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リアクション
第2章 仲間を迎えに
契約者達は、北の塔の中に到着をした。
北の塔は、陣として利用していなかったことと、戦闘もほとんど行われていないことから、特に荒れた様子はなかった。
「離宮内の明かり、ついたままだけれど、ここを発つ時には消していくわよ」
現場指揮を任された白百合団、副団長代理のティリア・イリアーノが、皆に指示を出していく。
最後の封印であった、激昂のジュリオの封印は、ジュリオの負担を軽減するため、一族の力をも借りて解かれた。
彼の封印は、宮殿内と呼応していたため、先に6騎士のうち封印に携わることを望んだファビオ・ヴィベルディ(ふぁびお・う゛ぃべるでぃ)、マリザ・システルース(まりざ・しすてるーす)、それからジュリオ・ルリマーレン(じゅりお・るりまーれん)は、宮殿の中に下りていた。
彼らが封印のシステムを操作し、北の塔への転送を可能としたのだが、離宮を支えておく必要があるため、封印は最低限しか解かれていない。
また、人柱となっているアレナを起こしても、封印が解除されるわけではない。
ただ、人柱が所定の場所から離れてしまうと、封印が不安定になるため、ギリギリまでアレナを移動させることは出来ないということ。
封印の操作は、制御室がある、ジュリオ・ルリマーレンが眠っていた部屋の奥で知識のある6騎士が行う方法と、封印をしたアレナ自身が解くことが出来るはずだということ。
それらのことを、ティリアは話していく。
「時間の説明をするです」
続いて、白百合団の班長、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が、説明を引き継ぐ。
「ここで行動できるじかんは2時間です。30分前に、アレナおねえちゃんをつれて、かえる準備をするです」
各場所で作業を行っている者も、30分前に撤収作業に移り、10分前に、この北の塔で合流をして、ヴァイシャリー家の敷地内に全員でテレポートをする予定だった。
「ボクはお掃除に行く人たちといっしょにいくですよー」
ヴァーナーは離宮を回って、清掃を行う者達の指揮を担うことにした。
他の白百合団班長も、それぞれ役目を担っている。
アレナと親交のある秋月 葵(あきづき・あおい)は、アレナを探して保護する班の班長に。
一番年長な、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は、過酷な北側に残り、遺体と遺品の回収を行う班のとりまとめを行うことになっていた。
更に風見 瑠奈(かざみ・るな)は、この現場と、東の塔周辺をも担当する。
「俺は適当に、空から見て回るぜ。人手の足りないところがあったら、連絡する」
ゼスタは、地獄の天使で生やした影の翼で、上空から見回りを行うようだった。
「では、行きましょう。1秒1分たりとも、無駄にはできないから」
ティリアが外に続く、扉を開いた。
外からは、淡い光が流れ込んでくる。
「ゼスタさんは、優子先輩の為に頑張ってくれるんだよね」
ゼスタに純粋な微笑みを向けたのは、白百合団の特殊班員として同行したレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)だ。
彼女はパートナーのミア・マハ(みあ・まは)と共に、ティリアの護衛を行う予定だ。
「勿論。神楽崎優子は俺の女だからな。そのパートナーのアレナ・ミセファヌスも」
ゼスタがにやりと笑みを見せる。
「離宮、広いって話だから、飛び回るの大変だと思うけど、疲れたらボクの血をあげるよ。ボクは健康なのが取り柄だからね」
「おー、さんきゅ! それじゃ、疲れたら貰いに来るな」
ゼスタは、レキの頭にぽすっと手を乗せた後、翼を広げて、外へと飛び立った。
「遺品の回収をする際に、使って」
サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)は、瑠奈に手書きの地図を渡す。
離宮で調査を行っていた時、目にした情報を記したものだ。
「ありがとう。使わせてもらうわ」
瑠奈は地図を受け取ると、外へと踏み出した。
契約者達も、彼女に続いていく。
塔の外には……争いの跡があった。
とはいえ、この辺りでは激しい戦闘は行われておらず、生身の遺体なども存在していない。
「とどめを刺した私が言うのもなんですが……ソフィア様の遺体の回収をお願いできないでしょうか?」
かつて、6騎士と共に離宮を守っていたニーナ・ノイマン(にーな・のいまん)が、瑠奈やロザリンド、回収班の皆にお願いをする。
そして、ニーナはソフィアを討った場所に目を向ける。ここからでは、見えないけれど……。
「やはり地下の離宮ではなく地上のシャンバラで眠ってほしいので」
ニーナは葵を助け、アレナの救出に手を貸すことになっていた。
「加害者かもしれない、けど……犠牲者であることに、変わりはないから」
そう小さく言葉を発したのは、同じくソフィアに刃を向けたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)だった。
「あのさ」
続いて、リカインのパートナーのアストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)が、白百合団の班長達に目を向ける。
「……俺はな、正義って言葉が好きじゃねえ。ジャスティシアにも色々あるだろうが、少なくとも俺は法を重んじてる。法は公正であるために時として正義に目を背けなきゃならない事もある」
ティリアも瑠奈も、黙ってアストライトの話を聞いている。
「それによ、兵器達はともかくあの時戦った奴等にだって信じてる、目指してるものがあったんだろ? 俺たちは正義だから勝ったんでも、勝ったから正義なんでもねぇ。ただ、目指すものへの想いが相手より強かった……それだけなんだよ」
少し寂しげな顔で、アストライトは言葉を続けた。
「だから、さ。無理にとは言わねぇけど敵『だった』奴のこと、いつまでも悪として扱わないでもらえねえか? 俺だって鏖殺寺院やしたことを認めるつもりは無ぇけどな……」
「そうね……」
そう答えて、ティリアは瑠奈、ロザリンド、葵を見た。
3人共、ただ静かに頷く。
「……」
ソフィアとパートナー契約を結んでいた桐生 円(きりゅう・まどか)は、何も言わずに、ロザリンドの隣にいた。
毛布や、化粧道具を小さな体で抱えながら。
「ソフィアさんも、地上にお連れしましょうね」
瑠奈はニーナにそう答えた。
「ありがとうございます。お願いします」
ニーナは頭を下げて、礼を言った後、南の方へ歩き始めた葵に続いていく。
「わーい。アレナお姉ちゃんのお迎えだー」
初めて離宮に下りて、事情もよく理解していないメリッサ・マルシアーノ(めりっさ・まるしあーの)は、親しみを感じているアレナがここにいると聞き、喜んで葵に続こうとした。
「ここ、いい雰囲気じゃないよね。今まで窮屈じゃなかったかなー?」
早く迎えに行こうと、足を大きく前に踏み出したメリッサだけれど。
「メリッサ、アレナさんをお迎えしなくてはいけませんが、同時に一生懸命戦った人達もお家に帰れるようにしましょう」
ロザリンドに、腕を掴まれて止められてしまう。
「えー、私はアレナお姉ちゃんのところ行くー。迎えに行くのー」
しばらく駄々をこねていたメリッサだが、ロザリンドに、ここにもヴァイシャリーに帰りたいと思っている人達が、何人も眠っているんだと諭されていく。
そして、彼らを待っている人も地上にいるのだと。
「多くの頑張ってくれた方達の遺体と遺品を、家族の方達の手に渡しませんといけません」
「んーと……」
メリッサはちょっと考えて。
自分もアレナが帰ってくるのが待てなくて、ここに来ようとしていたことなんかも思いだし。
ここで眠っている人達のことを、お家で帰ってくるのを待っている人もいるのかなと思って。
だったら、皆が帰れるようにしてから、あとでアレナに甘えたいなって。
そんな風に考えて。今は、ロザリンドと一緒にお手伝いをすることにした。
「みんな、アレナおねえちゃん、よろしくねー!」
そして、アレナを探しに行く人達を手を振って見送った。
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