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嘆きの邂逅~悲喜の追録~

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嘆きの邂逅~悲喜の追録~

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(アレナさん……ご無事でしょうか)
 白百合団の特殊班員である冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は、回収班の護衛に当たりながら、南の方に目を向けた。
 ソフィアも所属していた闇組織に、人質交換として、アレナを要求されたことがあった。
 その際に同行をした小夜子だけれど……小夜子が現場に駆け付けるより前に、アレナは組織に与していた者の手により、重体に陥っていた。
 当時のことを思い出しながら、小夜子は巡回をしていく。
 回収班が回収作業に当たっている付近には敵の姿はないが、離宮の地上部分、使用人居住区付近には、まだ稼働している兵器の姿も僅かながら在った。
「あそこに、います。行って下さい」
 家の中から、ふらりと出てきた光条兵器使いを発見した小夜子は、即座にフラワシを向かわせる。
 小夜子が呼び出したフラワシは、炎を操る力、傷を癒す力、ゼリー状になって攻撃の衝撃を和らげることのできる、3つの能力を持つフラワシだ。
 フラワシは光条兵器使いに突進して、体をゼリー状に変化させて絡みついた。
 次の瞬間に、小夜子がその身を蝕む妄執で、光条兵器使いに、恐ろしい幻影を見せる。
「この場で、焼いて下さい」
 小夜子の言葉に従い、パニックを起こした光条兵器使いから、フラワシは一旦離れて炎の攻撃を加える。
 光条兵器使いは攻撃を仕掛けることも、防御することもなく、炎に巻かれて倒れていく。
「前方にもいます」
 小夜子を発見し、ゴーレムのような人造兵器が迫ってくる。
 フラワシが小夜子の前に回り込み、敵が投げつけてきた岩をその身で受ける。
 フラワシが受けた衝撃は、小夜子にも伝わってきたが、一歩も引くことはなく小夜子は立ち向かっていく。
「このタイプは腹部への攻撃が有効だ」
 駆け付けた永谷が敵へと向かっていき、槍を繰り出して人造兵器の腹部を貫き、砕いた。
「なるほど……ありがとうございます」
 礼を言った直後に、またこちらに寄ってくる敵の姿に気付く。
「複数いますね。焼き払ってください」
 フラワシに小夜子はそう命じ、自分自身はフォースフィールドを展開し、攻撃に備えた。
 ……これらの力は、あの時。人質交換に向かった時には、まだ身に着けていなかった能力だ。
(あの時、交換の場で持ち合わせていたら、あるいは……?)
 そう考えた直後、小夜子は首を横に振る。
 今はそんなことを考えていても仕方がない。
 自分がやるべき事は、同じ過ちを繰り返さぬことだろうから。
(大切な人を守る為にも……。絶対に)
 兵器自体はもちろん、敵のどんな攻撃でも、フラワシと自分自身で全て受けて、小夜子は後ろに通すことはなかった。

○     ○     ○


 北方面で爆破を行った軍人以外にも、死者は出ていた。
 防戦を行っていた東の塔で、救護班の指導をしていたクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は、当時の状況を一番よく覚えていた。
 軍人達の遺体と遺品を回収するため、北の塔から東の塔方面にはクレアと、ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)キリカ・キリルク(きりか・きりるく)。それから、クレア達の護衛目的で、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)と、ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)が訪れていた。
 東の塔の中に収容されている遺体もあったが、敵の残骸に埋もれている遺体もある。
「一旦、東の塔に集めて、それからまとめて北に運ぼう」
「了解。俺達は、北側を探そう」
「私は塔の中と周辺を回ることにする」
 ヴァルとクレアは簡単に相談をした後、手分けして遺体、遺品を探すことにした。
「変わってないな……半年前と」
 戦死したと思われる行方不明者のリストや戦闘記録も参照しながら、クレアは東の塔周辺を探し始める。
 深い傷であっても、魔法の力で治すことはできる。
 それが叶わず、戦場で果てた者達の遺体が……悲惨な状態である可能性があることを、クレアは軍人として理解していた。
「『死体』といえるほどの部分が残っていないことすら、少なくはないものだが……」
 ただ、ここでの戦いには、爆薬はほとんど使われていない。
 だから、クレアが発見した数人の遺体は、いずれも人の姿をしていた。……肉体の一部を失っている者もいたけれど。
「家族の元へ、帰ろう」
 クレアは遺体を抱え上げて、まずは東の塔へと運んでいく。
 地上に、彼らを待っている人達がいる。少しでも多くのものを、持ち帰るために。
 リストを確認しながら、探し回るのだった。

 ヴァルは光の箒に乗って低空飛行し、使用人居住区から、東の塔の辺り――激しい戦闘が行われていた辺りを探して回っていた。
「動いている兵器があります。気を付けて下さい」
 キリカはヴァルの護衛としてついて回っていた。
 亡骸があまりにも多い場所だ。
「こんなところに、いたのか」
 その中に埋もれている人の遺体を探し出して、ヴァルは運び上げる。
 足を破壊された人造兵器が、仲間の体の一部である、石に手を伸ばした。
 瞬間に、キリカが忘却の槍で、その人造兵器の胸を貫いて、破壊する。
「……」
 ヴァルは1人の遺体を無言で抱え上げ、続いて近くにあった、遺体の一部を持ち上げて。
 さらに、その近くの、大きく開いた目を空……いや、地上のヴァイシャリーに向けている遺体に近づいて、瞼を閉じさせた。
 そのまま、ヴァルは少し佇んでいた。
「……想うものは、あまりに多い」
 キリカがそっと声をかけていく。
「それでも、今は出来うることの最大限をやり遂げるべきです。彼らに引きずられないで下さい」
「……ああ」
 小さく答えて、ヴァルはもう一人の遺体を抱え上げる。
「彼らを追うのではなく、彼らが目指したところを目指してください」
 亡くなった彼らに引きずられず、追わず、彼らが目指した、ヴァイシャリーの、引いてはシャンバラの平和を目指して欲しいと、キリカは思いを伝えていく。
「わかってる」
 静かな声で、ヴァルが答えた。
「ええ。……帝王ならば、それができる筈です」
 キリカの言葉に、ヴァルは無言で首を縦に振った。
 そして、2人の体を抱えて、東の塔へと一旦戻っていく。

「まさか再びここに訪れることになるとは……」
 ナナは感慨深げに周辺を見回していた。
 激しい戦闘の跡が、生々しく残っている。
 薄れていた記憶が、鮮明になっていく。
「あの時は色々あったけど、今回は平穏無事に終わるといいなぁ」
 ズィーベンのそんな呟きに、ナナは深く頷く。
 地下道での戦い、御堂晴海の裏切、光条兵器使いとの戦い。
 苦しい思い出ばかりだった。
「感傷に浸っている場合じゃありませんね。時間の猶予はないですから、迅速に行いましょう」
 ナナは気を引き締めて光る箒に乗り、上空からクレアやヴァル、北方面にいる皆の様子と、稼働している兵器の状態に気を配る。
「動きは止まっているのばかりだけど……ちゃんとやっつけておいた方がいいよね」
 同じく、光る箒で飛びながら、ズィーベンがナナに問いかける。
 いくつかの人造兵器は、足や体の一部を破壊され、動き回ることは出来なくなっているが、稼働はしている状態だった。
 武器になりそうなものを掴んで、契約者を狙おうとしている兵器の姿もある。
 東の塔――クレアの方に、遠距離攻撃を仕掛けようとした敵兵器の元に、ナナが飛び降りていく。
「はあっ!」
 そして朝露の顆気で闘気を籠らせた踵を叩き込んで、破壊した。
「こっちの兵器も壊しておくよ」
 ズィーベンは凍てつく炎を放って、倒れて動けずにいる兵器を完全に停止させる。
 いつかまた、誰かがこの地に下りた時に、この兵器達に傷つけられることがないよう。
 もしくは、この地が浮上した際に、地上に住まう人々に、危害が及ぶことのないように。
「あの辺り一帯に、随分と集まっているようです。既に停止している物も多いでしょうが、出来るだけ細かく砕いておきましょう。修理も回復もでにないように」
「そうだね」
 ナナとズィーベンは人造兵器が集まってる場所に飛んでいく。
 すでにクレアが調べたその場所には、体の一部を破壊され、まともに動けずにいる人造兵器や、そういった兵器に躓いて、転倒したまま動けずにいる兵器の姿があった。
「こっちですよ」
 ナナは、動ける兵器の気を引いて、その場所へと近づけさせる。
「おやすみ……」
 集まった兵器達に、ズィーベンがファイアストームを放つ。
 激しい炎が、人の形の兵器達を燃やしていく。
「このままにしておけません……」
 それでも、完全に停止しない兵器には、ナナが拳を叩き込んで、四肢をバラバラにしていくのだった。

「そろそろ、北の塔への運搬を頼めるか?」
 クレアが、東の塔から付近にいる者達に呼びかける。
 乗り物を利用すれば、北の塔までは数分とかからない距離だ。
「全員、揃ったか?」
 ヴァルとキリカが遺品である、銃を持って戻って来た。
「こちらも、ヴァイシャリー軍のものですよね」
 ナナも、遺品かどうかはわからないが、軍人が使っていたと思われる盾を持って戻る。
「まだ2人ほど見つかっていないが、私が付近を探索して連れていこう。大変だとは思うが、彼らを北の塔へ運んでほしい」
 東の塔に収容された遺体は、十数体。
 乗り物で持ち込めたのは、ヴァルやナナ達が持ってきた魔法の箒だけだった。遺体を乗せる場所はないため、担いで乗せて、地上からの攻撃に注意しつつ、運ばなければならない。
「遺体は俺達が運ぼう。君達は、警戒と物品を頼む」
「わかりました」
 ヴァルの提案にナナは頷いて、持ってきた大きな鞄の中に、地上から持ち込まれた物、亡くなった軍人たちの遺品を入れていく。
「……」
 ヴァルは、床に膝をついて、寝かされている冷たい軍人の手をとって、しっかりと握った。
(君たちはすべきことを行い、そして斃れた。赦しは乞わない。しかし後悔はさせない。だから、安らかに眠ってくれ)
 腕を引いて、起こしていき、彼らを背負っていく。
 それをそっと手伝い、傍でサポートしてくれるパートナーに対しても感謝の念を抱く。
 何があっても、落ちることのないよう背負った遺体を体に括り付けた後、ヴァルは東塔の中に残る軍人達に「もう少し、待っていてくれ」と、声をかけた。
「行きましょう。彼らの想いが向かう先に」
 キリカのその言葉に、無言で頷いて、共に北の塔へと飛んでいく。
「それでは、一旦離れますね。注意してくださいね。クレアさんなら、大丈夫だと思いますけれど」
「ありがとう」
 ナナはクレアに声をかけた後、ズィーベンと一緒に、ヴァル達の後を追っていく。
「あと2人……出来うる限り、地上に帰してやりたいものだ」
 クレアは当時の記憶を呼び起こし、リストを手に再び悲惨な現場へと捜索に向かうのだった。