまた、額の汗を拭い、ビームサーベルを左手へと持ち替える。そして、右手を尋人へと差し出した。
「お相手、ありがとうございました!」
そう告げた彼女の声は、全力を尽くしたという満足感からか、明るさに溢れていた。
「惜しかったですね、尋人」
ウゲンの傍らで試合を観戦していた西条 霧神(さいじょう・きりがみ)は、やや残念そうだ。
「君の契約者だっけ?」
ウゲンに問いかけられ、霧神は「ええ」と頷いた。
「いい動きだね。迷いがなくて、まっすぐだ」
頬杖をついて、ウゲンは微笑む。
「……そのお言葉で、尋人も喜びます」
「そう?」
頷きながらも、少年の瞳には、微かに残忍な色が浮かんでいた。
まっすぐな美しさこそ、穢す喜びは大きい……そんな風でも、あった。